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Four Tet、Klein、Arca、ナカコー……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選

リアルサウンド

20/6/14(日) 10:00

 約2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜の中から厳選してお送りします。

 今年になって大傑作『Sixteen Oceans』をリリースしたばかりのFour Tetことキーラン・ヘブデンですが、その後も精力的なリリースを続けています。まずは『Sixteen Oceans』のわずか1カ月半後にSoundcloudで一気に16曲の未発表曲を公開。それぞれ美しいアートワークが添えられるなど、凝り性ぶりを発揮。並々ならぬセンスと冴えたアイデアを感じさせるディープハウス~アンビエントトラックが並びます。また同時期にいくつかミックス音源や映像も公開されています。

Four Tet | Boiler Room: Streaming From Isolation | #8
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 またこれ以外に別名義でのリリースも精力的。⣎⡇ꉺლ༽இ•̛)ྀ◞ ༎ຶ ༽ৣৢ؞ৢ؞ؖ ꉺლ名義(読み方不明)での4曲入りEPが先月末に各配信サイトで公開されています。ポストロックバンド、FRIDGEのメンバーとしてデビューして以来20年以上のキャリアを積んできたベテランですが、今がクリエイティビティのピークではないかと思わせるほど、彼の現在の活動は充実しています。

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 この連載で何度も取り上げてきたサウスロンドンの先鋭アーティスト/シンガーソングライター、クライン(Klein)の新作『Frozen』が早くも登場。今度は彼女のBandcampからのDLリリースのみで、現在までのところフィジカル発売やストリーミング配信はない模様です。広く一般に広めるつもりはないという意思表示でしょうか。ただし購入せずともBandcampでフルサイズの試聴は可能です。

 前2作ではかろうじてエレクトロニックR&Bの範疇にとどまっていましたが、今回は、さらに徹底してエクスペリメンタルでアバンギャルドなノイズコラージュが展開され、まるでThrobbing Gristleを思わせるような場面も。ひたすら自己の内面を深耕するような内省的で瞑想的なサウンドですが、2011年に英国警察に殺害され、英国における人種差別問題を露呈させたマーク・ダガン殺害事件のオマージュ曲など、最近のジョージ・フロイド氏殺害に端を発する“Black Lives Matter”運動の盛り上がりとも密接に関連しています。徹底して非ポップでアンチコマーシャルでコンシャスなアート作品の白眉と言えるでしょう。

KiCk i
Arca『KiCk i』

 まだ発売は1カ月以上先ですが、あまりに素晴らしい作品なので一足はやくご紹介しましょう。アルカ(Arca)の新作『KiCk i』(7月17日発売:XL Recoerdings/Beat Records)です。
アルカは今年になって60分を超える大作シングル「@@@@@」を発表して大きな話題となりました。

Arca – @@@@@

 今作ではビョークを始め、ロンドンのシャイガール、スペインのアゼリアなども参加した万華鏡のようなエクスペリメンタルポップを展開しています。母国ベネズエラの伝統音楽やラテン音楽、ヨーロッパの実験音楽などがアバンギャルドなエレクトロニックミュージックと交錯する世界は、狂おしいほどエモーショナルで美しい。間違いなく今年度を代表する傑作となるはず(レーベル公式HP)。

Arca — Time
Arca – Nonbinary
What Wands Won't Break
Daedelus『What Wands Won’t Break』

 西海岸ビートシーンのベテラン、デイデラス(Daedelus)の新作『What Wands Won’t Break』(Dome Of Doom Records)。多作で、アルバムごとに大きく方向性やサウンドが変わる人ですが、2018年の『Taut』では、西海岸らしいポップでドリーミーで柔らかいエレクトロニカ~ブレイクビーツ、2019年の『The Bittereinders』(フライング・ロータスが主宰するBrainfeederからリリース)では一転してダークなドローン~アンビエント、そして今作では、Aphex TwinやAutechreを思わせる硬質でノイジーなエレクトロニカ~IDMをやっています。打ちつけるようなハードな変則ビートと過剰な重低音は、ひたすら狂気じみていて殺伐としていますが、それでもUK組とはひと味違う西海岸ならではの乾いた叙情性が感じられるのが興味深いところ。

Henosis
Daedelus『What Wands Won’t Break』
Cape Cira
K-Lone『Cape Cira』

 英国のジョシア・グラッドウェルによるプロジェクト、K-Loneの1stアルバムが『Cape Cira』。自身が主宰するUKベースミュージックの代表レーベル<Wisdom Teeth>からのリリースです。ダビーでチルでアンビエントなトロピカルベース~ディープエレクトロニカ。瞑想的でドリーミーなサウンドは、以前よりもカッティングエッジな鋭さは後退したものの、さらにまろやかで、包み込むような優しさが感じられてとても新鮮で魅力的です。

K-Lone『Cape Cira』

Genuine Silk
Soela『Genuine Silk』

 ベルリンの女性アーティスト、スーラ(Soela)ことエリーナ・ショロクホヴァの1stアルバム『Genuine Silk』(Dial)。アンビエントなシンセ音と浮遊するメロディ、グリッチーなビートがゆったりと融合した幻想的で叙情的なテック~ミニマル~ディープハウスです。とにかく音を扱う手つきが抜群に細やかで繊細で、雰囲気作りがうまい。夜中に聴くと見事にハマります。

Soela『Genuine Silk』
Monophonie
Phillip Sollmann『Monophonie』

 過去にこの連載でも紹介したことがあるベルリン在住のDJ/プロデューサー、エフデミン(Efdemin)ことフィリップ・ソルマン(Phillip Sollmann)が、本名で新作『Monophonie』を発表。エフデミン名義の前作『New Atlantis』では、四つ打ちのストイックなビートにダルシマー(ハンマーダルシマーともいう)やハーディ・ガーディ(弦楽器の一種)、ギターといった楽器を重ね、ヨーロッパの古楽とエクスペリメンタルな電子音楽が合体したようなユニークなディープ・テクノを展開していましたが、本名名義の本作では、そこから四つ打ちのダンスビートを抜いてドローン~アンビエント色を強め、電子楽器の代わりに生楽器を多用して、打ち込みというよりは生演奏に近いような感覚のサウンドになっています。他にはないユニークな音楽性ですね。

Phillip Sollmann『Monophonie』
Ten Times the World Lied
bvdub『Ten Times the World Lied』

 サンフランシスコ出身、現在は中国在住のアメリカ人アーティスト、ブロック・ヴァン・ウェイ(Brock Van Wey)によるソロプロジェクトがbvdub。新作『Ten Times the World Lied』(Glacial Movements Records)が発表されました。2007年からほぼ毎年2枚のアルバムを発表している多作家ですが、悠久の大河のような揺るぎのないドローンアンビエントを今作でも展開しています。シューゲイザーとアンビエントとエレクトロニカを繋ぐ幻想的で荘厳でエモーショナルなサウンドスケープは、深遠にしてイマジネイティブ。聴き手を果てしない思索へと誘います。

bvdub – Not Yours to See [Audio]
bvdub『Ten Times the World Lied』
Texture Web
Koji Nakamura『Texture Web』

 ナカコーことKoji Nakamuraの『Texture Web』(Meltointo)は、彼が2014年から限定CD-Rとしてリリースしてきた『Texture』シリーズ20作のなかから1曲ずつ20曲を選んでコンパイルした、いわばサンプラーです。ナカコーがこつこつと自宅で録りだめてきたエレクトロニックミュージックの集大成ですが、意外なぐらいそのサウンドの幅は広く、75分という時間を飽きさせない閃きに満ちています。彼のアルバム『Epitaph』(2019年)は、『Texture』シリーズの中の楽曲を発展させたものも多く、いわば彼の音楽的アイデアのプロトタイプ集とも言えるでしょう。ここから次のアルバムのヒントが聞こえるかもしれません。各ストリーミングサービスのみのリリースです(公式HP)。

Koji Nakamura『Texture Web』
Supertonic:Mixes
『Supertonic:Mixes』

 最後に、ダンスミュージックの悦楽、その原点を思い出させるような素敵な作品を。ダイアナ・ロスのソロ以降の代表的なヒット曲を、アメリカのマルチインストゥルメンタリストにしてプロデューサー、エリック・クッパーがリミックス/リワークしたのが『Supertonic:Mixes』(Motown)。エリック・クッパーはフランキー・ナックルズを始めデヴィッド・モラレス、グロリア・エステファン、マライア・キャリーなど延べ1400以上もの楽曲を制作/リミックスしてきたというUSハウスの重鎮ですが、ここでも原曲の魅力をまったく損なうことなく、逃げも隠れもしない、堂々たる王道のハウス~ディスコに仕上げています。甘美でゴージャスな、それでいて歌を引き立てるアレンジ、心地よく踊れるテンポ感など、歌ものダンスミュージックとは本来かくあるべきというお手本のようなリミックス集。ダイアナのボーカリストとしてキュートな魅力もしっかり伝わってきます。80年代のパラダイスガラージクラシックとして今なお色あせない名曲中の名曲「The Boss」など全9曲というボリュームはちょっと物足りないほど。

I’m Coming Out / Upside Down (Eric Kupper Remix)
『Supertonic:Mixes』

 ではまた次回。

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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