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「FEEL YOUNG」編集部に訊く、漫画を通して伝えたい想い 「理想を描くことで現実世界にも何かしらの影響が返ってくるはず」

リアルサウンド

21/2/27(土) 10:00

 1990年の創刊以降、安野モヨコや岡崎京子、おかざき真里、ヤマシタトモコといった名だたる漫画家たちの作品を世に送り出す祥伝社の漫画雑誌「FEEL YOUNG(フィール・ヤング/以下、フィーヤン)」。宝島社「このマンガがすごい! 2021」オンナ編では、和山やま『女の園の星』が第1位、安野モヨコ『後ハッピーマニア』が第2位を獲得し、フィーヤンの作品が上位を独占。同ムック内の「このマンガ雑誌がすごい!」でも、フィーヤンが1位に輝いた。女性の葛藤や生きづらさを描き、大きな共感を呼んでいる作品も多い。同誌の制作を手がける編集プロダクション、株式会社シュークリームの編集部長・梶川恵氏と、「FEEL YOUNG」担当デスク・神成明音氏に、作品づくりの裏側や漫画を通して今を生きる女性に伝えたいメッセージなどを伺った。(苫とり子)

編集者を目指したきっかけと鮮烈な出会い

――梶川さんと神成さんが漫画の編集者を目指したきっかけを教えてください。

梶川:私は雪国の新潟出身なので冬の天候が悪く、よく学校をサボっちゃうタイプだったんです(笑)。だからどんなに天気が悪くても、仕事に向かえるくらい好きなことを仕事にしようと思って、漫画に携わる編集者という道を選びました。

神成:私は2人姉妹の妹で、元々は4つ上の姉が「りぼん」(集英社)、私が「なかよし」(講談社)をそれぞれ親に買ってもらっていたんです。姉が小5で「りぼん」を卒業した後は、私がどちらの雑誌も買ってもらえるようになったんですが、その時に姉はなぜ漫画を読むことをやめられたんだろう?と強く思ったんですよね。それほど自分が漫画を読むのをやめる姿が想像できず、そのまま大人になりました(笑)。中学生くらいまでは漫画家が夢でしたが、「コマ割りができない」という段階で挫折して、漫画編集者を志すようになりました。

――学生時代はどんな漫画を読まれていましたか?

梶川:小学校時代に「ぴょんぴょん」(小学館)からはじまって「りぼん」&「なかよし」、「マーガレット」(集英社)&「少女コミック」(小学館)、「花とゆめ」&「LaLa」(白泉社)、「週刊少年ジャンプ」(集英社)&「週刊少年サンデー」(小学館)、「Wings」(新書館)……など、少女・少年漫画からちょっと背伸びした作品までジャンル問わず幅広く読んでいました。中学校くらいに入ってBL誌も。その時代の雑誌の作家さんたちには本当に申し訳ないのですが、悪質な子供だったので近くの書店さんでよく立ち読みしていたんです……。定期購読は1年ごとくらいに変わってました。

神成:私は「なかよし」だとCLAMP先生、早稲田ちえ先生、海野つなみ先生、「りぼん」では谷川史子先生、高須賀由枝先生の作品が特に好きでした。高校では「別冊マーガレット」(集英社)を愛読して、河原和音先生の作品にどハマりしていましたね。他には、小学生の頃に母から渡された佐々木倫子先生の『動物のお医者さん』と山岸凉子先生の『日出処の天子』も今なお大好きな作品です! 中学以降は「週刊少年ジャンプ」も読んでいました。

――その中でも編集者として今でも影響を受けている作品はありますか?

神成:私は読者時代から今に至るまでフィーヤンを愛してやまないんですが、そのきっかけとなったのが魚喃キリコ先生とジョージ朝倉先生です。高2の時にお二人の漫画に出会って「この世にこんなおしゃれな漫画があるなんて!」と衝撃を受けたんですよね。そこからおしゃれな漫画読みたさに大判のコミックスを買うようになり、「FEEL YOUNGという雑誌がよく大判のコミックスを出しているんだな」ということにも気付いて。フィーヤンを読むことで出会えたヤマシタトモコ先生や安野モヨコ先生の漫画も、今の自分の好みや指針を作ってくださっています。

梶川:みんなきっかけは似ているんですよね。私も神成と同じように高2で西村しのぶ先生の作品と衝撃的な出会いを果たし、おしゃれでスマートな漫画が読みたいと思って大判のコミックを読み始めたんです。現在の職場にも繋がる方向性を示してくださったという点で、西村先生は命の恩人だなと思っています。高校では安野モヨコ先生の『ハッピーマニア』が流行っていて、毎月フィーヤンでの連載を興奮しながら読んでました。

創刊時からテーマは“フェミニズム”

――お二人がおっしゃるようにフィーヤン作品はどれもおしゃれで、なおかつ女性の葛藤や生きづらさに寄り添う作品を生み出しています。創刊当初から、雑誌としての方向性は定まっていたのでしょうか?

梶川:シュークリームは編集プロダクションで、祥伝社から丸ごとフィーヤンの編集を委託されているのですが、弊社の社長からは創刊当初の時点で“フェミニズム”をテーマに掲げていたと聞いています。

――読者はやはり働き盛りの20〜30代の女性が多いですか?

神成:全体的に読者の年齢が少しずつ上がっている気はしますね。以前は20〜30代前半の女性をターゲットにしていたのですが、離れずに読んでくださっている読者さんも少なくなく、今は30代後半〜40代の方々も厚い購読層になってくださっています。

――どのような感想をいただくことが多いですか?

梶川:「私のことのようだ」という声を届けてくださる方が多い印象です。たとえば、私が担当しているヤマシタトモコ先生の『違国日記』には、自分が抱えている悩みや置かれている環境と重ね、共感したという声や「こんな風に生きていく道を示してくれるなんて」といった感想をいただくこともありますね。

――私自身もフィーヤンで連載されている作品を読むと心がすっと楽になりますし、なぜこんなに私の気持ちをわかってくれるんだろう?と思うほど現実世界とリンクすることが多いです。普段から頻繁に取材なども行っているのでしょうか。

神成:お仕事ものなどは取材をして参考にさせていただくことは多々ありますが、心情的な描写はやはり作家さんの中にテーマがなければ物語にならないんですよね。例えば(2020年)10月に発売された『夢の端々』は作者の須藤佑実先生が「婦人公論」の過去100年の主要トピックをまとめた『百年の女 – 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』(酒井順子/中央公論新社)を読んで、新連載の打ち合わせで「こういうことがやりたい」とお話ししてくださったんです。

――『百年の女』から着想を得ていたんですね。

神成:この分厚い本の中には、日本女性がこの100年をいかに生きてきたかが書かれていて、女性の権利は過去の女性たちが頑張って戦って獲得してきたものなのだと改めて実感できます。創刊当初からかなり長い間、「女性向けの雑誌」を男性だけで作り、「男性が女性を啓蒙する」目的で記事が書かれていますからね……。帯に書かれたキャッチフレーズが凄いんですよ。“「婦人と言えども人である」からの道のり”。ゾッとしますね……。

 『夢の端々』では須藤先生の構成力も素晴らしく、現代から始まり徐々に時代を遡っていくことで、女性ふたりの人生を青春期から最期まで描いてくださいました。「普通の女性」を描くことで時代性が自然と反映されたので、その時々の女性が普遍的に抱えていた問題を通し、現代の女性が獲得した権利や未だ抱える課題が作品を通して見えてくればいいなと思います。

「あのニュースどう思いました?」世間話から生まれるアイデア

――普段から作家さんと時事ネタを踏まえながら、議論を重ねていらっしゃるんでしょうか?

梶川:私は作家さんの考えを掘って潜っていくのが好きなので、まずは作家さんの中にあるテーマや描きたいことを伺って、それを第一の読者として紐解いていきます。物語のキャラクターがこの社会でどうやって生きてるのか想像し合う感じです。

神成:私はよく打ち合わせで、「あのニュースどう思いました?」みたいな世間話として女性の権利に関わる政治的なトピックについて作家さんとお話をしていますね。具体的な時事ネタが漫画に反映されるとも限らないんですが、世間の動きに対して日々互いが思ったことを共有するようにしています。

――そういった社会問題や女性の権利にも切り込んだ作品を世に送り出す上で、表現や描き方で気をつけていることや心がけていることはありますか?

梶川:フィーヤンには女性の編集者しかいないんですが、同じ性別でも育ってきた環境や摂取してきたエンタメもそれぞれ違うじゃないですか。でもみんな会社ではかなり喋りますし、LINEやSlackも「社会のこと」「オタ活」といったトピック毎にグループやチャンネルが細かく分かれているので、普段から考え方や知見を共有する機会が多いんです。

――そこでまずは編集者同士で価値観のすり合わせを行っているんですね。

梶川:漫画の表現で気をつけるべきことは意識的に共有していますね。特に、読者に対して差別や加害、抑圧といったことを無自覚に「仕方ないこと」という印象を植え付けないように気をつけています。社会問題に切り込む上で男女差別が残る会社組織を描いたり、ハラスメントの加害者を登場させたりすることは避けられませんが、それを受けた側が耐えたり受け入れてしまったりするような描写を入れると、ただ読み手に「社会はこういうものだ」という現実を押し付けるだけになってしまう。だからもし理不尽を解決しない描き方をする場合は、読み手が「理不尽だな」とはっきりわかるように描いたほうが良いと思っています。

神成:もちろん実際に男女差別やハラスメントの被害に遭っている方もいらっしゃるので、綺麗事だけを描く必要はないと思うんです。ただ、私たちは“仕方がないこと”として納得して欲しくない。だから編集者や作家さん自身がそのことに無自覚でいらっしゃったら、先の展開について確認を取るようにしています。世の中に発表される前に、私たちが第一の読者として気づいたことは何でもお伝えするというスタンスです。

漫画で“めくるめくときめき”を感じて欲しい

――作家さんの中にも様々な経歴を持った方がいらっしゃると思いますが、編集部としてはどういう方に連載のオファーを出されているのでしょうか。

神成:特には決めておりません。各々が好きな作家さんにオファーを出していて、あまりジャンルを設けないようにしています。基本的には女性が読んで面白ければOK。例えば私は和山やま先生の作品をTwitterで知って、ぜひ連載をご依頼したいと思ったんですが、これまでのフィーヤンのイメージとは異なる作風でしたので最初は梶川に相談したんです。でも「行きなよ!」とあっさりGOが出たので、すぐにご連絡しました(笑)。

梶川:シュークリームはボーイズラブや電子配信少女漫画に、エッセイなども制作しているんですが、フィーヤンとは別の媒体をメインにしているスタッフでも「この作家さんと仕事したい」と動けば連載を立ち上げることはできるんです。だから他の編集者がどこから作家さんを探してくるのかは私たち二人も全然把握できていないほど幅広いものです。

――たくさんの作家さんたちと作品づくりに携わっているお二人が、漫画を通して今の若い読者に伝えたいメッセージはなんですか?

梶川:私は河内遙先生を担当しているのですが、10年前に『夏雪ランデブー』連載時に先生が仰った「これまで自分が少女漫画から受け取った“めくるめくときめき”を読者の方に伝えたい」という言葉にとても感銘を受けたんです。漫画ってページをめくらないと先が読めない展開と、先が読めていたのに思った通りの楽しさをくれる展開があるじゃないですか。どちらにしてもページをめくるたびに感情が溢れ出る。そんな“めくるめくときめき”をさまざまな作品で感じてほしいです。

神成:私は愛してやまない雑誌であるフィーヤンをますます面白くしていきたいというのが一つ。もう一つは、フェミニズムを描く作品をもっと担当したいという目標があります。物語そのものを楽しんでもらうことはもちろん大事ですが、次世代に想いを繋げていきたくて。例えば『夢の端々』で結ばれなかった二人の女性は、どうすれば共に生きていけたのか、どんな世界だったら結ばれたのか……など、改めて考えていただければ。またこれは『ジェンダーレス男子に愛されています。』(ためこう)で考えていることなんですが、ジェンダーレスな格好をしている男の子を揶揄する人間を作品の中で絶対に出したくないんです。たとえ夢物語に思えるようなことでも、そういう世界を作るために理想を描く必要がありますし、理想を描くことで現実世界にも何かしらの影響が返ってくるはずだと思っています。

――個人的には、ターゲット層とは少し異なる10代の女性や男性にもぜひフィーヤンの作品を読んでほしいと思いました。

梶川:やっぱり時代の変化に伴い、時々【女性漫画】という言い方に違和感を帯びる場面が増えてきているなと思います。恐竜好きの研究室ラブコメ「アヤメくんののんびり肉食日誌」(町 麻衣)は男性の読者さんも多いですし、「違国日記」は「多様性」をテーマの1つとして持っている作品で、【女性漫画】という表記も別の言葉に言い換えられないものかと思うことはあります。ただ読み手からすると、ジャンル分けされている方が手に取りやすいですし、ボーダレスにすると逆にどこから読んでいいものか分からず困惑すると思うんですよね。ある程度ターゲットを絞る方がソリッドな面が作中に出やすい。だからこそ、難しい問題だと思います。

“いま”読んで欲しい担当作品

――最後に、お二人が担当されている作品のおすすめポイントを教えてください!

梶川:おかざき真里先生の『かしましめし』をおすすめさせてください。「サプリ」は広告会社を舞台に「働くこと」と「恋愛」が濃密に描かれ、働く女性として励まされる作品でした。そこからダブルワークを描いた「&」を経て、現在の「かしましめし」に至るわけですが、こちらは大学の元・同級生の社会人男女3人のルームシェアものです。彼らが作って食べているごはんが、本当に美味しそうでとてもお腹がすくのですが、読み進めていくうちに、「自分を息ができる場所って大事だ」って感じさせてくれるんです。誰しも会社や学校などで厳しい状況になることはあると思うんですが、そこで立ち向かい続けるばかりがすべてではなく、安心できる場所を持つことに目を向けさせてくれます。社会で働くさまざまな人々を肯定してくれるような、ほっとする作品です。

神成:私は、まず池辺葵先生の『ブランチライン』から。池辺先生はこれまでも作品を通してあらゆる立場の女性を肯定してこられたのですが、今作も四姉妹とその母親が登場し、年齢から、既婚未婚・子供の有無などバラバラな5人の、精神的に豊かな暮らしを描きながらすべての女性の生き方を肯定してくださっています。また、彼女たちはシングルマザーである長女の一人息子を共に育て上げた女性たちなんですが、帯にも描いたように本作は「罪悪感」がテーマのひとつで、人を育てること、他者に影響を与えずには生きられない大人としての責任が描かれています。私自身も、池辺さんの描かれる世界に触れて次世代に影響を与える者としての責任を改めて実感しました。

梶川:もうひとつ、テレビドラマ化もされたかわかみじゅんこ先生の『中学聖日記』をおすすめしたいです。主人公・黒岩少年と担任教師・聖の恋というテーマで知られている作品ですが、物語の中身はどこまでも真摯です。純粋すぎる少年が担任教師に恋心をぶつけ続けたら、彼女は大人なのに「応えてしまった」。大人としての責任が問われる今の社会と真っ向から対立する物語だと思います。でも道をはみ出てしまった大人が、責任を取りながら恋心をどうやって抱えていくか、という難しいストーリーが丁寧に描かれていて毎話胸が締めつけられます。そして、透明感のある繊細な絵が美しい……! 原稿を受け取るたびに、日常の嫌なことが溶けてしまうような感覚になる、素晴らしい美しさです。

神成:最後に、1月に1巻が発売されたねむようこ先生の『こっち向いてよ向井くん』。ねむ先生は恋愛漫画の名手ですが、ご自身は妊娠・出産を経て「恋愛が遠くなってしまった」と感じていらっしゃったようで。新連載の打ち合わせでも、もはや若い世代の恋愛事情がわからないと仰っていたんですが、今回は「男女の恋愛観のすれ違いは何で生じるのか」をテーマに、主人公の向井くんがたくさんフラれる作品を連載することになりました。

――向井くん、イケメンなのにフラれてしまうんですね。

神成:そうなんです(笑)。向井くんは善良でまともな人間だし、お顔も可愛いんですよ。恋愛的に見なければ特に何か問題あるようには思えないんですが、恋愛に関しては女性から見て「こういうところが嫌!」とはっきり分かる一面があって。注目してほしいのは、冒頭で向井くんが元カノに言った「美和子のことずっと守ってあげたい」という言葉。ここで、向井くんは元カノにフラれてしまうんです。

――「守ってあげたい」って、確かに男性が言いがちなセリフですよね(笑)。なんとなく向井くんの元カノが引っかかってしまうのもわかります。

神成:わかっていただけて、よかった(笑)! やっぱり嫌ですよね。現代の女性は男性に対して、“男性らしさ”を求めていないじゃないですか。彼らにも早くそのことに気づいて、男性らしさから解放されてほしいという思いがあります。

――向井くんのセリフひとつで、彼がフラれる理由を読者に理解させるのがすごいです。

梶川:やっぱり社会に対して訴えたいテーマやみんなが抱えている悩みを扱う時は、エピソードは「あるある」とか「わかる!」と誰にでもピンとくるものになっているのが良いと思います。抽象的なエピソードだと、わからない人はわからないままになってしまうので。そういう意味で、2月に発売された『違国日記』の7巻は、男性社会の洗礼を受けた男子たちの苦しみがすごくわかりやすく描かれていると感じます。どんな人も「意味がわからなかった」にならない表現で、なるべくたくさんの方に伝わるように、というヤマシタ先生の気迫を感じました。

――先日ヤマシタ先生に取材させていただいた時に伺った「  『口うるさいマンガ』を描くことで誰かの心に波を立てることくらいはできるかも」という言葉に感動しました。 フィーヤンの作品はいつも、ワクワクとともに新たな気づきを与えてくれます。

梶川:弊社は共同担当の制度も取りながら、色んなスタッフも交えて作家さんと物語を作っているので、バラエティに富んだ作品を生み出せているのかなと思います。ぜひこれからも“ときめき”ながら作品を読んでいただきたいです!

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