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『ぼくの地球を守って』の月基地は“働きたくない職場”? ストレスフルな環境を考察

リアルサウンド

21/3/9(火) 8:00

 初めて『ぼくの地球を守って』(ぼくたま)を読んだとき、一番最初に思ったことは「湯豆腐って夕食のメインディッシュになるんだ……」ってことでした。物語の本題に入る前、主人公ありすのおうちの夕食が湯豆腐だったんです。私の実家では父が酒のアテに食べてるもので、夕食に出てきたことがなかったので、自分の認識とのギャップが一番頭に残ってしまった。ありすの弟なんて食べ盛りだろうに、ご飯と豆腐だけなんて……。

 『ぼくの地球を守って』は連載時、多くの読者の頭をボーッとさせた作品でした。自分の存在自体の因果が前世にあったなんて、生きにくさを感じている若者には格好の逃げ場になりそうです。

 登場人物は、日本の若者です。でも彼らの前世はなんと他の惑星から月にやってきた異星人だったのです。彼らは地球を見守るために遠い宇宙から派遣された技術者でした。7人で月の基地に滞在し、地球を見下ろしながら調査したり恋愛沙汰でゴタゴタしながら暮らしていたのでした。

 『ぼくたま』は、ざっくり言うと「過去の異星人たちのゴタゴタが転生したあとの現在に持ち越されて、いま日本がすごく大変だ」というお話です。過去と現在が複雑に絡み合った構成はとても読み応えがあり引きこまれます。

 さてちょっとお話ししたいのは転生前のストーリーです。異星人が造った月基地にはたった7人しかいませんでした。寝ても起きても仕事しても食事の時も、ずーーっと7人だけ。

 この7人のうち、絶世の美女で巫女みたいな力のあるモクレン、優秀だけど戦争孤児で人付き合いの悪いシオン、おぼっちゃまで正義感の強いギョクランの3人が諸悪の根源です。モクレンは神秘な力を持っているけれども天然で、男性たちはみな彼女に夢中。だいたい読者はモクレンに感情移入していい気分になっていたのではないでしょうか。

 シオンは、とにかく愛情に恵まれなかった人で、性格もねじくれ上がっています。ギョクランとは子どもの頃から学校の友達ですが、自分にはない恵まれた環境にいるギョクランが妬ましくて仕方がありません。ギョクランは順風満帆な人生を歩んできた人あるあるで、自分の正義が他人の正義でもあるみたいな暑っ苦しい青年です。個性豊かな面子の7人ですが、諸悪の根源3名のおかげで月基地ではトラブルが絶えません。大人になって読み返してみて強ーく思ったのは、「こんな職場で働きたくないな……」でした。

 集団行動を営むときに一番大事なのって、相手に対する尊重だと思うんですよ。意見や感覚が異なることもあるでしょう、そのときに相手を思いやり、話を聞いて問題点や折衷案を見つけなければいけません。片方の正義を押しつけてガミガミ叱ったって人間関係上手く回りませんよ。なのにギョクランをはじめ付き基地のメンバーと来たら、人のやることにいちいちうるさい。モクレンに対しても陰口たたいてみたりして、なんかずっとギクシャクしたまま7人で隔離されてるんです。超つらそう!!

 そもそもシオンとギョクランは、付き合いは長いけど気が合うということもないのに、なんだかずーっと一緒です。子どもの頃は、強制的にくくられた学校というスペースの中のクラスメートと仲良くしなければいけません。これはめっちゃ辛い。だけど大人になったら、好きじゃない人とは付き合わなくていいんです。お友だちは選べるんです! なんなら職場だって選べる。なのになぜシオンを追いかけ回すんだギョクラン! どっか行け!!

 かくして月基地メンバーたちはそれぞれストレスを抱え、意思疎通もできないままうっかり死んじゃって、過去のストレスは来世に持ち越し、日本で大変な事件がたくさん起こります。それもこれも全部、「前世の異星人がストレス抱えて死んだから」ですよ、困っちゃいますね。

 というわけで改めてこの作品を読んで思ったこと。「好きな人とだけ付き合って、ストレスなく生きよう」ってことでした。来世に問題持ち越していろんな人に迷惑かけちゃいけませんね。

■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。

■書籍情報
『ぼくの地球を守って』全12巻(白泉社文庫)
著者:日渡早紀
出版社:白泉社

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