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村上虹郎の台詞に強いテーマを反映 『この世界の片隅に』が描く狂った戦争の中にある“普通”

リアルサウンド

18/8/13(月) 6:00

 昭和19年の12月。呉の北條家に、すず(松本穂香)の幼なじみで海兵団に入隊した水原(村上虹郎)が“入湯上陸”として訪ねてくる。アニメ映画版でもとくに人気の高いこのエピソードがひとつの軸として描かれ、戦争の足音が着々と大きくなりはじめてきた8月12日放送のTBS系列日曜劇場『この世界の片隅に』の第5話。

参考:第5話に登場した香川京子【写真】

 「ここに泊めるわけにはいかない」と、納屋の2階に水原の寝床を用意した周作(松坂桃李)は、「もう会えんかもしれん」とすずにアンカを持たせて2人きりにさせる。すずを外に出して玄関の鍵を締めるところや、1人部屋でなかなか寝付けないでいる周作の表情を映していたりと、この一連のシークエンスに原作やアニメ映画版とはどこか異なるニュアンスを感じ取ることができよう。

 とりわけ納屋の2階でのすずと水原のやり取りで発せられる「あの人が腹立たしい」という言葉の持つ意味が、より複雑なものとして映る。それは周作がすずの前に結婚を考えていたリンの存在に、すずが悩んでいる様が描かれてきたからに他ならない。兄の遺骨のくだりののち、呉に帰る汽車の中での2人の喧嘩シーンでも、すずは周作から「言いたいことあるんか?」と訊ねられるまで言い出せなかったこととも重なる。

 とはいえ、納屋での水原の台詞の数々は、この物語の持つテーマが強く反映され、とても重みのある言葉になっている。戦争の不条理さ、若くして死を覚悟しなくてはならなかった時代の辛さ。「普通であってくれ」とすずに語りかける水原は、狂った戦争の中で“普通”であり続けたいと願う、いたって“普通”の若者であったのだろう。では“普通”とは何か。それは人前でも感情をあらわにして喧嘩したり、笑ったり、風邪を引いてザボンをねだったりといった、主人公たちと北條の家族たちの光景そのものなのだろう。

 さて、先週は登場しなかった現代パートが今週は最後の最後で登場し、あれから73年が経った現代の広島、そして「原爆ドーム」が映し出される。そこで榮倉奈々演じる佳代の前に現れる“北條家の所有者”を演じているのは『ひめゆりの塔』や『東京物語』に出演した日本映画界のレジェンド的存在である香川京子だ。彼女がTBS系の連ドラに出演するのは実に21年ぶりのことだそうだ。

 「北條です」と挨拶する彼女が演じている役柄に、様々な憶測が早くも飛び交っている。現在86歳の香川の年齢から考えても、現代のすずさんではないかという憶測も可能ではあるが、最初の登場シーンで右手が印象的に映し出されたあたり(原作通りなら、今後の物語に関わるので深くは言えないところではあるが)違うのであろう。役名は“節子”だそうで、まだその名前は劇中に登場していない。もしかすると、アニメ映画版のクライマックスに登場した少女の可能性が一番高いかもしれない。(久保田和馬)

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