Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

年末企画:小野寺系の「2019年 年間ベスト映画TOP10」 “内省”が重要なテーマに

リアルサウンド

19/12/21(土) 12:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。映画の場合は、2019年に日本で劇場公開された(Netflixオリジナル映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第3回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部)

参考:『ホットギミック ガールミーツボーイ』徹底解説! 山戸結希監督が確立させた“新しい映画表現”

1. 『ディリリとパリの時間旅行』
2. 『三人の夫』
3. 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
4. 『ホットギミック ガールミーツボーイ』
5. 『ピータールー マンチェスターの悲劇』
6. 『ゴーストランドの惨劇』
7. 『サスペリア』
8. 『読まれなかった小説』
9. 『ある女優の不在』
10. 『家族を想うとき』

 昨年はアメリカ映画に面白い作品が集まった印象でしたが、今年は世界各地の優れた作品が続々と日本で公開され、国別ではバラけたランキングとなりました。

 世界的に権力の濫用や保守化への揺り戻し現象が増えるなか、文化面ではそこへのカウンターとしての「内省」が重要なテーマになってきていると感じます。むやみな生産・消費などの拡大路線を捨てるとともに、多様な価値観を受け入れる時代を迎えています。

 『ターミネーター:ニュー・フェイト』や、『アナと雪の女王2』、『サスペリア』など、ジャンル映画のなかでも、過去の間違いを振り返り、新しい考え方を選び取るという要素を組み込んでいます。『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、悪が正義を語り真実が見えにくくなりつつある世界を認識しつつ、その上で「正義は間違いなく存在する」と宣言する気概を見せました。

 そこで重要になってきているのが、人種や性差別などを糺す倫理的な妥当性を示すポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)という考え方です。まだまだ誤解が広まっているのは、このような“倫理観”が、作品をつまらなくする要因になっていると思われていること。これは、“攻撃的な表現をするな”ということでなく、“社会的な弱者や少数者にのみ矛先を向けるな”というシンプルな話。このことが周知されていないことで確執や壁が生まれていると感じます。

 優れた“倫理観”が、むしろ作品や人生を輝かせ、豊かなものにするという魔法を見せてくれたのが、ミッシェル・オスロ監督の『ディリリとパリの時間旅行』でした。一部の人間が弾圧される暗闇のような社会に、ささやかな希望の火を灯す、知性と優しさ、そして激しい怒りに満ちた作品です。

 『ディリリとパリの時間旅行』を含めて、この時代に、『ゴーストランドの惨劇』、『ある女優の不在』、『ラフィキ:ふたりの夢』、『ブレッドウィナー』、『幸福路のチー』などなど、社会における女性の現状を告発する作品が増えているのも必然。『ホットギミック ガールミーツボーイ』は、キラキラ映画として存在しながら、それ自体に潜む暴力を暴き出すという、最も野心的な一作です。

 『ホットギミック ガールミーツボーイ』の山戸結希監督は、このようなテーマ性にくわえ、新たな映画文法を独自に確立するという革新性によって、私の知る限りでは、現在の日本で唯一、“ワールドクラス”と呼ぶことのできる映画作家になったと感じます。この新しさに、いまだ対応できていない日本の批評家の足取りの重さに憤りを覚えます。

 社会への抵抗を最もアツく表現した『ピータールー マンチェスターの悲劇』をはじめ、『読まれなかった小説』、『家族を想うとき』、『希望の灯り』、『幸福なラザロ』、『荒野にて』など、市民の窮状をうったえ、戦う意志を示す作品は、この時代だからこそ、より熱がこもった表現を獲得していると思います。

 一方、時代感覚とはかけ離れたところで輝いたのは、フルーツ・チャン監督の『三人の夫』や、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。これらは明らかに異質で、倫理を超えた凶暴な“でたらめさ”が、圧倒的な表現に結びついています。『ディリリとパリの時間旅行』の内容に象徴される、作家同士のゆるい連帯感覚も素晴らしいですが、このような作家主義やパーソナルな表現が、いまだ健在なのも事実。だがそれは、一種のコードを意図的に無視しているだけで、ことさら倫理に敵対するものになっているわけではない、ということを付け加えておきます。(小野寺系)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む