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ただの子ども向け料理番組ではない ミシェル・オバマ出演『ワッフルとモチ』のメッセージ

リアルサウンド

21/3/31(水) 14:00

 大きな話題となったストップモーション・アニメーション『PUI PUI モルカー』のTV放送が終了し、“モルカー・ロス”なる喪失感を味わっている人たちが少なくないという。だが幸いなことに、アメリカから人々を魅了する圧倒的な子ども番組が、またしても登場した。その名も、『ワッフルとモチ』(全10話)である。

 本作の主人公は、「冷凍食品の国」に住む“ワッフル”と“モチ”。“ワッフル”は、お菓子のワッフルと、イエティ(ヒマラヤに住む未確認動物)を両親に持つ生き物で、毛むくじゃらの体にお菓子のワッフルでできた耳やお腹がくっついている。そして、もう一人の主人公である、友達の“モチ”は、ストロベリーアイスをイチゴ色の餅で包み込んだ大福のような生き物だ。アメリカやヨーロッパでは、近年アイスクリームの大福が人気があるのだという。パペットとして表現されたあまりに愛らしい二人が、動いて喋っているところを見るだけでも、本番組を視聴する価値がある。

 いつも氷しか食べていないワッフルとモチの二人は、様々な料理を作ることのできるシェフになることを夢見て、冷凍食品の国からアメリカのスーパーマーケットにたどり着く。そして、元ファーストレディーのミシェル・オバマが演じるスーパーマーケットのオーナー“オバマ夫人”のもとで働くことになるのだ。さらにワッフルとモチは、食べ物や食材について学ぶため、アメリカ、日本、韓国、ウガンダ、ペルー、イタリアなど、世界中の国々、複数の地方へと、空飛ぶショッピングカートに乗って旅をするのだ。

「トマトはフルーツか、野菜か?」

 これが、トマトを題材とした第1話で投げかけられる疑問である。子ども番組だと思って甘く見ていた筆者は、ワッフルとモチが、トマトを野菜だと発見していくのが番組の内容なのだろうなと思い込んでしまった。だが、ワッフルとモチはショッピングカートで各地をまわり、様々な専門家の意見を聞くことで、「トマトはフルーツに分類できる」ことを知ることになる。そして、「料理に使われるフルーツは野菜と考えることもできる」という知見も得て、最終的に「トマトはフルーツであり、野菜とされることもある」という複雑な結論へとたどり着く。筆者は、この「子ども番組と思ってなめるなよ」とでもいうような、カウンターパンチを浴びた反省から、しっかり正座をするような気持ちで本番組をあらためて鑑賞することになった。

 それにしても、ふわふわしたワッフル、もちもちとしたモチの可愛さは尋常のものではない。アメリカの娯楽ニュース“Vulture”など、すでにメディアで発表されている製作インタビューを読むと、この両者のマペット製作を担当しているのは、ロサンゼルスの人形製作集団“Viva La Puppet”であるという。その中心人物であるミシェル・ザモラは、ワッフルのパペット操演と、声の出演をどちらも担当している。当初、ワッフルとモチの人形は、アニマトロニクスを利用したものにする案もあったというが、最終的には、偉大なマペット製作者ジム・ヘンソンが手がけた『セサミストリート』と同様、操演する棒が見えるクラシカルなタイプのマペットが採用された。

 驚くのは、おそらくコットン地などで制作されたマペットが、番組に登場する食べ物を本当に口に入れる場面があることだ。しかも、水っぽかったり油っこい食べ物であろうと、構わず口に入れることができる仕組みになっているのである。“Viva La Puppet”は、表面が食べ物によって汚れたときのために、スペアのマペットを用意したという。

 本番組に登場する有名人たちにも注目したい。劇中ではジャック・ブラックやラシダ・ジョーンズ、ザック・ガリフィアナキス、SIA、マンディ・ムーアなど、コメディアン、俳優、ミュージシャンが次々に出演。ワッフルとモチを励ましたり、一緒に食べ物の探求をしてくれるのだ。さらにドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でダスティン役を演じるゲイテン・マタラッツォや、リアリティ番組『クィア・アイ』のタン・フランスも出てくるように、Netflixのフリークも喜べるゲストも登場する。

 さらには、被災地で食事を提供する活動をする「ワールド・セントラル・キッチン」の設立者ホセ・アンドレスや、Netflix『美味しい料理の4大要素』に出演した料理人サミン・ノスラット、アメリカで料理番組のプロデューサーを務めていたモモコ(中村桃子)、京都にあるザ・洋食屋キチキチ、青おにぎりなど、各テーマに沿った世界の専門家も、ワッフルとモチの力になってくれる。このような多様な人種との出会いのなかで、ワッフルとモチはもちろん、視聴者も様々な料理や文化、魅力的な人々が世界中に存在することが理解できる。そして人種問題、歴史問題、貧困問題にも触れることになる。

 パペットの操演や、有名人が次々に出演するフォーマットは、やはりベースに『セサミストリート』が存在することは明白だろう。本番組は、そんな偉大な子ども番組の発展型といえる。だが『ワッフルとモチ』ならではの特徴は、食の魅力と多様性にフォーカスしているところだ。それは、近年映画産業に手を広げている、元大統領のバラク・オバマ、レギュラー出演者でもあるミシェル・オバマによる製作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクションズ」の作品であり、二人が本番組ではエグゼクティブ・プロデューサーを務めていることからも理解できる。とくに子どもたちの食や健康に関しては、ミシェル・オバマが以前より学校やメディアで取り組んできた活動と方向性が重なっている。

 「ハイヤー・グラウンド・プロダクションズ」の第1作となった、中国資本の工場が進出する現在のアメリカの人々の状況を映し出したドキュメンタリー映画『アメリカン・ファクトリー』(2019年)は、アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞するという、いきなりの快挙を成し遂げている。そして、この作品にも共通する人種や文化の多様性を多くの観客・視聴者に伝えたいという想いが、本番組『ワッフルとモチ』にも活きているのだ。

 そして、毎エピソードの終わりには、ワッフルとモチが、「無理をして自分を変えなくてもいい」「家族のかたちにはいろいろあっていい」「ときに失敗も必要」など、子どもの教育にはもちろん、大人の視聴者の心をも動かすような、既存の社会の因習にとらわれない自由で前向きなメッセージに到達することになる。

 ストレスを癒してくれるワッフルとモチの可愛さ、前向きなメッセージ、食や文化への様々な学びなど、『ワッフルとモチ』には、多くの魅力や情報量や情熱など、現在の世界の希望そのものがいっぱいにつまっている。大人と子どもが一緒に観ても、大人だけで観ても楽しめる、そして日々を生きて成長するための栄養に満ちた稀有な本番組を、ぜひ多くの視聴者に鑑賞してもらいたい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『ワッフルとモチ』
Netflixにて配信中

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