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アイドルと恋愛、長きにわたって続く議論 誰もが幸せになれるラインはあるのか

リアルサウンド

21/2/24(水) 6:00

 2月12日、アイドルグループ・Juice=Juiceのメンバーである高木紗友希の脱退が事務所から発表され、ハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)での活動も終了することになった。大きな要因となったのは、2月11日に報じられた交際相手との半同棲。高木と所属事務所の話し合いがあったのち、報道翌日に活動終了が告げられるというスピード決定だった。

 高木は「グループの一員として、自覚が足りない軽率な行動でした。沢山の方の気持ちを裏切ってしまいました」と公式でコメント。さらに「許してもらうことは出来ないと思います。私はどのような形で責任を取るべきか、そしてどのような形で恩返しをするべきかと考えた結果、このような形でご報告させていただきました」と、自分の判断で脱退・退所したことを述べた。

 アイドルに恋愛が発覚した際、公式発表のコメントでよく使われる「自覚に欠けていた」という一文。これはどういう意味なのだろうか。アイドルの立場でありながら恋愛をしたこと? 恋人の存在を隠し通せなかったこと? 自覚という言葉を見るたび、日本の女性アイドルが果たすべきは、歌やダンスだけではなく、恋愛について律することもそのひとつなのだと思い知る。

アイドルの恋愛否定派の気持ちは痛いほどよく分かる

 アイドルの恋愛はアリか、ナシか。長きにわたって答えがずっと見つからないまま、アイドル、ファンのあいだではなんとなく「恋愛禁止」が業界ルールとして見なされてきた。時には活動前の恋愛経験が流出して処分が下されることもあるが、素人時代にまで口を出して自覚を問うのはさすがに無理がある。でも、それくらいアイドルにとって恋愛は敏感な話なのだ。

 「否定派」の気持ちはよく分かる。特に理解できるのは、アイドルのことを本気で推すファンたちの感情面だ。Twitterなどでアイドルファンの投稿をたくさん目にするが、これは決して悪い意味ではなく、ヲタクはみんな本当に飽きもせず毎日推しのことばかりつぶやいている(繰り返すがこれは褒め言葉!)。

 土日のライブはデフォルトで、平日もできるだけ通う。決して安くないチケット料を支払い、毎回必ずチェキを購入し、ドリンクも飲めば、1度のライブでの出費はバカにならなくなる。グッズもできるだけ買い揃える。コロナ禍でグループの経営が苦しいと察すると、仕事の合間にオンライン特典会へ参加。ライブ遠征があれば、自分たちも数泊して応援に行く。食事時には推しメンのチェキを添える。現場を一層盛り上げるため、有志でLINEグループを作って作戦会議をすることも。

 多くのお金、時間、体力を費やす理由は、推しに長く活動を続けて欲しいからであり、グループにステップアップしてもらいたいからだ。ひたすらアイドルを想うヲタクたちの姿を見ていると、なんだか愛おしさを感じる。

 「推す」は、恋愛の「好き」とは異なるとは言え、ファンは心を込めてアイドルを本気で愛している。だからこそ、推しのアイドルに恋人がいると分かれば、一気に冷めたり、複雑な思いに駆られたりするのは人間として自然な感情だろう。「アイドルを推す」という気持ちは、あくまで表面上において「恋人はいない」という前提から生まれるものではないだろうか。

 アイドルとファンはリアルな恋愛に発展することがない(とされている)。とは言え、そうやってファンの好意を揺さぶることでお金や人気を生み、さまざまな仕事へつなげていく特性が絶対的にある以上、「恋人がいたらビジネスにならない」という運営や事務所の判断も納得できる。運営・事務所の目線で考えると、アイドルビジネスという上で恋愛は戦力外項目のひとつになる。

 アイドル自身にも恋愛に対する考え方に違いはある。実際に接した女性アイドルのなかには、「私は恋人持ちのアイドルを、アイドルとして認めたくない」と断固否定の姿勢の者もいた。理由は「応援してくれるファンに申し訳ない」というもの。やがて「自分はこんなに恋愛を我慢しているのに、どうしてあのコは…」と不信感に発展。筆者が目撃したその事例は最終的に、恋愛をOKと考えるメンバーと拒むメンバーの意見が食い違い、グループ自体が崩れてしまった。グループで活動する以上、恋愛を含めて意思を統一させることがいかに大事か考えさせられた。

小田さくら「家でだらだらしていることも改めないと…」

 一方、筆者個人は基本的に「肯定派」だ。アイドルの恋愛が受け入れられるようになっても良いのではないかと考えている。

 全国各地にこれだけアイドルの数が増え、さらにモーニング娘。、でんぱ組.inc、ももいろクローバーZ、そして全員結婚を発表したNegiccoなど活動歴の長いグループも多くなってきた。いろんな考えが生まれ、何かに縛られることもなくなってきたなかで、恋愛をきっかけにアイドルの道が断たれることは「いまどき、どうなのかな」と感じてしまう。アイドルも職業である。女性が結婚、出産をしても仕事が続けられる環境づくりが社会全体としてすすめられるなか、そういった世の中の動きは無視できないのではないか。

 あと、テレビやYouTubeでいまだに、元アイドルたちが出演して「アイドル時代の恋愛事情」を打ち明ける番組を見かける。恋愛話自体は良いとは思う。しかし、アイドルの恋愛が暴露話的な形で打ち出され、スキャンダラスなイメージで扱われる限り、タブーの域から抜け出すことはできないだろう。そういう企画構成をおもしろがる番組制作者は数多くいる。そういった人たちの、アイドルに対する見方の変化も必要である。

 モーニング娘。’21の小田さくらは「私が思うこと。小田さくら」と題した2月17日のブログ内で、このように気持ちを記している。

「音楽を武器にしようとしているハロー!プロジェクトが私は大好きです。なので、高木さんのように歌声という最大の武器を持ち合わせていた人ですら、戦えない事があるという現実に音楽が1番大事ではなかったんだと感じた事がすごく悲しかったです。じゃあ私達がアイドルとして努力してきた歌やダンス、ダイエットなどは無駄なのでしょうか?「アイドル」は音楽という娯楽の中にちゃんと属せているのでしょうか? 私が思う事は1つで、アイドルが個性や音楽で評価される世の中になったら良いなぁと思います」

 アイドルを推す理由として、先述したように「好意が揺さぶられる」というものがある。でも、それだけではない。圧倒的な歌唱力、目を奪われるほどのダンスなど、パフォーマンスの素晴らしさから「この人を推そう」となる場合も多々ある。現に筆者は、小田さくらのステージングが大好きだ。モー娘。のライブを見るとき、彼女を中心に追っている。恋愛的な感情とはまったく違う部分で魅力を感じている。

 さらに小田は以下のように続ける。

 「私がプロとして皆さんから頂いているものは歌、ダンス、笑顔、キラキラなどあくまでステージ上のものに対して頂いていると思っていましたが その中にプライベートの事までもが含まれていたのならば 家でだらだらしている事なども改めないといけないなぁと思います。(中略)私は、「アイドル」という肩書をお仕事以外のために使っている方はあまり好意的には思わないです」

 本稿前半では、「アイドルの恋愛」に対するファンや運営の心理を書いた。一方でアイドルたちは、小田のこの意見に共感できる部分が強いのではないか。

アイドルの恋愛、全員が納得できるラインとは?

 書籍『地下アイドルの法律相談』は、アイドルの恋愛の可否について法律的な目線で語られていて、とても分かりやすい。事務所との契約において恋愛禁止を設定されることは、「公序良俗違反」にあたると記述。恋愛をする自由は人間が幸福に生きるうえで重要な行為であるため、契約などで恋愛禁止を定めるのは人権問題だという。恋愛禁止の契約を破ったとして損害賠償請求の裁判も過去にあったが、判決内容はさまざま。ひとつ訴えたいのは、恋愛禁止の約束を破って事務所を退所させたとしても、芸能界から締め出して表現者としての芽を摘むようなことはないようにしてほしい。

 アイドルの恋愛――。アイドル、ファン、運営のすべてにとって幸せになれるラインは現状、結局「バレないこと」になるだろうか。ファンとしては「恋愛などプライベートは何をしていても良いけど、アイドルとしてそこは隠し通してほしい」がせめてもの願いなはず(ただJuice=Juice・高木の場合はマスコミに探り当てられてしまった。そうなると難しい……)。そのためにはアイドル本人だけではなく、交際相手の理解も必要になってくる。

 あと筆者は「肯定派」と書いたが、それは私が、好意的な目で特定の誰かを本気で推しているわけではないからだろう(もちろん「良いな」というアイドル、興味深いアイドルはたくさんいる)。だからアイドルの恋愛もこうやって受容できる。もし、感情面で本気で惚れ込むアイドルがいたなら正気でいられないかもしれない。

 こうやって恋愛を含めて現在のアイドルのあり方について意見が交わされることはとても大切だ。今後、恋愛をオープンにするアイドルも出てくる可能性はある。実際、バラエティ番組の企画とは言え『今日、好きになりました。』(AbemaTV)内で、PARADISESのナルハワールド(山田なる)が男性と恋愛を実らせた。推すか推さないかはファンの判断に委ねられるが、かつてほど「アイドルの恋愛禁止」がまかり通る時代ではないことだけは、心の準備をしておいた方が良いだろう。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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