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赤坂アカ × 横槍メンゴ『推しの子』は2020年を代表する漫画に? セオリー破りな第1話の衝撃

リアルサウンド

20/4/28(火) 15:00

※本稿では第1話の展開について少なからず触れています(筆者)

 もしかしたら2020年を代表する漫画のひとつになるかもしれない――そんな予感を抱かせてくれる斬新な作品が4月23日発売の『週刊ヤングジャンプ 21号』で始まった。『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の赤坂アカが原作(Story)、『クズの本懐』の横槍メンゴが作画(Art)を務める『推しの子』である。なお、赤坂は同誌でいまも『かぐや様~』を連載中であり、表紙や本編のアオリでも書かれているように、“2作品同時週刊連載”を当面のあいだこなしていくことになる。

参考:『鬼滅の刃』善逸は極めて「ジャンプ的」なヒーロー 二重人格の“黄色い少年”の強みとは?

■もし芸能人の子供に生まれたら?

 さて、その『推しの子』の冒頭は、ルビーとアクアというふたりのアイドル(男女ユニット?)がスタジオに入っていく様子に、次のようなモノローグを被せて始まる。

“もし芸能人の子供に
生まれていたらと
考えた事はある?”

“容姿やコネクションを
生まれた時から
持ち合わせていたらと”

“この芸能界(せかい)への
チケットが
初めから
その手に
あったなら”

 そしてそれに続く見開きのトビラ(タイトルページ)では、着飾ったアイドルの少女が笑顔を見せながら歌っている“決め”のカットが大きく描かれているのだが、このメインビジュアルの少女は、実は冒頭に出てきたアイドルではない。さらにいえば、このトビラの見開きではタイトルの本当の意味も含め、いきなりある種の“謎解き”が描かれているのだが、それは当然、初読の段階では、読者には何もわからないように描かれている。

 主人公の名は、ゴロー。産婦人科医である彼はあるとき、アイドルグループ「B小町」の絶対的エース、アイの担当医となる。どうしていまをときめくアイドルが産婦人科を訪れたのかについては、ご察しいただきたいというほかないが(まあ、ご想像のとおりである)、実はこのゴローは、研修医時代に担当していたさりなという少女(アイのファンで、のちに病気で夭折した)からの影響もあって、いまはアイのファン、つまり、彼女を「推し」ているのだった。そんな「推しの子」がいきなり目の前に現れたらどうする? そして、ファンである気持ちと医師としての気持ちに折り合いをつけられるのか? というそれだけでも充分おもしろいラブコメが1本描けそうな展開だが、赤坂アカと横槍メンゴというふたりの鬼才は、その青年医師の心の葛藤をひととおり描いたうえで、物語を一度ひっくり返す。

 第1話の終盤、ゴローはいきなり暴漢に襲われ、世界は暗転する。そしてそこで再び、冒頭のモノローグが繰り返されるのだ。「もし芸能人の子供に生まれたらと考えた事はある?」。このあとで何が起きたのかはここでは詳しくは書かないが、衝撃的な展開とともに、読者は『推しの子』というタイトルが秀逸なダブルミーニングであったことをこの段階で知らされるのだった。赤坂アカ、恐るべし。横槍メンゴ、恐るべし。

■2話目の予想がまったくできない展開

 ちなみに私は20代の頃、某週刊青年漫画誌の編集者だったのだが、当時、徹底的に仕込まれたことのひとつが、「1話目でそれがどういう物語なのかわからない漫画はダメだ」ということだった。つまり、主人公が誰で、彼(ないし彼女)がその物語において何を成し遂げようとしているのかが1話目で明確になっていないと、読者がついてこられないというわけだ。そういう意味では、「引き」のインパクトは充分あるものの、2話目以降の展開がまったく予想できない、そして、主人公の目的や目標がほとんどわからない本作の評価は落第点なわけだが、しかし、この第1話を読んで「次」を読みたいと思わない漫画ファンはまずいないだろう。そう、それくらい、『推しの子』という漫画にはセオリー通りではない破格のおもしろさがある。今後も「推し」ていきたいと思う。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。

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