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藤原さくら、mabanuaとの融合で手にしたクロスオーバーなポップミュージック EP『red』評

リアルサウンド

18/9/24(月) 12:00

 シンガーソングライターの藤原さくらが、6曲入りのEP『red』をリリースする。本作は、今年6月にリリースされた同じく6曲入りのEP『green』の続編というべき内容で、プロデューサーも引き続きドラマー/プロデューサーのmabanua。これまで藤原は、Curly Giraffeこと高桑圭やSPECIAL OTHERSのYAGI & RYOTA、それこそmabanuaも在籍するバンド、Ovallの面々など、アルバムごとに複数のプロデューサーを迎えていたが、『green』と『red』はアルバム1枚を通して1人のプロデューサーを起用する形になり、そこに抜擢されたのがmabanuaというわけである。

 藤原がmabanuaとタッグを組むのは『green』が初めてというわけではなく、彼女の1stアルバム『good morning』でも2曲を一緒に作っている(「I wanna go out」「Give me a break」)。ブラックミュージックをルーツに持ちながらも様々な音楽スタイルを取り込み、ジャンルにとらわれない楽曲をこれまでも数多く作り出してきたmabanuaだが、自身のソロ名義はもちろん、昨年末に再始動したOvallでの活動、米津玄師やSKY-HI、LUCKY TAPES、RHYMESTERといったアーティストのプロデュースなど、そのワークスは枚挙に暇がない。ドラムだけでなく様々な楽器を操るマルチプレイヤーでもあり、ビートメーカーでもある彼と藤原の相性は抜群。ブルースやフォーク、カントリーなどの要素を散りばめた藤原のメロディセンスを巧みに引き出しつつ、mabanuaの持つブラックミュージックのエッセンスを加えたアレンジは、「I wanna go out」や「Give me a break」で構築した世界観の延長線上にあるものといえるだろう。かねてから藤原は、自分のソングライティングに大きな影響を与えた人物としてポール・マッカートニーの名前を挙げているが、そんな彼女のポップセンスと、mabanuaのマニアックなサウンドプロダクションも、絶妙なバランスで混じり合っているのだ。

 最近のインタビューなどによれば、今回mabanuaはデモ段階からアルバム制作に加わったという。藤原の作ったデモを聞き、それについて意見を述べた後、最終的にスタッフを含めて曲を絞り込む。それを藤原のリクエストと共に持ち帰ったmabanuaが、アレンジの「たたき台」を作り、そこから先は藤原とmabanua、そしてディレクターの3人で詰めていくというやり方だ。骨子のメロディは藤原が考えたものだが、コード進行や構成などでmabanuaがアレンジを加えた部分もある。これまでの藤原の楽曲は、一筆書きのようなものが多く、時にはフックとなるメロディが隠れてしまいがちだったが、mabanuaはそれを丁寧に拾い出し、引き立たせるようなアレンジを加えている。『green』も『red』も、サウンドの質感は温かみがある一方、構成やメロディなどシャープな印象があるのはそうしたアレンジ手腕によるものなのかも知れない。

 冒頭に述べたとおり、『red』は『green』の延長線上にある作品だが、アルバムの色合いは微妙に変化している。『green』では、フォーキーでブルージーな藤原の要素に、mabanuaのブラックミュージックのエッセンスを掛け合わせたら一体どうなるのか? ということをかなり“意識的に”試みている印象がある。例えば「Time Flies」では、フィル・スペクター風のウォール・オブ・サウンドにコミカルなサンプリングフレーズを挿入したり、「Sunny Day」では、70年代のソウル〜レアグルーヴを思わせるリズムを加えたり。「グルグル」は「I wanna go out」同様、藤原の“マッカートニー愛”が炸裂したマイナーなフォークチューンだが、そこにDJ Mitsu The Beats(GAGLE)のスクラッチを混ぜ合わせる。つまり、藤原らしさとmabanuaらしさが、完全には融合せずに寄り添いあったり、時にぶつかり合ったりしているところがユニークだったのだ。

 それが『red』では、「あ、ここは藤原アイデアだな」とか、「ここはmabanuaがリハモナイズした部分だな」というのが、少し聴き込んだくらいでは分からないほど2人の“融合”が進んでいる。コラボレーションを重ねることにより、お互いがお互いの作風に影響し合うようになったからなのかもしれないし、「藤原さくらの楽曲に、mabanuaらしさを加えたらどうなるか?」ということよりも、一つ一つの楽曲が求める音を探し求めた結果こうなっただけなのかも知れない。いずれにしても『red』は、「フォークとヒップホップの融合」だとか、「ブルースとビートミュージックの出会い」などと、ジャンルで言い表すのがますます難しい作品になっている。むしろ、何のジャンルか説明できない音楽になっているところに、本作の「何度も聴き返したくなる中毒的な魅力」があるのだろう。

 例えば冒頭曲「Lovely Night」は、コンプレッサーの効いたビンテージっぽいピアノがつんのめるようにバウンスし、そこにメロディックなベースが絡みつく。藤原ボーカルはブルージーにフラットしたかと思いきや、サビではカラフルに歌い上げる。チャラン・ポ・ランタンの小春(アコーディオン)をフィーチャーした「また明日」は、どこか無国籍な空気が漂っているし、「NEW DAY」の後半で唐突に飛び出すバロックピアノは遊び心たっぷりだ。mabanuaのレーベルメイト、Michael Kanekoが控えめにバッキングボーカルで参加した「Dear my dear」は、エンディングで拍のアタマを見失うほどトリッキーなドラムを(さりげなく)披露。「うたっても」では、『green』のレコーディングで藤原が興味津々だったというローランドのリズムマシン、TR-808をフィーチャーし2作の関連性を聴き手に意識させる。最後の曲「クラクション」は、荒井由実「ひこうき雲」のようなハモンドオルガンに導かれ、徐々にブレイクビーツやホーンセクションが加わっていく壮大な曲。全6曲、見事にバラバラだが不思議な統一感があるのは、どんな楽曲でも歌いこなす藤原の表現力はもちろん、ほぼ全ての楽器を演奏したmabanuaのグルーヴが、アルバム全体を貫いているからだろう。

 そういえば以前、mabanuaにインタビューをした時、最新ソロ作『Blurred』はUnknown Mortal Orchestraあたりにインスパイアされつつ、「ジャンルが特定されないような音楽を目指した」と話してくれた。藤原との一連のコラボ曲と、『Blurred』はサウンド的には全く異なるが、様々なジャンルのクロスオーバーという意味では通底するものがあるのではないか。

 「1アルバム1プロデューサー」というコンセプトは、ともするとアルバム全体が一本調子になってしまう可能性もある。が、mabanuaによる2つのミニアルバムは、まるでプレイリストを聴いているような、次にどんな曲が飛び出すのか分からない楽しさがあるのだ。一方、彼のプロデュースにより「クロスオーバーなポップミュージック」を手に入れた藤原さくらは、彼女が目指すクロスオーバーなポップアーティスト、ポール・マッカートニーにまた一歩近づいたといえるだろう。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

■リリース情報
『red』
発売:9月19日(水)
初回限定盤:CD+GOODS(オリジナルバンダナ)+SPECIAL BOX仕様
¥2,916(税込)
通常盤:CD+初回プレス限定デジパック仕様
¥1,944(税込)
<CD収録曲>
M1.Lovely Night
M2.また明日
M3.NEW DAY
M4.Dear my dear
M5.うたっても
M6.クラクション

■ライブツアー情報
『Sakura Fujiwara tour 2018 yellow』
9月29日(土)OPEN16:00/START17:00
会場:埼玉・戸田市文化会館
問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション(03-5720-9999)

10月5日(金)OPEN18:00/START19:00
会場:愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
問い合わせ:サンデーフォークプロモーション名古屋(052-320-9100)

10月14日(日)OPEN16:00/START17:00
会場:奈良・なら100年会館 大ホール
問い合わせ:キョードーインフォメーション(0570-200-888)

10月19日(金)OPEN18:00/START19:00
会場:北海道・道新ホール
問い合わせ:WESS(011-614-9999)

10月21日(日)OPEN16:00/START17:00
会場:東京・中野サンプラザ
問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション(03-5720-9999)

10月27日(土)OPEN17:00/START18:00
会場:静岡・静岡市民文化会館 中ホール
問い合わせ:サンデーフォークプロモーション静岡(054-284-9999)

11月2日(金)OPEN18:00/START19:00
会場:大阪・オリックス劇場
問い合わせ:キョードーインフォメーション(0570-200-888)

11月4日(日)OPEN16:00/START 17:00
会場:新潟・新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)・劇場
問い合わせ:キョードー北陸チケットセンター(025-245-5100)

11月10日(土)OPEN16:00/START 17:00
会場:福岡・福岡市民会館 大ホール
問い合わせ:BEA(092-712-4221)

チケット:全席指定¥4,860(税込)
※3歳以上はチケット必要(2歳以下は入場不可)
一般発売:9月15日(土)

■関連リンク
藤原さくらオフィシャルサイト

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