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東京JAZZの歴史と意義を実感 『TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM』を振り返る

リアルサウンド

20/6/6(土) 12:00

 オンライン音楽フェスティバル『TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM』が5月23日、24日の2日間にわたって行われた。新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となった『TOKYO JAZZ +plus』に出演予定だったアーティスト、これまで東京JAZZに出演したアーティストなど、総勢30組以上が登場。さらに2002年からスタートした東京JAZZの名演奏が紹介されるなど、国内最大級のジャズフェスの魅力を堪能できる内容となった。

5月23日(土)

 『TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM』のトップを飾ったのは、日本を代表するジャズピアニスト小曽根真。4月26日から配信ライブ「Welcome to Our Living Room」を続けている小曽根。この日はエリック・ミヤシロとともにオンラインのビッグバンド編成で「No Strings Attached」を演奏し、イベントの開幕を華やかに彩った。

小曽根真 featuring No Name Horses  (c)TOKYO JAZZ FESTIVAL

 さらにチック・コリア「Mirror, Mirror」、渡辺貞夫「花は咲く」とレジェンドの演奏が続いた後、上原ひろみが登場し、最新アルバム『Spectrum』収録曲「カレイドスコープ」を披露。正確なビートを刻む左手、奔放なメロディを描く右手のバランス、音色に込められたニュアンスの表現が素晴らしく、3万人に迫る視聴者からも「1本1本の指に別の人格があるよう」など絶賛コメントが送られた。また、「このような状況になり改めて気づいたことがあります。やっぱり私は生のライブが最高に好きだなということです。今の時代、音楽は配信や動画など、インターネットで簡単に自宅でも楽しめるようになりました。でも私は同じ空間で、人のエネルギーを感じてライブをしたいです」というメッセージも印象的だった。さらに上原は、ジョシュア・レッドマン(Sax)とともに「この素晴らしき世界」を演奏。この日だけの貴重なセッションが実現した。

小曽根真、セレイナ・アン、ハリー杉山  (c)TOKYO JAZZ FESTIVAL

 中盤では、コロナ禍により亡くなった伝説的ジャズミュージシャン、リー・コニッツ、ウォレス・ルーニー、エリス・マルサリスの功績を紹介。ウォレスと交流があった渡辺貞夫からの追悼メッセージ、そして、エリスと親交を結んでいた小曽根による追悼演奏を行い、大きな感動を生み出した。

 ミシェル・カミロのラテンの匂いをたっぷり感じさせるピアノ演奏、H ZETTRIOによる遊び心に溢れたセッションなど、後半も魅力的なシーンが続いた。初日のもっとも大きなハイライトは、ハービー・ハンコックを特集したコーナー。東京JAZZの過去8回の出演(!)のなかから、ロバート・グラスパーとの共演が実現した2018年、レイラ・ハサウェイが参加した2016年のステージなどをハイライトで紹介した後、“挾間美帆 m_unit”によるハービー・ハンコックの名作「Maiden Voyage」のメドレー演奏へ。ストリングス、ホーン、ドラム、ベース、そして、スペシャルゲストのリオーネル・ルエケ(Gt)などによるビッグバンド編成で「Maiden Voyage」「The Eye Of The Hurricane」「Dolphin Dance」の3曲をつなぎ、ジャズ史に名を刻む名作の世界を豊かに表現してみせた。リモート演奏とは思えない完成度の高さ、参加ミュージシャンが画面上で交流する映像も秀逸だった。このアルバムについて挾間は「アルバム一つで大きな物語を描いた、音楽の叙情詩ですね」とコメント。この日のパフォーマンスに関しては、「音、見た目を含めて、ネット上で見せる価値があるのもができたらいいなという気持ちが強かったです」と語った。

5月24日(日)

 2日目は、平原綾香のパフォーマンスから。『TOKYO JAZZ +plus』で同フェス初出演となる予定だった平原は、父親の平原まこと(Sax)をはじめとする凄腕ミュージシャンとともに、「チュニジアの夜(A Night in Tunisia)」を披露。華麗なスキャットから重厚な低音を交えたボーカルを響かせた。さらに「Feels Like Home」では、平原自身が紡いだ日本語の歌詞を乗せ、温かさとやさしさに満ちたメッセージを届けた。

平原綾香  (c)TOKYO JAZZ FESTIVAL

 この日は、現代のジャズが持っている多様性、先鋭性、可能性を感じられるアクトを堪能することができた。fox capture planはポストロック的なテイストを取り入れた演奏で現代的なジャズの在り方を表現し、ミシェル・ンデゲオチェロはTLCの「Waterfalls」を洗練されたアレンジでカバー。さらに、意外性に溢れたコラボレーションが次々と実現。まずはmabanua(Dr/Ovall)が登場。気鋭のシンガーソングライター・Ruri Matsumuraとのセッションによる「SWIPE」(Ovall×Ruri Matsumura)、さらにOvall×Gotch名義の「Stay Inside」も。「弱音を吐いたっていい」「この状況を乗り切って、また会おう」というメッセージが込められたこの曲もまた、今の状況でしか生まれ得なかった楽曲だ。「ミュージシャンは逆境に強い。こういう行動を起こすのが、ミュージシャンであり、アーティストだと思います」というmabanuaのコメントも心に残った。

 ジャンルの枠を超えた音楽を発信し続けるTRI4THは、フランスのジャズフェス「Jazz à Vienne」とのコラボ企画として女性シンガー、チャイナ・モーゼスとの遠隔セッションを披露。官能的なボーカルとシックな演奏で視聴者を惹き付けた。さらに“やのとあがつま”(矢野顕子、上妻宏光によるユニット)も。演奏されたのは、富山に伝わる民謡「こきりこ節」。ジャズをルーツに持つ矢野、津軽三味線奏者として世界的に知られる上妻、さらに電子音楽家の深澤秀行のセッションは、完全にジャンルを超越。トラディショナルな音楽と優れた演奏能力、最新鋭のトラックが融合した刺激的なパフォーマンスだった。(矢野さんの部屋にあった、ヒグチユウコの猫クッションもかわいかったです)

 この日、もっとも大きなインパクトを感じたコラボは、小田朋美×中山晃子。ジャズ、現代音楽などを網羅した音楽性で知られる小田朋美と、即興性を重視したアライブペインティングアーティストの中山晃子は、「最近はまってることは?」「映画を観てますね。最近見たのは『次の朝は他人』『死刑台のエレベーター』……」という会話から流れるようにパフォーマンスへ。エキゾチックな旋律、エレクトロニカと生楽器が混ざり合うサウンド、そして、炭酸水、絵の具、オイルなどを使った流動的なペインティングによる“セッション”が繰り広げられた。

 オーストリアの湖畔で撮影されたバルトロメイ・ビットマン(チェロ×バイオリンのユニット)、驚異の手数と正確なタイム感を併せ持った川口千里(Dr)、アフロキューバンジャズを牽引するロベルト・フォンセカ(キューバを代表する女性シンガー、ダナイ・スレイアスと共演)、GoGo Penguinの過去の名演シーンの後、カザフスタンの大スター、ディマシュ・クダイベルゲンが登場。“6オクターブの貴公子”と称されるディマシュは、カザフスタンの歴史をもとにした楽曲「Samal Tau」、さらに“苦悩する地球人からのSOS”をテーマにした「S.O.S d’un terrien en détresse」を伝統的な楽器ととともに披露。繊細さと力強さを併せ持った歌声を響かせた。また、この日はディマシュの26才の誕生日ということで世界中のファンからのメッセージ映像も公開された。

 最後はアル・ジャロウ、Sly & The Family Stone、バート・バカラックの東京JAZZでの名場面を紹介し、「TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM」は幕を閉じた。現代のジャズの魅力、そして、世界的なジャズフェスとなった東京JAZZの歴史と意義を実感できるイベントだった。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■イベント概要
『TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM』
2020年5月23日(土)、24日(日)
両日 20:00〜22:40(日本時間)
配信 : 東京JAZZ公式YouTubeチャンネルにて無料配信
配信楽曲のアーカイブはこちら

主催 : 東京JAZZ実行委員会(NHK、NHKエンタープライズ、日本経済新聞社)
特別協賛 : 一般財団法人セガサミー文化芸術財団一般財団法人セガサミー文化芸術財団
出演アーティスト : 上原ひろみ、上原ひろみ&ジョシュア・レッドマン、H ZETTRIO、Ovall × Gotch、Ovall × Ruri Matsumura、小曽根真 featuring No Name Horses、
小田朋美×中山晃子、川口千里、ゴーゴー・ペンギン、Still Dreaming with ジョシュア・レッドマン、ロン・マイルス、スコット・コリー & デイヴ・キング、チック・コリア、ティグラン・ハマシアン、ディマシュ・クダイベルゲン、デヴィッド・サンボーン、TRI4TH feat. チャイナ・モーゼス、挾間美帆 m_unit surprising guest リオーネル・ルエケ、バルトロメイ・ビットマン、平原綾香、日野皓正、fox capture plan、ボブ・ジェームス、マイケル・リーグ、マンハッタン・トランスファー、ミシェル・カミロ、ミシェル・ンデゲオチェロ、やのとあがつま(矢野顕子&上妻宏光)、ラリー・カールトン、リー・リトナー、ロベルト・フォンセカ、ダナイ・スアレス ほか

MC : ハリー杉山、セレイナ・アン

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