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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

池上彰の 映画で世界がわかる!

『グリーンブック』ー白人至上主義に揺れる今のアメリカにおいてこの映画が伝えたかったこととは?

毎月連載

第9回

19/2/18(月)

インテリで世界的な黒人ピアニストがアメリカ南部を演奏旅行で回ることになり、粗野で黒人に対する差別意識を持っているイタリア男が、その車の運転手になる。出来すぎたお話に見えますが、これが現実にあったことなのです。白人至上主義運動に理解を示し、白人至上主義者から支持を受けた大統領が誕生したアメリカで、いまこの映画を製作する。製作者のメッセージは明白です。

19世紀の南北戦争で黒人が奴隷から解放された後、それから100年経っても、アメリカ南部では黒人差別が続いていました。白人と黒人が一緒に食事できるレストランはなく、宿泊できるホテルも別々でした。

そんな南部を旅行する黒人たちのために出版されたのが「グリーンブック」。この映画の題名になっています。黒人が泊まれるホテルを紹介したガイドブックです。ふたりは、この本を頼りに南部の演奏旅行に出ます。

映画の舞台となった1962年はどんな時代だったのか?

ここで、映画の舞台となった1962年がどんな時代だったのか、振り返ってみましょう。

当時のアメリカ南部で続いていた差別は、1896年5月に連邦最高裁判所の判決が根拠でした。この判決は、「分離すれど平等」という表現で、「公共施設で白人と黒人を分離することは人種差別に当たらない」というものでした。

こうした差別に抗議する黒人たちの運動が大きな盛り上がりを見せるのは、1960年頃から。民主党のジョン・F・ケネディ大統領は、弟のロバート・ケネディを司法長官に任命し、黒人差別撤廃に取り組みます。

有色人種もアメリカ国民(公民)としての平等な権利を有することを確認するという「公民権運動」が盛んになるのです。しかし、1962年に南部を白人と黒人が一緒に行動するのは危険を伴いました。黒人と一緒にいる白人もまた警察官による差別の対象となったからです。

映画の中でふたりはミシシッピ州の片田舎である“事件”に巻き込まれます。ミシシッピという地名が出てくるだけで、多くのアメリカ人には、ある事件が思い出されるはずです。事件は『ミシシッピー・バーニング』という映画にもなりました。この映画の舞台になった1962年より後の1964年、ミシシッピ州フィラデルフィアで公民権運動の活動家3人が警察官に逮捕された後、白人至上主義者に引き渡され、殺害されていたからです。

1957年、アメリカ南部で起こった人種差別騒動

この映画では、ネタバレになるので詳しくは説明しませんが、警察署長が「州兵の出動は私も望んでいません」と電話口で答えるシーンがあります。これは、1957年の「リトルロック高校事件」が背景にあります。

この年、南部アーカンソー州リトルロックの白人専用の高校に黒人の生徒が入学しようとすると、当時の州知事が州兵を動員して入学を阻止しました。これを知った当時のアイゼンハワー大統領は連邦軍を送り込んで生徒を護衛し、高校に入学させたのです。

州知事には州兵を動員する権限があります。1957年のアーカンソー州では州兵が黒人差別の道具とされましたが、1962年のミシシッピでは州兵は黒人を保護するために動員してもいいと知事が言うようになっていたのです。

露骨な黒人差別にも毅然とした態度をとるピアニストのドン・シャーリーは、すぐかっとなる相棒のトニーに、「品位を保つことが勝利をもたらす」と穏やかに諭す場面があります。これは当時、非暴力抵抗運動を展開していた黒人活動家のマーティン・ルーサー・キング牧師を髣髴とさせます。

ドン・シャーリーとトリオを組んでいたメンバーの発言は、私たちに勇気をくれるでしょう。

「勇気が人の心を変える」のだと。

掲載写真:『グリーンブック』 より
(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

『グリーンブック』

3月1日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:ギャガ 130分
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ/リンダ・カーデリーニほか

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。

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