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“おじさん”主人公のバトル漫画『怪獣8号』なぜブレイクした? ジャンプの必勝パターン×ミステリー群像劇の面白さ

リアルサウンド

21/3/23(火) 9:00

 『怪獣8号』(集英社)の第2巻が発売された。漫画アプリ「少年ジャンプ+」で松本直也が連載している本作は、怪獣大国と呼ばれている日本を舞台にしたアクションバトル漫画。

 怪獣清掃会社で働く32歳の青年・日比野カフカは、後輩の市川レノとともに、一度は諦めた怪獣討伐を目的とした防衛隊員の入隊試験に挑む。

 連載開始してすぐに本作は人気作品となり、2巻発売の時点で累計発行部数は「少年ジャンプ+」最速で累計100万部を突破。怪獣映画のテイストを、ジャンプ漫画の必勝パターンに落とし込んだミステリーテイストの群像劇として珠玉の仕上がりとなっている。

以下、ネタバレあり。

 防衛隊員選別試験の第二次最終審査に挑んだカフカたちは、試験の舞台となった市街地型演習場で、防衛隊によって配置された本獣(メインで発生した怪獣)と余獣(本獣に派生して生まれた怪獣)達との戦いに挑んでいた。

 史上最高の逸材と言われる防衛隊長官の娘・四ノ宮キコルが圧倒的な体術で本獣を倒したことで、試験はあっさりと終了する。しかし、そこに討伐リストに登録されていない謎の人型怪獣が現れ、キコルを襲撃。謎の怪獣は殺された怪獣を蘇生させ、圧倒的な力でキコルを襲う。そこに、カフカが駆けつけ怪獣に変身。謎の怪獣に戦いを挑む。

 謎の小型怪獣が体内に入り込んだことで、カフカは人型怪獣に変身する力を身につけていた。タイトルの『怪獣8号』とは、怪獣に変身したカフカに付けられたコードネーム。正体が判明すればカフカ自身が怪獣として処分されてしまう状況の中で、カフカはためらうことなく変身してキコルを救う。

 その後、謎の怪獣は姿を消す。キコルが黙っていてくれたことでカフカの正体は知られずに済む。試験は終わり、キコルやレノは無事入隊。カフカは不合格になりかけるものの、第3部隊副隊長の保科宗四郎が、カフカに興味を持ったことで候補生として入隊する。カフカたちが入隊して以降は、登場人物が一気に増えて、物語は学園漫画テイストのにぎやかなものになっていく。

 物語の導入部に、主人公たちが所属する組織や職業の選別試験を描き、その後、学園ドラマテイストに変わっていく展開は、古くは『NARUTO -ナルト-』、最近では『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』といった作品でも展開されている90年代後半以降のジャンプ漫画が得意とするストーリー展開だ。

 32歳のおじさんが主人公の怪獣漫画というジャンプ漫画では異色作に見える本作だが、幅広い読者に読んでもらうために様々な工夫が施されている。この入隊試験と、その後の宿舎を舞台にした学園ドラマテイストの群像劇は、その最たるもので、『怪獣8号』はとてもポップで見やすい群像劇となっている。

 一方で話を面白くしているのは、謎の人型怪獣が登場したことで、より極まっているミステリー(謎解き)のテイストだ。謎の人型怪獣は他の怪獣とは違い、人の言葉を理解し知性らしきものを有している。カフカが務めていた怪獣清掃会社の解体作業員に擬態して隊員たちを襲う彼の目的はいまだ謎に包まれている。おそらくカフカが人型怪獣に変身してしまった謎とも絡んでくると思うのだが、見えない敵と戦う心理戦の様相も見せており、巨大怪獣を隊員たちが倒す派手なアクションとは違う物語の面白さとなっている。

 SFテイストのサバイバルアクションとミステリー。そしてジャンプ漫画らしい青春群像劇。まだ2巻なのに、これだけ人気があるのは、エンターテインメント作品として、面白さのバリエーションがとても豊富で、様々な観点から楽しむことができるからではないかと思う。同時に面白いのは、やはり怪獣の描き方だろう。巨大生物としての怪獣を見せる漫画ならではの描写はもちろんのこと、怪獣の存在が日常化している世界の見せ方がとても上手い。

 本作の怪獣には「フォルティチュード」という独自の数値によって計測された危険度がランク付けされている。このあたりは地震のエネルギーを現すマグニチュードを連想させるものがあり、この世界では怪獣が地震や台風のような存在となっていることがよくわかる。

 他にも怪獣と戦う防衛隊もいれば、怪獣の死骸を解体する清掃会社も存在するといった感じで、怪獣を中心に社会が回っていることが節々でわかる。つまり、怪獣が存在する社会をシミュレーションした漫画とも言え、派手なアクションや魅力的なキャラクターのいる世界をしっかりと下支えしている。

 そして何より主人公のカフカが魅力的だと思う。年上のおじさんゆえに、若い隊員たちに体力や才能の面でコンプレックスを持つカフカが、怪獣清掃会社で培った知識と解体技術で怪獣の内部構造を把握して弱点を保科副隊長に伝える場面は新鮮で、ジャンプのバトルアクション漫画ではあまり出てこない場面である。怪獣化して戦うカフカもかっこいいが、こういう地味な活躍こそが、本作の面白さに深みを与えている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『怪獣8号』2巻(ジャンプコミックス)
著者:松本直也
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/kaiju8.html

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