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千葉雄大VS成田凌 『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』で呼応し合う“怪演”

リアルサウンド

20/2/23(日) 10:00

 前作『スマホを落としただけなのに』(2018年)の公開から早1年と約4カ月。前作の興奮の冷めやらぬうちに、いま再び千葉雄大と成田凌の戦いの幕が切って落とされた。それが、続編『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』である。本作において両者ともども、“怪演”を見せているように思う。

 “怪演”というと、いささか疑問を抱く方がいるかもしれない。たしかに前作で成田が演じた連続殺人鬼の姿は“怪演”と呼べるものであったが、千葉に関していえば、極めてまっとうな人物を演じているものと思えた。しかし、今作で描かれる物語の一つの核となるのが、千葉演じる刑事・加賀谷の“個人の問題”。前作のクライマックスでは、正義の側であるはずの加賀谷と、完全なる悪の存在である成田演じる浦野に、一つの共通性があることが露見した。幼少期に、恵まれない家庭で育ったことによる大きなトラウマである。浦野が逮捕されたことによって事件は解決していたが、この加賀谷自身の問題は解決していなかったのだ。浦野はそのトラウマに端を発し、凶悪事件を繰り返していた。つまりこれをたどってみれば、刑事・加賀谷も浦野と同じ穴の狢にもなりえるということである。

【写真】ヒロイン役の白石麻衣

 前作は、一人の男性がスマホを落としたことによって個人情報が漏洩し、その恋人であるヒロインが危険にさらされるという筋書きであった。この被害者たちを懸命に守ろうとし、犯人逮捕に死力を尽くすのが加賀谷刑事で、凶悪犯が浦野である。その中でいくつもの異なるストーリーラインが交錯するのだが、そのうちの一つが、加賀谷と浦野の対峙だった。そして続編である今作では、この二人の対峙がよりフォーカスされている。しかし対峙といっても浦野は檻の中だ。ここで、かつて浦野が起こした事件に類似したものが発生し、犯人検挙のため加賀谷は浦野に協力を要請。二人は共闘することになるのである。しかし浦野は完全に常軌を逸した人物。もちろん一筋縄ではいかないのだ。

 うかない表情、それに反して力強い発声……加賀谷を演じる千葉雄大の様子がどうにもおかしい。彼を見ていると、冒頭からどうにも不安感が拭えない。やがて加賀谷の恋人(白石麻衣)が、ネットを使う“新たな凶悪犯”のターゲットにされるのだから、当然といえば当然だ。同じような状況に置かれたら、誰だっておかしくなることだろう。そのうえ犯人検挙のためには、天才的なネット犯罪者・浦野の存在が不可欠。刑事と犯罪者という真逆の立場にありながらも、彼と向き合うことは自身の過去(トラウマ)と向き合うことでもある。加賀谷のおかしさは、凶悪犯を前にした怯えとも取れるし、先述した共通性に依るものとも思える。このあたりのことを根拠とすると、千葉の演技に対して抱いてしまう不安感にも納得がいく。前作に引き続き、あからさまな挙動のおかしさを見せる成田のフィジカルな演技アプローチは、純粋に“怪演”と呼べるものだろう。むしろ前作以来さらにキャリアを重ね、そのヤバさには磨きがかかっているくらいだ。それに対して千葉は、演じるキャラクターの刑事という立場による社会的要請と、個人が抱えるトラウマによる未成熟な部分とのズレが見受けられる。ここで立ち現れる内面と外面とのズレが、彼の演技に反映されているように思えるのだ。このおかしさが、ある種の“怪演”として私たちの目には映るのである。

 もちろん、両者とも同種のトラウマを抱えているとあって、鏡のような対になるキャラクター同士でもあり、相互作用の関係にもある。成田が“怪演”を果たせば、それに千葉が呼応するかたちと見て取れるのだ。本作において両者の演技アプローチが違うことも、さらにそれを助長させているのだろう。

(折田侑駿)

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