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横山健が語る、ピザオブデスが培ってきた“人との向き合い方”「日常での理解の深さがすべて反映されていく」

リアルサウンド

20/12/29(火) 18:00

 11月20日、ピザオブデスが、所属バンドによる一発録り音源をレーベル主催のナンバリングシリーズとしてリリースしていく企画、PIZZA OF DEATH RECORDS presents 『BECAUSE IT’S 2020』を始動した。同企画のスタートには、「バンドとは何か、音楽作品とは、ライブとは、そしてレーベルとは一体なんなのかを考え続けた」というレーベルからのメッセージがともに添えられている。

 コロナ禍となった2020年において、音楽業界はライブの縮小をはじめ、これまでの活動の見直しが余儀なくされた。それはピザオブデスにおいても同様の問題だったのかもしれない。ピザオブデスは、4月にサブスクリプションサービスの解禁、5月にはYouTubeのライブ配信も行い、上述の『BECAUSE IT’S 2020』は、初めてレーベルの名前を冠した企画となる。

 そこで今回リアルサウンドでは、横山健に2020年を振り返るインタビューを行った。Ken Yokoyamaとして、ピザ・オブ・デス・レコーズ代表として今の思いを語ってもらった。(編集部)

何がバンドのためにいいか

ーー2020年、どんな年でしたか。

横山健(以下、横山):うーん……ミュージシャン、レーベル、いち社会人としては酷い年だった。こんなことが生きてるうちに起こるなんてなぁ、ぐらいの。でもいち人間としては、こんな年があってもいいんじゃないかとちょっと思ったり。

ーーそれはどういうところで?

横山:やっぱりのんびりできた。まぁ外は怖かったけど、ずいぶん家で「あぁ、今までこんな時間なかったな」って楽しめたから。もちろんそうすると……精神的に弛緩してくるわけですね(笑)。僕の場合は相当だらけた生活をして、これいいなぁって、ずーっと家で余裕ぶっこいてた感じ。はははは!

ーー(笑)。とはいえ、ピザオブデスの動きは早かったです。まず4月にサブスクリプションサービスの解禁がありました。(参考

横山:そう。これは数年前から話してたことで、タイミングがそこになっただけで、実は今年狙いすましてやったわけではなくて。やっぱりサブスクが台頭するにつれて、みんなで「俺たちどうしようか?」っていつも考えてた。これまでもLPからCD、CDからデジタルって移動はあったけど、ここまで聴かれるフォーマットが変わる事態に直面したのは初めてなの。音源のデジタル配信、iTunesの曲のバラ売りとかはあったけど、そういうのには俺、徹底的に抵抗してたはずで。もちろん「これはいい加減出しておかないと」っていう作品はデジタルで売ったりしたけど、でもやっぱり「こんなんで聴かれるはずねぇ、こんなの浸透するはずねぇ」とずっと思ってた。

ーーえぇ。そこはファンもよく知るところです。

横山:ところが思わぬ形でサブスクが出てきて、もうやってないことが完全にマイノリティになってしまう、拒否してるとお話にならなくなってしまうな、と。レーベルとして恰好つけるのもいいけど、これはミュージシャンの可能性を潰すなぁと思って。いつまで持ちこたえられるか、意地張っていられるかって思ってたけど……世の中のプロダクツの変化を見ても、今やパソコンにCDスロットが付いてないとかね、もうCDは前時代のものなんだなって認めざるを得ない。ここはもう完全に白旗ですね。

ーーネット利用の話でいうと、5月にはYouTubeのライブ配信もありました。過去の映像作品が一斉に見られるという試み。(※現在は配信終了)

横山:そうそう。あれはウチの社員が考えてくれたこと。ライブがなくなったのは、みなさんにとって喪失感が大きい……ほんと言葉以上に大きな楽しみを奪われたことなんじゃないかと。しかもコロナの世相だと「だったら他を見つけよう」って話でもないじゃない、家にいなきゃいけないし。だったら過去、お金を払って買ってもらった作品であっても、「何時にパソコンの前に座ってたら見れるよ!」っていうお得感を味わってもらいたかった。

ーーアイデアは健さんではなく、スタッフから出てくるんですか。

横山:そう。いつの間にかそういう感じになってて。「やろうと思うんですけど、どう思います?」「うん、すごく素敵だね」って。僕もうザル社長なんで何もしてないですよ。だいたい俺が考えたところで案外ハネられる。「そんなことは実はずっと前に議論してます」みたいな。それはコロナに関係なく、遡ると震災の頃からかな? ここ10年はずっとそんな感じがある。

ーー意見が上がってきた時、それがピザらしいかどうか、というジャッジはあるんでしょうか。

横山:もちろん。刺激的かどうか。「あぁ、それ面白いね!」って言えなかったら「それってウチでやる意味あるのかな?」って俺も言うだろうし。そこは社長らしく判断してる。

ーー現実を考えたらサブスクもYouTubeも使うほうが便利、まぁピザといえどもそういう時代ですね、という感覚で見ていたんです。ただ、『BECAUSE IT’S 2020』に関してはピザオブデスの意地を感じました。(参考

横山:うん。原盤制作会社でもあり、マネージメントもしてるけど、簡単に言うと「バンドに生き生きしてもらう」場所なわけでしょ、ピザオブデスって。そういう会社の矜持ですよね、これは。

ーーこれもアイデアは健さんからではなく?

横山:全然俺じゃない。ただ話聞いて「あぁ面白いね」っていうのはあった。すごく素敵だなと思った。これが何の意味があるのかは後々さらにわかってくると思うし。で、ほんと言うとね、年内に全部リリースしきらないとちょっとパンチも薄れるなと思ってたの。2020って数字を打ち出してるわけだから。年内4バンド、来年に5バンドっていうギリギリの感じ。そこは物理的に無理だったみたい。そうやってちょっと漏れちゃうのもピザらしいところで(笑)。

ーー実際の無観客ライブはどうでしたか。

横山:うーん……やる側としては、とてもじゃないけど楽しいもんじゃなかった。やっぱり無観客って厳しい。さらに言えばKen Bandは1年ライブやってないまま、ずーっと新曲作りモードだったから。そこで過去曲を何曲か揃えて、人のいないライブハウスでバーンと演奏するって、簡単なようですごく難しかった。最初は漠然と「鉄板曲並べて、この際ベスト的なものを作っちゃおうかな」と思ってたんだけども。でも鉄板曲であればあるほど、お客さんみんなと歌う曲が多くてね。今の俺たちにとっちゃ「シンガロングも込みで曲なんだな」って身につまされるほどわかった。だからお客さんなしではできない曲がいっぱいあったかな。

ーーつまりレーベルの長として「素敵だね、ぜひ」と思えた企画でも、ミュージシャンとしては100%やりたいことではなかった。

横山:実はそう。そのギャップも埋まらないまま今に至ってる。でもやっぱりやるべきだと思った、レーベルの長としてもミュージシャンとしても、そういう機会を与えられたらやっておきたいと思った。

ーーそこにあるのは「レーベルって何?」という話ですよね。所属バンドの目から見て、ピザオブデスってどういう存在なんでしょうか。

横山:すごくユニークな発想をしてくれて、やる側としては面倒臭いけれど、「それはやったらきっと意義深いことだ」って思える可能性のあることを提示してくれるところ。よそのレコード会社、メジャーであろうとインディであろうと、なかなか発想できないことを考えてるなぁと思う。手前味噌になるからあんまり褒めたくないけど、ピザの連中と会話してていつも出てくるのは「何がバンドのためにいいか」っていうことで。それはみんな口にしてるし考えてる。

ーーそれは「レーベルの儲けになるか」とはまったく違う話。

横山:まったく違う。これは俺の理念だったりするんだけど、刺激的なことや楽しいことをやればお金なんか後から付いてくる。お金って結果論であって、いいもの作ったからといって儲かるとは限らないし、すっげぇくだらないもの作ってものすごく儲かることもあるし、そんなものは計算できないの。で、自分たちがレーベルの一員として働くなら、バンドと同じように、それぞれが生きる実感を得なきゃいけないでしょ? それはやっぱり楽しいことを探したり、あと目の前に置かれたものを一生懸命考えることだから。

突きつけられた現実がよっぽど改革になった

ーーバンド主導ではなく、ピザオブデスがレーベルの名前を冠して率先して旗を振るのは、実は初めてのことですよね。

横山:やっぱり今までは、レーベルの前にバンドありき、にすべきだったし、スタッフみんなもそういう前提で動いてたと思う。ただ、ピザオブデスだからこの時期こういうことをやるのは、バンドがそれぞれ単体で動きづらい時期、レーベルが主導すればひとつの形を作れる、っていう声明じゃないかな。「これは僕たちの仕事です。この時期ならではの僕たちの仕事です」っていうことなんだと思う。

ーーそう言われたら、所属バンドとして嬉しいものですか。

横山:うん。頼もしいレーベルだなと思う。たとえばKen Bandが「こういうことやりたい」って思いついても、1バンドだったらインパクトには欠けるでしょう。所属バンド、まぁSANDは今回参加しなかったけど、10バンドいて、うち9バンドが参加するっていうのはなかなかパッケージとしても祭り感が出てくるし。面白いよなぁと思った。

ーー今日の話を聞いてると、ピザオブデス代表・横山健というイメージのわりに、意外と健さんが引っ張っているわけじゃないんですね。

横山:そうです。繰り返しになっちゃうけど震災後かな。震災までは俺けっこう社長っていう意識があったんだけど、あれきっかけで「俺はいちミュージシャンに戻るよ」っていう感覚があって。スタッフの誰にも言ってないけど、もう行動でわかってくれてると思う。もちろん震災だけが理由じゃないけど。ピザオブデスって、別に会社に来ればお金が湧いてくる場所でも何でもなくて、結局自分たちでやりがいを見つけなきゃいけない。それをスタッフみんな、当たり前のように考え始めたんだと思うのね。それは俺が震災前から言ってたことで、いいタイミングで切り替われたなと思う。

ーーそういうレーベルにしたいと思ってました? 自分のものではなく、スタッフ主導のものになればいいと。

横山:うん。すごく思ってた。それはでもやっていくうちに思うようになったことで。それこそ最初にピザオブデスを作った時は自分の名声も上げたいし、「横山健がやってるレーベル!」っていうブランドも欲しいと思ってた。でも真面目にやっていくと、そんなものじゃないんだなって。

ーーというのは?

横山:まず社員を雇う段階で、その人の人生を背負ってるわけで、その人が結婚したりすることもある。そこは俺、人より責任感強いと思う。「ウチが潰れたら他所行って、まぁウチでの経験を活かしてくれればいい」とか、あんまり思わない。人の人生背負ってる以上、お金ややりがい、その人の人生がより良くなるものを、このピザオブデスで見つけていかないと。真剣に考えるとそういうことだった。

ーーそもそもピザはHi-STANDARDの『Making The Road』を出すために独立したレーベルでした。当時と今ではかなり変わっていますよね。

横山:もうまったく別の会社だと思う。ほんとに言われたとおり、最初はHi-STANDARDの作品をリリースするためにメンバー3人で興した会社だし、Hi-STANDARDを好きっていう奴らが社員として集まってきて。ただ、ある時期を境に一一もうMOGA THE ¥5やToastをリリースしだした頃か、これはバンドや社員の人生を背負ってるんだなって俺は感じ始めて。社員にも一人ひとり問うたの。「Hi-STANDARDのためだけのレーベルじゃなくなるけども、俺がレーベルをやっていく。付いてきてくれるか?」って。当時5人いた社員の3人は「話が違う」って言って辞めていったし。そうやって残ったスタッフのひとりがI.S.Oちゃんです。そこからはいろんなバンドをリリースできたし。

ーー残ったI.S.Oさんが、今『SATANIC CARNIVAL』を主催しているのは象徴的ですよね。いちバンドのためではなく、ライブハウスにいるうるさいバンド全員のために面白いことを作っていく。

横山:うん、それが今のピザオブデスだと思う。所属バンドだけ、ウチのバンドだけ、じゃなくて。パンク/ラウドって言い方は好きじゃないけど、まぁ「つるめるサウンドとアティテュードを持ってるバンドなら誰でも巻き込んでしまえ!」っていう。たとえばピザオブデスは今まで3回オムニバスを出したことがあるけど、全然ウチと関係ない、ウチから音源出す可能性がないバンドも参加してくれたり。怒髪天とかね。だから、ピザオブデスの枠だけにとらわれない感覚はあるんだろうな。

ーー面白いですね。変わらない理念はありつつ、中身は進化しているから、その時代ごとに面白い企画やアイデアが出せる。

横山:うん。たとえば10年前はよくミーティングとか会議してたの。俺が号令かけて。でもね、そんなことしてても何の打開策にもならなくて。「やってる感」が出るだけで。今はこのコロナ禍で、テレワーク、リモートワークも定着してきて、ウチの社員も半分くらいしか出社してないの。なんだけど、僕の見てないところで連絡取り合ってる。「じゃないと、こうはなってないよな」っていうのがわかる。だから俺も最初に「いやー、このコロナで弛緩してしまってねぇ」なんてふざけたことが言えるわけで。やっぱり、働くことに対しての意識を変えなきゃいけなかったし、2020年って面白い年だったんじゃないかな? 政府が掲げる働き方改革とかよりも、突きつけられた現実がよっぽど改革になったと思う。

ーーそれを面白いと言えるのがピザイズムでしょう。「エンタメ業界は大打撃です」って言い出せば、みんな白旗状態なんだから。

横山:なんだろう? もともと「一人ひとりが個人商店をやってるような気持ちでやんないと」っていう話は10何年前からしてるの。それほど大きい会社じゃない、零細企業なんだけど、それぞれの役割があって、それぞれが個人商店で。だから「それぞれが自分の仕事を作らないと」「俺からは仕事あげられないよ?」って言ってきた。そういう体質の会社に、10年くらい前からシフトしてる。でもみんな、どんな会社に所属してる人でも、自分のことは自分で何とかするって肚くくれば、そうなっていくんじゃないかな? 

一一誰かの指示を待っていても始まらない。

横山:ピザオブデスは20数年やってて、音源を作る会社ではあるけども、音源って結局人が作るもので、人を扱う会社なんだと思ってる。で、人ってもちろん思い通りにならないでしょう? 人との信用で「このバンドを出す、サポートしていく」って決めて、その人たちのペースに合わせて作品作りとかライブツアーをサポートしていく。人を扱う会社だし、間違っても音源を扱うことが第一の会社じゃない。そうなると、年間の予定だとか何年後の展望だとか、実は何も持ってないの。

一一それよりは何が大事ですか。人を扱う時に必要なもの。

横山:やっぱり一番は誠実さじゃないのかな。で、たまたま自分たちが信用して手を組んだ人間が当たらなかったら、それはもう甘んじて受け入れるしかない。さっきから話してるように細かい企画立案や日常の業務はみんながやってくれるわけだから、俺はこの居場所を、ミュージシャンと社員のために、なるべくなくさないように努力をする。それが俺の仕事なのかな、ピザオブデスの社長として。

一一社長が、スタッフを全面的に信じているんでしょうね。

横山:あのね、社長が社員をフルで信用すると、社員の動きって変わってくるから。俺はスタッフの全員に対して「こいつのせいで潰れても仕方ない」と思ってる。そうやって信用してる人間を社員として迎えてるつもりだし、これだけ信用してて横領されたら、そりゃもうしょうがないですって感じ。それくらいの気構えでいたほうがいい。大企業ならまた話は別だけど、10人未満の小さい会社だったら、お互い生きてるわけじゃない? そこで信用しきれなかったり、歯にモノ挟まった気分でいなきゃいけなかったりすると、すごく居心地悪いんじゃないかな。そこは社長の肚の括り方っていうか。

一一いい話ですね。すごくピザらしい。

横山:トップの出来が良すぎると、下は育たないよね。絶対そう思う。上が凄すぎるとダメで、「ほんとしょうがねぇな、この人」っていうくらいがいいんだと思うな(笑)。でもバンドもそうだと思うんだけど、優れたミュージシャンが集まればいいバンドになるかって言えばそうじゃなくて、結局は人の相性だったり、共通項だったり、波長とか、そういうことがものすごく大事だと思うの。くだらないお喋りも大事だし、そういう日常をシェアして、お互いの理解を深めて、それが作るものにすべて反映されていくから。会社も絶対そうだと思う。

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