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それぞれが立場と能力を活かして気候変動に対抗する アメコミヒーローと重なる『気候戦士』の姿

リアルサウンド

19/11/27(水) 12:00

 国連の「気候アクション・サミット2019」で演説し、そのうったえに注目が集まった、スウェーデンの16歳、グレタ・トゥーンベリ。賞賛の声が寄せられた反面、汚染問題の緊急性を訴え続けている彼女に苦言を呈する声が意外なほど多かったことが記憶に新しい。

 「学校へ行け」、「操られている」など、これほどまで非難され、さらに細かい行動や態度に、不特定多数の人々から注文がつけられた最大の要因は、彼女が“10代の女性である”という点だったのではないだろうか。彼女がもしも、男性で中年以上の年代であれば、同じ主張、同じ態度をとっていたとしても、このような激烈な批判は集まらなかったかもしれない。

【写真】『気候戦士 ~クライメート・ウォーリアーズ~』予告編

 しかし、トゥーンベリのような、若い女性の環境活動家は、じつは、それほど珍しい存在ではなくなってきている。ここで紹介する映画『気候戦士 ~クライメート・ウォーリアーズ~』は、年齢や性別の違いなどは関係なく、大気汚染による気候変動に対抗する様々な活動家を紹介し、その考えを伝えていくドキュメンタリー作品である。

 その一人が、若者たちが中心となっている環境保護団体“アース・ガーディアンズ”で活躍する、17歳(撮影当時)の男性ヒップホップ・アーティスト、シューテスカット・マルティネスだ。彼は自分のルーツであるアメリカ先住民などにとって、石油などの化石燃料がコミュニティに及ぼす影響を、国内外を巡ってうったえ、大気汚染対策に関心の薄いアメリカ政府を仲間たちとともに提訴している。

 他にも、子ども時代にシカゴに暮らしたことで、重度のぜん息にかかり、いまも症状に悩まされているという経験から、大気汚染の被害を受けた当事者として、現状に警鐘を鳴らす活動を続けている、デンバー大学の女子学生カイラ・ペックが紹介される。

 また、気候変動について広く知ってもらうためYouTuberとしても活動し、閲覧者に関心を持ってもらうように、ときにはアメコミヒーローのコスプレをするなどの楽しい趣向を凝らしている、遺伝学や気候変動、再生可能エネルギーを研究してきた女性、ジョイレット・ポートロック博士などなど……。

 まさに本作は、一人ひとり、それぞれの立場と能力を活かして活動する人々……“気候戦士(クライメート・ウォーリアーズ)”を、あたかもアベンジャーズなどのアメコミヒーローのように映し出していくのだ。

 大気汚染が気温を上昇させ、異常気象の原因となることが、多くの学者によって指摘されているのは周知の通りだ。このまま事態が推移していけば、人類が未だ体験したことのないレベルの、空気中の二酸化炭素濃度、気温の上昇、海水面の上昇によって、未来は暗いものになってしまうといわれている。活動家たちの多くは、それを回避するために、できるだけ多くの人々に危険性を知ってもらうことを目的の一つにしている。

 大気汚染の主な原因となっているのは、人間の大規模な経済活動だ。本編にも登場している、本作の監督カール・A・フェヒナーは、“持続可能な社会”を実現するために、いまだ化石燃料のエネルギーに頼る社会の変革を強くうったえている。発明家の男性エディ・クラウスは本作で、「自分の孫に、なぜこんな社会になってしまったのかを説明できないのは嫌だ」と、農業からの廃物を利用して発電を行うという、具体的なエネルギー活用のサイクルを作ろうとする。

 このようなアクションに対して、異をとなえる人もいる。なかでも代表的なのは、経済界の利益を代表する人々であろう。大気汚染に気を使うことによって、どうしても現在までのビジネスに影響が出ることは否めない。だが、それらの人々が変わらず持続不可能な経済活動を続けていることで、人類全体は自分たちを追い込む深刻な問題を認識しながらも、それを止めることができていないということを、気候戦士たちはうったえる。

 本作で、まさにアベンジャーズの強力な悪役“サノス”のように何度も登場するドナルド・トランプ大統領は、各国に二酸化炭素の排出削減目標を課す“パリ協定”を破棄し、「地球温暖化問題は活動家による嘘だ」と主張している。だがデータ上は地球の二酸化炭素の割合の増加や、温度が上がっていることは事実である。

 大気汚染による温度上昇に懐疑的な人々は日本にも少なくないが、すでにその種の意見は、国際的な場では通用しなくなってきているのが現状だ。本作に登場する、映画スターのアーノルド・シュワルツェネッガーは保守系の共和党を支持してきた人物だが、「党派の問題ではない」と、大気汚染についてドナルド・トランプを激しく糾弾している。

 シュワルツェネッガーは、カリフォルニア州知事だった時代、車や工場などから排出されるガスを汚染物質と認めようとしないアメリカの政府機関を提訴し、何度も裁判で闘って、最終的に勝訴したというエピソードを本作で語っている。

 「車の排気ガスをホースで吸い込んでみなくとも、それが汚染物質だなんてことは誰にでも分かる。なぜわれわれがこんなにも労力を払わなければならなかったのか」……力強くスピーチするシュワルツェネッガーの姿は、まさに彼自身が演じてきた“ヒーロー”であるかのようだ。そして、このような理念を持つ限り、彼も“気候戦士”である。

 本作は、このような“気候戦士”を紹介することで、彼らが様々な背景や考え方、個性を持つ、一人ひとり別個の人々であるという、シンプルな事実を伝えている。だからこそ、その個人個人は、完璧な存在でないことも事実であろう。

 その行状を細かく突っ込んでいけば、シュワルツェネッガーにも様々な埃は出てくるし、本作の演出についても、あまりに気候活動家を英雄視しているという指摘が成り立つはずだ。筆者個人も、本作でヒーローのように紹介されていく、すべての気候戦士に対して、諸手をあげて賛同するという気持ちにはならなかった。だが、それはむしろ当たり前なのではないだろうか。

 環境による被害の少ない持続可能な社会をつくり、未来を明るくしていくことが、彼らの共通の目的だ。国連でのグレタ・トゥーンベリの態度やスピーチの言い回しなどに苦言を呈していても、彼女の掲げる目的そのものに異をとなえる人は少ないはずである。トゥーンベリ自身も、「私のいうことではなく、科学者のいうこと(科学的な事実)に耳を傾けてほしい」と述べているのだ。

 筆者も含め、“完璧さ”からは程遠い人であっても、どんな背景を持っている人であっても、気候戦士と同じ目的を共有することはできる。そして、規模の大小に関わらず、そのための具体的な行動を起こしている瞬間、誰もが未来を救うヒーローになれるはずなのである。本作は、そんな気づきを与えてくれる作品である。

(小野寺系)

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