Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

立川直樹のエンタテインメント探偵

東京都写真美術館で観た3つの展覧会。パワーや情熱は相当なものだった!

毎月連載

第36回

『イメージの洞窟  意識の源を探る』ゲルハルト・リヒター 《MV.6》〈Museum Visit〉より 2011年 発色現像方式印画にエナメル 東京都写真美術館蔵  (C)Gerhard Richter, courtesy Wako Works of Art

前回の最後に予告めいたことを書いたが、9月30日に東京都写真美術館で観た3つの展覧会のパワーは相当なものだった。「洞窟」という視座から、現実と写真、歴史・社会と身体・存在をとらえなおし、現代から未来へつなぐ「像・イメージ」を再考しようという試みを形にした『イメージの洞窟  意識の源を探る』展の特別鑑賞会に出かけた際に、他のフロアで開催中の『TOPコレクション イメージを読む 写真の時間』と『しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像  1970年代から現在へ』展を一挙に観ることができたのだが、8月に大阪・堂島リバーフォーラムで開催されていた『シネマの芸術学』にも作品が出品されていたフィオナ・タン、ゲルハルト・リヒターに、北野謙、志賀理江子、オサム・ジェームス・中川という作家が加わって会場を埋めた作品は、それぞれが微妙に絡み合って実に不思議な空間を作り出していたし、その一体感はウジェーヌ・アジェやロバート・キャパ、ウィリアム・クライン、シンディ・シャーマン、ジョナス・メカス、杉本博司、奈良原一高、森山大道……といった写真史に輝ける足跡を残している作家の作品を、東京都写真美術館の3万5千点を超えるコレクションの中から選び抜き、構成した『…写真の時間』からも感じとれた。

『TOPコレクション イメージを読む 写真の時間』
米田知子 《安部公房の眼鏡―『箱男』の原稿を見る》〈Between Visible and Invisible〉より 2013年 東京都写真美術館蔵

日本・ポーランド国交樹立100周年を記念して、東欧の文化大国ポーランドの同時代美術を、女性作家と映像表現のあり方に注目して紹介しようという『しなやかな闘い…』もまたひとつ趣きが違って、物を作る、表現するというパワーや情熱を感じることができて興味深かったが、本当にこういう時には時間がもっとあればよかったのにと心から思ってしまうのである。

気持ちの良い酔いに包まれた石川県『ほうらい祭り』、ブルース歌手・近藤房之助の“JIROKICHI”でのライヴ

『ほうらい祭り』(写真提供:白山市観光連盟)

そして、時間と言えば、完全に時の経つのを忘れ、自分がいつの時代にいるのかわからなくなってしまうほどマジカルなところに連れていかれてしまったのが、10月5日と6日の2日間、石川県の白山市鶴来日詰町の金劔宮の秋季祭『ほうらい祭り』だった。白装束の担ぎ手の男衆が威勢よく掛け声をかけ、地区内のお祓所を目指す神輿と、神輿の露払い後で、獅子退治を演じる獅子方の動きも完全にパフォーマンスとして一級のもので、それを若い人たちが中心にやっているところがとてもいい。また全国的にお祭りが観光化され、いろいろと規制が厳しくなっているのに対して、『ほうらい祭り』は観光化とは無縁で“よばれ”という風習で無礼講で旧家で酒がふるまわれたり、露店商の数もハンパではなく、夜遅くまで若い女の子が2、3人と道端で飲食している姿など、町の人たちが自分たちのために祭りを作って楽しみ、日本の原風景を見ることができたのである。

とりわけ、2日目の巡行で、夜の10時過ぎに神輿が金劔宮に帰っていく時の儀式と神秘的な光景は忘れ難いもの。気持良い酔いが全身をすっぽりと包み込んでいた。

近藤房之助

その気持ちの良い酔いは3日後、高円寺の老舗ライブハウス“JIROKICHI”で近藤房之助のライヴを観ている時にも再びやってきた。名曲『ストーミー・マンデー』で幕を開けたライヴは、ブルースがここまで見事なエンタテインメントになりうるのだと思えるほど素晴しいもの。キーボードのYancyとドラムスの宮川剛に加えて、近藤房之助が「呼ばないのにやってきた」と笑いながら紹介した若いハーモニカ奏者、ヨシト(清野美土)に師匠格のKOTEZも曲によっては加わり展開された2部構成のステージは、「日本より海外のドサ回りが多かった」という話が示すように完全にインターナショナルなレベルに達していて、達者な歌とギター・プレイに加えて、ひとつの曲になっているようにも感じられるMCが完璧に融け合って“近藤房之助ワールド”が出現したのである。

こんな凄いもの、見事なものが小さなライヴハウスで観られたのは本当に驚き。近藤房之助はサシでオーティス・ラッシュからブルースの手ほどきを受けた話もしていたが、横綱相撲のような所作と展開は“ブルースの神様”B.B.キングのライヴに通じるところもあって安心して身を委せられ、4人でワインを3本もスルッとあけてしまった。久しぶりに追っかけが始まりそうだ。

作品紹介

『イメージの洞窟  意識の源を探る』

会期:2019年10月1日~11月24日
会場:東京都写真美術館

『TOPコレクション イメージを読む 写真の時間』

会期:2019年8月10日~11月4日
会場:東京都写真美術館

『しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像  1970年代から現在へ』

会期:2019年8月14日~10月14日
会場:東京都写真美術館

『ほうらい祭り』

日程:2019年10月5日~6日
会場:石川県鶴来市街地

『近藤房之助LIVE 2019 ~Anytime Anyplace~』

日程:2019年10月9日
会場:高円寺JIROKICHI
出演:近藤房之助(Vo&G)/宮川剛(Dr)/Yancy(Key)

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

アプリで読む