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遊び心と生命力に満ちたバンド Sir Vanityの魅力 人気声優とともにクリエイティブ担う桑原聖、渡辺大聖の声から紐解く

リアルサウンド

20/7/22(水) 12:00

 Sir Vanityが、6月26日に初配信シングル『Vanity / 悠』をリリースした。

 Sir Vanityは、今年4月に結成された新バンドで、メディアミックス作品『あんさんぶるスターズ!』で共演経験のある、声優の梅原裕一郎と中島ヨシキ、作曲家の桑原聖と演出家の渡辺大聖の4名で構成。バンド名に掲げられたSir Vanityの“Vanity”は、英語で“自惚れ”を意味しており、メンバー自身がバンド活動にとことん没頭し、切磋琢磨を重ね、己の音楽に“自惚れ”たいという想いを込めてつけられたとのこと。ちなみに、全員一致で魚の“サバ(鯖)”が好物で、サバをもじった今回のバンド名も鯖専門店での食事中に決められたという逸話もあるのだとか(なんて自由で愛らしいエピソードなのだろう)。

(関連:Sir Vanity、GRANRODEO、OLDCODEX……声優所属の音楽ユニットが示してきた、新たな時代の可能性

 ここで改めて、メンバーの担当パートや経歴を簡単に紹介しよう。バンドの肝となるギターとボーカルを担当するのは、梅原と中島の2名。高校時代には軽音楽部に所属し、ギター演奏に定評がある梅原の一方、中島は今回のバンド結成を機に初めてのギターを購入している。また、楽曲の作編曲とベースを担う桑原は、酒井拓也ら気鋭のクリエイターが名を連ねる音楽制作レーベル<Arte Refact>の代表を務めており、音楽プロデュースを手掛ける『あんさんぶるスターズ!』でも数多くの楽曲を書き下ろしている人物。加えて、渡辺は『あんさんぶるスターズ!Starry Stage 2nd ~in 日本武道館~』のほか、数々のライブ演出を手掛けており、Sir Vanityではバンド全体のクリエイティブディレクションとVJを任されている。

 そもそも、声優が表に出ない職業だったとは今なお語られる話ではあるが、それに加えて、渡辺のような演出家さえバンドメンバーとして加わることに意外性を覚えたリスナーもいることだろう。いわば、彼らのバンド形態には“最強の裏方が集結してしまった感”を覚えるほかならず、今回リリースされた『Vanity / 悠』もその期待を裏切ることなく、バンドの挑戦に臨む姿勢がしっかりと切り取られている。ここからは、桑原と渡辺へのメールインタビューの内容を交えつつ、Sir Vanityの音楽や今後の展望について語っていきたい。

 はじめに、作品の顔となるジャケットについて。水平線のような景色を収めたスタイリッシュな今回のジャケットだが、我々の見ている世界とはどこか色味が反転している。どのような発想で、このジャケットは生まれたのだろうか。渡辺はこう語ってくれた。

「ジャケット自体のコンセプトは、”自惚れた世界”で、世界を切り取ってそこに僕たち自身の意思を介在させてもう一つの世界を作っている様子が表現したくて、こういうビジュアルを作りました。分かりやすく言うと、“世界なんか知らん! 自分たちが良いと思うままに自由に生きるぜ!”という感じです」

 いきなり核心を突いてしまうのだが、彼らの活動形態や方針は、他のバンドと比べてもかなり自由度が高い。おそらく、Sir Vanityという“かっちり”とした名前からストイックな印象を覚える人もいただろう。たしかに、ここから紹介する彼らの楽曲は間違いないクオリティなのだが、メンバー自身はその活動に実直さをぶつけながらも、常に遊び心を忘れず、好きなことを好きなようにやろうとする姿勢のようである。今回のジャケットと上記の制作背景がその証拠になるのではないだろうか。

 また、収録曲「Vanity」では、梅原が作詞を担当。その歌詞は、中島がギター初心者として新たな挑戦を前に躊躇いを感じていたものの、徐々に「恥をかける大人になりたい」と、バンド活動を決心したというエピソードを聞いたところから、梅原も一気に歌詞を書き上げたとのこと。「Vanity」は、あくまでもバンドのタイトルナンバーではないものの、バンドの初期衝動がストレートに込められた楽曲だ。

 中島の作詞による「悠」は、サウンド面から掘り下げていこう。同曲では、デジタルビートで組み上げた音源に、生ドラムを重ねて収録。桑原自身も「あまりやったことがなかった」という実験的な試みだったそうだ。そのほか、「ベースラインも元々はシンセベースでバリバリに打ち込んで、それを最後に生ベースに差し替えたので、最後まで本当に弾けるのかと内心焦っていたが、個人的には満足な仕上がり」になったとも振り返ってくれた。

 そんなSir Vanityならではの面白さに挙げられるのが、声優2名によるダブルボーカル兼ギタリストの歌唱スタイルである。その強みについて、桑原はこう説明する。

「得意分野を担当するでもいいし、あえての苦手な人が担当するでもいいし、一粒で2度美味しいじゃないですけど、色んな角度から切り取れるのは表現をする上で幅が広がるので嬉しいですね」

 さらに、梅原と中島という2名の人気声優が、どのような手法の歌声を奏でてくれるのかも大きなポイントだ。彼らは声優として、いわゆるキャラクターボイスを用いて、“演じながら”歌を披露するのか。はたまた、多くの声優アーティストと同じく、個人のパーソナリティを楽曲に反映しながら、“素の歌声”を表現するのか。桑原は前者の歌唱法について、キャラクターとして歌声の違和感をなくしていく必要があるほか、「個人の感情を優先すると作品性が薄れて」しまうと例を挙げながら、続けて語ってくれた。

「声優アーティストにおいても、その人のパーソナルだったり、趣味嗜好にフォーカスを当てて組み上げていく方もいれば、自分の思い描く理想のアーティスト像を“演じる”方もいます。どちらも素敵な形だなと思いつつ、Sir Vanityは後者に近いのかなって」

「僕らは決して演じているわけではないので、表現したいことをぶつけているというか、音楽に言葉をのせて感情を揺さぶっていきたいなと。なので必然的に歌詞はメンバーが書かないとダメで。自分たちの言葉でぶつけていきたい。内容は本心でもフィクションでも良いんです、それが形になった時に自惚れられたら勝ちだなって思っています」

 その上で、レコーディング時には言葉のリズムや発音をあえて崩すなど、「生きている質感」に重きを置いたという。生きている質感。これこそが「Vanity」「悠」を通して感じた、バンドの“生命力”の滾るサウンドであり、彼らの音楽に心を揺さぶられる理由のひとつに違いない。彼らの目指す“自惚れ”には、自身の振る舞いに主観的に陶酔しながらも、その自分をどこか客観から俯瞰する視点も必要なものだ。その双方を兼ね備える視点こそ、声優として日頃から磨かれている能力であり、まさに今回のバンド観にもぴったりである。

 また、昨今の情勢から無観客ライブの生配信が今後も広まると思われるが、ここではVJや映像制作を担当する渡辺の腕前が活きそうである。現段階でのライブ構想を尋ねたところ、渡辺は以下のように答えてくれた。

「新しい時代のライブエンターテインメントは一つのプラットフォームや楽しみ方にとらわれず、マルチプラットフォームをリアルタイムに横断でき、その瞬間でしか得られない価値を繋いでいくことで、1人1人その人だけのストーリーを作ることだと思っています。色々な表現やインフラ、プラットフォームを使って、Sir Vanityらしいライブ体験として作れるか、今から少しずつ考えていきたいです」

 渡辺にとって、ライブ配信は映像といい意味でイコールでは直結せず、VJについてもその職能に止まることなく、数多の演出のハブとなる存在として捉えているのだろう。彼らの紡ぐストーリーがどのような形でビジュアライズされるのか。そのステージを楽しみにさせられる。

 最後に、バンドとして今後の目標を聞いてみた。

「目標はたくさんありますが、ライブツアーができるように成長していきたいですね! 単純にこのメンバーで旅行がしたいのも含まれますけど(笑)。あとはせっかく“サバ、鯖”と言っているので、鯖(食品)関係のお仕事と繋がれたら嬉しいですね(笑)」(桑原)

「ライブツアー(旅行)と鯖にまつわるグッズは作りたいってよく話しています(笑)」(渡辺)

 何はともあれ、最後はやっぱり“サバ”になってしまった……。そんなオチを用意してくれる温かさもありつつ、今回のシングル収録楽曲の出来栄えを含めて、全員が各自のフィールドで培った経験と、レコード会社に所属しない自主活動ならではの自由度の高さを武器にしているSir Vanity。彼らの頭の中には、音楽と仲間に対する愛情と情熱、そのすべてを繋いでくれた“サバ”だけがあるのだろう。だからこそ、彼らの表現は何にも縛られず、心の底から音楽を奏でる時間に没頭し、そこで生まれた功績に対して、美酒を傾けるように“自惚れ”られるのだと思う。Sir Vanityと一緒に“自惚れる”毎日は、まだ始まったばかりだ。(一条皓太)

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