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真の友達は世界のどこかに必ずいる。ゴールデン・グローブ受賞作『ミッシング・リンク』監督が語る

ぴあ

20/11/12(木) 12:00

『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』 (C)2020 SHANGRILA FILMS LLC.

第77回ゴールデン・グローブ賞でアニメーション映画賞を受賞した『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』が13日(金)から公開になる。本作の脚本と監督を手がけたのは、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』が高評価を集めたクリス・バトラー。世界屈指の制作スタジオ、ライカで活動する彼は、仲間たちとパペットを少しずつ動かして撮影していくストップモーション・アニメーションの技法を駆使して本作を描いているが「僕はストップモーション・アニメ至上主義者じゃない」と言い切る。彼らが目指したのは、アニメの手法のことなど気にならなくなるほど魅力的な映画だ。最高のストーリーとビジュアルで描かれる本作についてバトラー監督に話を聞いた。

バトラー監督が所属するライカは、アメリカの制作スタジオ。3Dプリンタなど最新の技術を用いて制作したパペットをひとコマずつ撮影するストップモーション・アニメーションの手法で『コララインとボタンの魔女 3D』や『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』など数々の名作を生み出してきた。しかし、本作『ミッシング・リンク』で彼らは従来の技法を進化させつつ、CGや2Dアニメの表現、実写映画のテイストを盛り込んでさらに新しい語り口を生み出している。

「アニメファンの僕としては制作の裏側は全部知りたいし、ブルーレイの特典映像だってぜんぶチェックしたいんだけどね」と笑顔で前置きしたバトラー監督は「しかし映画をつくる上では、制作手法を“フェティッシュ化”することと、“良い物語を語ること”の間には一線をひくようにしている」という。「ストップモーション・アニメは制作の裏側がワクワクするからみんな語りたいし、アニメーターも“自分が担当するカットは誰も観たことがないショットにしたい”と思うかもしれない。でも、映画全体から見ると、抑制の効いた動きにした方がいいシーンだってあるんだ。だから監督としては一歩ひいた場所から全体を見るようにしているし、観客が“よくできたパペットだね”じゃなくて“良いキャラクターだね”って言ってもらうことを目指しているんだ」

さらに本作では2Dアニメーションで使われるような表現の様式化や、人間の目の錯覚を利用した奥行きの表現、CGを活用したエフェクトなども組み合わせて、新たなアニメーション表現に挑んでいる。

「脚本や画コンテの段階ではアニメーションではなくて、あくまでも映画の脚本やコンテを書いているんだ。僕は僕はストップモーション・アニメ至上主義者じゃないから、いつだって新しいことは何かできないだろうか?と考えるんだよ」

そこで本作でバトラー監督はこれまで以上に“実写映画のテイスト”を作品に盛り込むことに注力した。「そうだね。そこは追求した部分で、特にアクション表現にはこだわったよ。通常のストップモーション・アニメは脚本ができると、撮影に手間のかかる部分をカットすることがある。でも、今回の映画ではそれをやらなかった。アクションを実写映画みたいに描こうとすると、短いショットを積み上げていくわけだけど、そうなるとたった8コマだけ撮影するために2日間かけてセットを組んで撮影しなければないらない。普通ならそんな労力はかけない。でも、この映画ではその労力をみんなでかけたんだ」

完成した映画を観ると、監督と仲間たちがアクションシーンに時間とアイデアと労力を投じた理由がわかる。本作『ミッシング・リンク』は、未確認生物の発見に人生をかける英国紳士ライオネル・フロスト卿と、彼が米国ワシントンの森で偶然に出会った人間の言葉を話す不思議な生き物“Mr.リンク”の冒険の物語だからだ。ふたりは、リンクの仲間が住んでいるというヒマラヤを目指す大冒険の旅に出かけ、追っ手や様々なトラブルに巻き込まれる中で確かな友情を築いていく。

「この映画と前作『パラノーマン』には共通しているテーマがある」というバトラー監督は「世界のどこかには必ず、自分の真の友達がいるはずだ」と力を込める。「この映画と『パラノーマン』は舞台も物語もまったく違うけど共通項があって、僕の経験だったり、自分の居場所を見つけようとしてきたことに関連があると思うんだ」

死者と話す能力をもつ変わり者の少年が街を守るために奔走する中で奇妙ながら確かな友情を見つけていく『パラノーマン』。助手が逃げ出してもお構いなしで未確認生物の発見に執着する変わり者の英国紳士が謎の生物と冒険する中で真の友情を築いていく『ミッシング・リンク』。両作に共通するキーワードは“エンパシー(共感力/思いやり)”だとバトラー監督は説明する。

「相手を外見だけじゃなくて、内側も含めて理解すること。相手のことを本当に知るためには、その人の立場になってみなければならない、ということ。これを英語では“他人の靴をはく(put oneself in someone's shoes)”って言うんだけど、この映画の中に足跡が何度も登場するのは、そういうことなんだ。いま世界はこんな状況で、僕が暮らしているアメリカも大変で、みなが葛藤している時期だよね? そんな時代に最も大切なのはやはり“エンパシー”だと思う。僕は子供だけじゃなくて、大人の観客にもこのテーマについて考えてみてもらいたいし、僕の次回作でも舞台や題材は変わったとしても、このテーマは描かれるよ」

まだ誰も観たことがない新たな映像と、実写映画とアニメーションを組み合わせたような語り口、時間と労力を惜しみなく投じて描かれるアクションの数々、そして観る者を魅了する共感と友情の物語。『ミッシング・リンク』はクリス・バトラー監督が目指す「映画を観たあとに、観る前よりも“より良い人間”になれる作品」として多くの観客に愛されるはずだ。

『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』
11月13日(金)公開

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