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『MIU404』綾野剛×星野源のバディ感 “同じ側に見える2人”のキャスティングの狙いとは?

リアルサウンド

20/7/17(金) 6:00

 4月期~7月期ドラマで乱立している「バディドラマ」。そんな中、現時点でバディとしての描き方において頭一つ抜けた印象があるのが、綾野剛×星野源のW主演作『MIU404』(TBS系)だ。

 2人は、24時間というタイムリミットの中で犯人逮捕にすべてをかける警視庁刑事部第4機動捜査隊隊員の「相棒」同士。綾野が演じるのは、公式サイトの表現を借りると「機動力と運動神経はピカイチの野生のバカ」伊吹藍で、星野源が演じるのは、「自分も他人も信用しない」「観察眼と社交力に長けた」志摩一未。

 放送開始前には、バディものの定番である「猪突猛進型の熱血派」と「クールで理性的な頭脳派」の対比をイメージした人も少なからずいたのではないだろうか。それにしては、この2人の印象はどちらも「和風塩顔」で低体温っぽさもあって、凸凹というよりも凹と凹、同じ側同士に見える。もちろんTBSの人気ドラマ『コウノドリ』の2人という安心感はある。また、『空飛ぶ広報室』(TBS系)の綾野剛と、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の星野源という「野木亜紀子作品」のタッグでもある。

 とはいえ、わかりやすいバディ感はない。しかし、それこそが実は狙いなのだろうということが、放送が開始されると見えてきた。

【写真】ベテランの班長・陣馬(橋本じゅん)とエリートの若造・九重(岡田健史)バディ

 第1話では、志摩が、自分の相棒候補に挙げられた伊吹の正体を探る中、唯一の取り柄として「足が速い」ことが出た以外、「僕の口からは……」「二度とツラ見せんなって言っとけ!」などとネガティブ要素ばかりが積み上げられる。それに対しておろおろする様子も意外で、相棒として動き始めた伊吹が野性の勘で突っ走ることに対し、突発的にぶち切れる。

「奥多摩の交番から来た素人が、野性の勘だけでしゃしゃってんじゃねえよ! ……俺までマウントとっちゃったじゃないか!(照)」

 あれ? 全然クールじゃないどころか、熱くて短気だし、すぐ凹むし、なんだかエモいキャラだぞ? と不意打ちされた視聴者も多いだろう。さらに、これに対する伊吹の反応が意表をついてくる。

「!!! なんだかテンション上がってきた~~!(嬉)」

 このセリフは実は台本になく、綾野剛のアドリブだそうだが、うっかり感情的な言葉を引き出されたうえに、喜ばれてはたまったもんじゃない。伊吹はなかなか食えない男だ。

 また、伊吹が暴走し、志摩が「規則」などを理由にストッパーとなるが、それが後半、見事にひっくり返される。ストッパーだった志摩が、犯人の逃走車に掟破りの無茶な運転で体当たりし、止める場面が描かれるのだ。本能的でまっすぐで常におバカ風味のある伊吹よりも、一度スイッチが入ると振り切れて突き抜けたおバカになってしまうのが志摩だ。つまり、「正反対のバディ」に見せて、二人の根っこの部分はおそらく似ていて、局面でシンクロするのだ。

 第2話では、殺人事件の容疑者の「やっていない」という言葉を信じる伊吹と、「誰も信じない」と語っていた志摩が、意見を対立させる。そこで志摩が語ったのは「人は信じたいものを信じるんだよ」というセリフ。これは、殺人を犯した本人もまた、やってしまったことが現実だと信じたくないために発せられた「やっていない」という言葉だったという悲しい結末に結び付く。

 さらに、容疑者の言葉を信じたかった伊吹と、脅されつつも、自身の息子と重ね合わせて匿ってあげる夫婦の過去がリンクする。夫婦が語ったのは、「お金がなくなった原因として疑われ、息子が自殺した。だから今回は信じてあげたかった」こと。一方、伊吹は同じ経験をしながらも「たった1人信じてくれた人がいた」ことで救われたと言う。そこで、伊吹が軽い感じで志摩にかける言葉「志摩ちゃんも、俺を信じてくれていいんだぜ」がやけに意味深に響く。

 さらに巧みなのは、このバディに加え、ベテランの班長・陣馬(橋本じゅん)と、キャリア組でエリートの若造・九重(岡田健史)のバディ、桔梗(麻生久美子)とのチームにより、関係性や物語が立体感を持つこと。

 第2話までは、伊吹・志摩と、九重・陣馬の2組のバディを大雑把に分けるなら、口が立つ志摩と九重が同じ側に見えていた。しかし、第3話では、意外な対比が見える。

 冒頭では志摩と九重がピタゴラ装置について雑談をしていた。「何かのスイッチで道を間違える」と語る志摩に、「でも、それは自己責任です」とキッパリ言い放つ青々しい九重。そんな彼に志摩は言う。

「自分の道は自分で決めるべきだ。俺もそう思う。だけど、他人によって障害物の数は違う。正しい道に戻れる人もいれば、取り返しがつかなくなる人もいる。誰と出会うか、出会わないかだ」

 この回のテーマは「分岐点」。廃部となった元陸上部の部員たちがイタズラで虚偽の通報を繰り返していたが、元陸上部員の成川(鈴鹿央士)と勝俣(前田旺志)が二手に分かれ逃げる中、伊吹は勝俣を、九重が成川を追うことになる。

 ところが、元マネージャーが本物の猥褻犯に襲われ、事態は急変。勝俣に追いついた伊吹は猥褻犯のことを告げ、「逃げるか来るか。今決めろ」と選択させたのに対し、成川を追っていた九重は伝えなかった。

 結果、勝俣は罪を認めて謝罪したが、成川はそのまま逃走し、ネットに顔を晒され、行き場を失ってしまう。ピタゴラ装置のパチンコ玉をキャッチした伊吹と、取りこぼした九重。もし、少年たちが逃走中に出会った相手が、伊吹と九重で逆だったら、少年たちの運命もまた……とどうしても考えさせられてしまう。

 そんな中で志摩はいつの間にか「口が立ち、先回りして物事を考える理論派」ではなく、伊吹の可能性に賭ける、むしろ伊吹に近い側の人間に見えていた。もしかしたら「もともと優秀だった」が「相棒を殺した」と言われる出来事により、諦めてきたもの・封印してきたものが、伊吹との出会いで再び彼の中に戻りつつあるのか。

 ちなみに、第1話では伊吹が白、志摩は黒の衣装で、第2話では伊吹が黒、志摩が白の衣装と、反対になっていることも視聴者の間で話題になっていた。さらに第3話では、伊吹が赤と黒のシャツジャケット、志摩もまたラフなシャツに赤の自転車と、一体感が出ていた。

 最初は正反対のキャラなのかと思った2人が、回を重ねるごとにニコイチに見えてきて、むしろ今では凸凹の同じ側に見えている。もしかして雰囲気的に「同じ側に見える2人」をキャスティングしたのも、そこに狙いがあったのだろうか。

 そんな2人が第3話の終盤で共に感電しそうな危機に陥る。そこを救ってくれたのが陣馬だったが、2人のニコイチ感が高まり、楽しい雰囲気が加速する一方で、2人の根っこにある危うさも色濃く見えてきた。そこからつながる未来ははたして……? バディとして見せる化学変化の様々な色合いが、ますます続きの気になる作品に仕立てている。

(田幸和歌子)

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