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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『国家が破産する日』

リアルサウンド

19/11/8(金) 15:00

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、競馬では三連単を買う島田が『国家が破産する日』をプッシュします。

参考:国家破産までのカウントダウンが始まる 『国家が破産する日』ポスター&予告編公開

 『パラサイト』も話題の韓国映画業界。こちらの『国家が破産する日』も『パラサイト』との同時代性を感じさせる、非常に濃厚な映画です。『これは経費で落ちません!』(NHK総合)、『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)など、国内ドラマでは「お仕事モノ」が人気な印象がありますが、本作もある種そうした流れからも楽しめる作品だと思います。単純にこんな風に、当時の韓国政府が動いていたのかというのも感じられて面白いです。

 本作は、1997年の韓国で起きたIMF危機の7日間を描いています。韓国は当時とても好景気で、欧米企業から投資を受けて上り調子。と思いきや、外貨であり、かつ大企業から中小企業にそのお金を流すという自国のサイクルで成り立っていたが故にそれを返済する手立てを持たない。つまり、欧米からのお金がなくなれば、国内の経済が崩壊するということ。その崩壊までのカウントダウンが残り7日と判明することからストーリーが始まります。

 面白いのが、この国家破産の危機をどう乗り切るかという戦略的な交渉に止まらず、その国家破産で得をする人もいるということです。国家破産というメイントピックを軸にその周囲に様々な国民が配置され、群像劇としても、そして経済のダイナミクスさも楽しむことができるんです。

 主な登場人物は、1人目が、韓国銀行の通貨対策チーム長のハン・シヒョン(キム・ヘス)。国家破産の危機にいち早く気づき、それを食い止めようとする主人公です。そして、その敵役にあたるのが財政局次官パク・デヨン(チョ・ウジン)。デヨンは、大統領選挙が控えていることを理由に、国家破産の危機を国民には内密にします。なんなら、彼はこのまま自国の破産を望んでいるのです。さらにそうした政府間での腹の探り合いとは別に韓国国民の姿も描かれます。

 『バーニング 劇場版』でも異様な存在感を示したユ・アイン演じる金融コンサルタントのユン・ジョンハクは、中小企業の手形不渡りや給料未払いの頻出から国家破産の可能性にいち早く気づき、その国家破産を活かした不動産投資で一山当てようとします。また、食器工場経営者・ガプス(ホ・ジュノ)はいわゆる労働者として描かれます。内密にされている国家破産の危機を知る由もなく、百貨店からの急な大量注文を素直に喜び、現金取引の原則を曲げて手形決済という条件を受け入れてしまいます。それが何を意味するかは明らかです……。この2人もある場面で繋がるのです。

 さらに海外からも登場人物が。ヴァンサン・カッセル演じるアメリカ人のIMF専務理事です。韓国はIMFに支援を求めますが、この専務は支援の代わりに中小企業の倒産や大量解雇、韓国企業の株を所有する限度額の引き上げなど過酷な支援条件を提示します。そうすることによってアメリカは韓国の大企業からの利益を得ることができるようになるんです。

 国家破産で得をする人、損をする人……経済におけるあらゆる人の動きと思惑が一望できます。そしてそこからは、確実に存在する<情報・経済>格差社会で生活する人(それは自然と現代の私たち鑑賞者をも映し出します。人はなかなか変われないということでしょうか……)の姿が自ずと浮かび上がります。

 そこに、通貨対策チームはタイムリミット内に様々な思惑を切り抜け、国家破産を回避できるかというサスペンス要素も加わってくる。にしても、お金って奥深いものです。正義のために行動できる人は、本作においてとても少ないです。自分が得できるなら、そっちに行きたい、あっち側には行きたくない……というのは私たちにも当てはまる行動パターンです。

 当時のことや経済の前提知識がなくても、極上のエンターテインメントとして引き込まれること間違いなしの本作。ぜひ、充実の一途を辿る韓国社会派映画の先端として観てみてはいかがでしょうか。 (文=島田怜於)

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