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SKY-HI、3時間にわたる「自宅ワンマン」に込められた想い 愛を持って日々を乗り越えていくこと

リアルサウンド

20/5/10(日) 12:00

「インスタライブ、YouTubeライブ、ベネッセやスッキリ。全てへの感謝と経験をもろもろこみで、うちからワンマンライブをお届けします」

 SKY-HIが自らの口でそう語ったのは、4月29日のことだった。思い返すと彼は、コロナ禍で活動が制限されてから、音楽家として、SKY-HIとして自分ができることを、いつも以上に探っていたように感じる。「#Homesession」や「the days」の制作、ライブ配信や番組出演など、SKY-HIのニュースを目にしない日はなかった。それだけ必死に、もがいていたのではないだろうか。

(関連:SKY-HI、「自宅ワンマン」に込めた想い

 そして、その集大成として開催された5月6日の『SKY-HI 自宅ワンマン』は、視聴者の想像を大いに上回るものだった。キャンドルやブルーライトを使っての照明、自らの手でスイッチを切り替えてのカメラワークという視覚演出はもちろん、自宅から放送していることを忘れてしまうほどのクリアな音質。“家ではパフォーマンスができない”という固定概念を、まんまと覆してしまったのだ。

 また、約3時間に渡る「自宅ワンマン」には、音楽家SKY-HIのスタンスが色濃く反映されていたように思う。彼の作品は、大きく分けると「闘う・生きる・愛する」という3つのコンセプトが存在する。今回に至っては「生きる・愛する」という側面が、強く打ち出されていたのではないだろうか。

 ライブは3部構成で展開された。オープニングとなる第1部を一言で表すなら、“自宅からできる最高のショー”だ。薄暗い部屋にキャンドルの火が揺蕩うなか、「What a Wonderful World!!」でパフォーマンスはスタート。「Shed Luster」「Doppelgänger」と続いていく流れは『JAPRISON』の始まりとシンクロし、ライブのワクワク感を呼び起こす。マイクに声を落としつつ、片手では器用にカメラをスイッチ。オンタイムで表情やポーズをクルクルと変え、ひとりでやっているからこそできるカメラワークで魅せていく。

 「illusion」から繋がれる「As a Sugar」は昨年の屋外フェスを彷彿させ、「Blue Monday」「Blanket」「Snatchaway」という展開はダンスメンバーのBFQを想起。自分の部屋というステージに立ちながらも、彼がいろんな人や場所へ想いを馳せていることをうかがわせた。そして、第1部の締めは、「Limo」「Double Down」「Seaside Bound」というライブナンバーの応酬だ。チャット欄にはレスポンスが溢れかえり、SKY-HIとファンが同じ場所にいるかのような一体感を生み出す。第2部へ向けギアを入れると同時に、ステージやフェスで作り上げてきた空間はオンライン上でも再現できるのだと提示するような第1部となった。

 J-WAVEにも生放送された第2部は、「すべての人に愛と感謝とリスペクトを」という彼の言葉に尽きる。〈誰も知らない未来を/ペンで書いて見せるのがMy Job〉と刻む「運命論」を皮切りに、「Run Ya」「Persona」と鋭いリリックのナンバーでステージを封切った。この3曲は先の『BLOCK.FESTIVAL』『スタジオライブ』でもオープニングで披露されており、自粛対応となった『SKY-HI Round A Ground 2020』の出だしだった可能性を匂わせる。そしてそこに繋ぐのは、同調圧力に一石を投じる「何様」だ。誰かを悪者にして、魔女狩りをしようとする風潮に「それでいいの?」と歌を通して問いかけた。

 セットリストによるメッセージ性を強く感じたのは、「LUCE」を発端に紡がれていく4曲だ。自身の喪失感と徹底的に向かい合ったナンバーを筆頭に、戻らない日々に思いを巡らす「そこにいた」、別れを愛する「クロノグラフ」、辛い過去を越えていく「Over the Moon」と導かれていく。それはまるで、「ネガティブになることは必要だが、虚しさに蝕まれなくていい」と、「今までの当たり前との別れを受け入れ、変わってしまった世界で会おう」と、「変わってしまった世界でも、俺は変わらずにいるから安心して」と、訴えているようだった。

 J-WAVEと関係深い「Chit-Chit-Chat」をしっとり聴かせると、医療従事者への感謝をこめて部屋をブルーにライトアップ。青い光が優しく包みこむなかで、フローレンス、LOVE POCKET FUND、国立国際医療研究センターの3カ所に合わせて約1000万円を寄付したことを明かした。その際に「みんなが俺を応援してくれたから、お金を寄付に使えた。だから、みんなに直接伝えたかった」と添えたのは、ひとりの人としてたくさんの“君”に向き合っているSKY-HIらしい。「SaveOurSpace」への協力も投げかけると、自粛期間のなかで生まれた「#Homesession」をパフォーマンス。“根っこに持っとくものは愛”という彼の根幹にある言葉が、一段と力強く響く。「カミツレベルベット」でネガティブを丸っと受け止め、第2部を締めくくった。

 第3部は打ち上げのような和やかな雰囲気で行われた。SKY-HIもハイボール缶を開け、ほっと一息。一通りやり切ったという安堵の表情を浮かべる。セットリストもファンのリクエストを反映していたようで、「Things To Do」のあとに「Ms. Liberty」を繋ぐという柔軟な展開を見せた。中盤ではSEKAI NO OWARIのFukaseに電話をする一幕も。生放送を見ていたことを告げられると、こそばゆそうにはにかんでいた。「キミサキ」に繋ぎ、Fukaseと共に仕掛けた「the days」へ。かつての日々を俯瞰したように歌い上げると、終盤になだれ込む。

 「創始創愛」では人間の一番の武器は愛だと唱え、「リインカーネーション」では再生への願いをこめる。「I Think, I Sing, I Say」を経て、結びの曲となったのは「Marble」だ。この2曲に共通しているのは、“愛を持って生きていこう”という思想である。大変な時期だからこそ、拳に手のひらを重ねて愛し合っていこうと彼は伝えたかったのではないだろうか。今できる全てを詰めこんだ3時間ワンマンライブを、SKY-HIは満身創痍でやり遂げた。

 今回の自宅ワンマンライブは、大きく分けて2つのポイントがあったと言っていいだろう。ひとつは、リスナーを信頼した上で説明を必要とする曲が少なかったこと。問題について考えさせるような楽曲ではなく、純粋に「かっこいい」「楽しい」と感じられるナンバーが多かったのは、この状況でも楽しんでもらえるエンターテインメントを届けようという彼の心意気と視聴者への信頼があったからこそ。それぞれが苦しんでいることを踏まえ、「楽しめることは全力で楽しもう」「その先の希望へも目を向けよう」と提示したかったのではないだろうか。

 もうひとつのポイントは、冒頭でも触れたが「生きる・愛する」の側面が強く打ち出されていたことだ。彼は常々ライブで「君が隣の誰かを大切にできたら、世界平和だって叶うと思う」と語っているが、まさしくそういう想いを音楽で届けていたように感じる。あの頃には戻らないけど、生きてるなら終わらない。先行きが見えない現実が続いていくが、「愛を持って生きていこう」と伝えたかったのではないだろうか。

 かつての日々は残念ながら戻ってこないし、どのような光が日本や世界を救ってくれるのか見当もつかない。しかしながら、笑顔は遠くても消えたわけじゃない。心がふさぎこみそうになったら、楽しいことにも目を向けて。愛を持っていられる時は、ネガティブにも寄り添って。目の前にある日々を越えていこうと、心に刻んだワンマンライブだった。(坂井彩花)

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