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“俳優王”への道を歩む山田裕貴 『あの頃、君を追いかけた』で“新世界”へ

リアルサウンド

18/10/15(月) 10:00

 俳優王に俺はなるーーともすると失笑を買いかねないこんな言葉を高らかに宣言しては、聞く者を頷ずかせてしまう存在がある。主演映画『あの頃、君を追いかけた』が封切られたばかりの、俳優・山田裕貴である。

 この言葉が、大人気マンガ『ONE PIECE』の主人公モンキー・D・ルフィがたびたび口にするセリフをもじったものであることにお気づきの方も多いだろう。4億万部を優に超える発行部数を誇る同作は、文字どおりの国民的マンガであり、老若男女、国籍を問わず広く親しまれている。ルフィがその主人公ということは、彼を国民的キャラクターと呼んでも差し支えないはずだ。山田が目指すのは、言わばこの俳優版なのだろう。つまりは、“国民的俳優”ということである。

【写真】『あの頃、君を追いかけた』劇中の山田裕貴

 海賊王に俺はなるーーとはルフィの言葉だが、彼はこの宣言を実現させるべく着実に歩みを進めている。養成所での演技の訓練やエキストラ時代を経て、2011年の本格デビューから7年を数える山田の姿は、どことなくこのルフィと重なる。

 大海原に出て、強大な敵を次々と打ち負かしていくルフィに対し、山田の場合は、これが出演作一つひとつでの俳優としての演技に相当する。特定の作品規模やジャンルに囚われることなく、俳優としてその痕跡を残しているのだ。

 山田の本格デビューは『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011~2012、テレビ朝日系)。戦隊モノでのメインキャストとは大仕事だが、やはり観客は年少者が多い。さらなるステージに彼が上がったのは『ストロボ・エッジ』(2015)への大抜擢ではあるが、この作品での山田に対する「この人は誰?」といった声は多く、まだ彼の存在を知る者は多くはなかった。

 しかしそれからも出演作を重ね、知名度はこのところ急上昇。昨年は13本もの映画に参加し、今年は『となりの怪物くん』『万引き家族』『虹色デイズ』『センセイ君主』と出演作が公開されており、今作『あの頃、君を追いかけた』が5作目である。特に『センセイ君主』では、劇中に小道具として登場する雑誌のカバー写真のみの出演で、この「カメオ出演」というものは、知名度がある者だけに許された出演法である。演じる役柄を問わず、彼の果敢な挑戦は止まらない。

 俳優・山田裕貴を語る上で、彼本人、つまり演じていない時の、スクリーンの外側での彼の姿にも注目したい。山田といえば、TwitterをはじめとするSNSでのファンサービスの良さにも定評があるのだ。そこでは彼の日常生活が垣間見られるだけでなく、悔しさや喜びといった俳優業への熱い想いや、ファンへの感謝の言葉などが飾らず素直に綴られている。しかし俳優の個人的な発言は、演じるキャラクター以上に演者本人のイメージが先行して広がってしまう恐れもありリスキーだとも言える。

 そもそも彼は俳優なのだから、過剰なファンサービスなど必要ないようにも思える。スクリーンの中での彼だけを評価すべきというものだ。しかし、ここでの彼の言葉の一つひとつは、俳優をやる上での“選手宣誓”のようにも受け取れる。そして彼は、スポーツマンシップならぬアクターシップにのっとって、その宣誓に忠実に自身の俳優像を示し続けているのだ。何より、彼の多彩なバイオグラフィーを眺めてみれば明らかだろう。

 そんな彼が今作で演じた水島浩介というキャラクターは、彼にこそ適役だ。泥臭く、熱く、おバカで、硬派で、スポーティーで、仲間想いで……といったキャラクター性は、これまでの山田のキャリアに、いずれも通底するものがある。ときに愛くるしい子犬のように、ときに狂犬のように、目まぐるしく変わる彼の声と表情には、これまでの俳優人生で得てきたものが結晶しているかのようだ。劇中で浩介は「すごい人間になりたい。俺がいると少しだけ世界が変わるような人間」と口にする。この言葉は、若手俳優の台頭が目覚ましい昨今、“俳優王”なる熱い目標を掲げる山田と共鳴し合っている。

 本作で山田は、見事に鍛えられた裸体や坊主頭までも披露。これを「役作りで坊主まで……」という見方もあるかもしれない。しかし彼は俳優であり、その世界の王を目指す者である。いまさら彼に「役者魂」などという言葉を当てるのはナンセンスだろう。劇中のキャラクター同様、それを山田はごく当然のこととしてやっている。むしろ“生まれたままの姿”で、さらには“頭を丸め”、この主演作にして代表作で、いま一度気を引き締め直し、新たなスタートラインに立っているように思えるのだ。キャリアを重ねる中で到達した、ネクストステージである。『ONE PIECE』の言葉を借りるのならば、“新世界”といったところだろうか。

 これからも、君を追いかけるーー映画タイトルをもじった、こんな失笑を買いかねない言葉をつい口にしてみたくなる。恐らく多くの方が賛同して下さるだろう。大航海時代ならぬ、大俳優時代の荒波を越えていく、俳優・山田裕貴にこそついていくべきである。

(折田侑駿)

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