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「ボカロPよ、芸能界に囲い込まれるな」ベテラン評論家が、スキャンダル対策を指南

リアルサウンド

13/7/30(火) 12:00

 ソニーがJ-POPを殺した――そんな過激な見出しで、音楽業界のタブーに切り込んで話題を呼んだ『誰がJ-POPを救えるか? マスコミが語れない業界盛衰期』(朝日新聞出版)の著者・麻生香太郎氏が、音楽業界の抱える問題点を語る集中連載第4回。
【第1回目】「大手マスコミと芸能界を結ぶ「太い利権」が、ジャーナリズムを殺した」
【第2回目】「『レコ大』審査員は利権まみれ! 日本の音楽評論家が信用できないワケ」
【第3回目】「嵐やAKBの歌は、なぜユニゾンばかり? ハーモニーを忘れたJ-POPに必要なモノ」

現状の音楽シーンでは、類まれな才能を持つ人は生まれていないということでしょうか。

 そうは思いません。ただ、レコード会社の側が生まれる才能を活かし切れていない、とは言えると思います。例えば数年前、「スプツニ子!」というアーティストが話題になりました。ロンドン在住で、大学の仲間に力を借りて、プロ顔負けの楽曲をYouTubeにアップしていた理系女ですね。頭が良すぎて、副次的に趣味でGoogleの歌とかmixiの歌とか書いていた人です。表現したくて、表現したくて仕方のない人も探せば世界にはいるんです。「カラスボット☆ジェニー」なんか素晴らしいです。ボクの今年前半のベスト曲です。

スプツニ子!/「カラスボット☆ジェニー」

 だからボクは、レコード会社に人にボクのiPhoneで、youtubeの動画を直接見せながら(感動の伝言ゲームの実践ですね)「この子は絶対に、取りに行ったほうがいい」と薦めた。みな彼女が作ったPVを見て「すごいね」とは言うのですが、実際に行動を起こした人はいませんでした。ああいうアーティストこそ、カネをいくらかけてでも捕まえとかないといけないのに、結局、ボストンへ行っちゃった(MITのアシスタントプロフェッサーとしてクラスを受け持つことになりました)。日本のレコード会社は、いったい何をしているの、と思いますね。才能がいるのに取り逃がしている。これまで成功体験のないタイプ(理系?)の人材には、手が出せない。この危機感のなさ!

 なんでも最近のレコード会社のディレクターたちは、自分の担当以外のライブに足を運ばないそうですね。何をしているんでしょう。昔は会社総出で出かけたし、他社のアーティストも見に行って、横のつながりで情報交換したものです。デスクにかじりついていたら、良いアーティストに出会うことなんてできません。

 ボクはかつて、本土以外の、遠い地域出身の歌手たちが活躍したときに、「辺境歌姫」の時代と呼んでいたことがありました。元ちとせ、夏川りみ、一青窈、MISIA……。流行りの邦楽に触れる機会の少ない辺境で、その土地の島唄を、裸足で大地を踏みしめて歌っている女の子――カラオケやテレビの歌番組に毒されていない子。そういう子たちをもっと連れてきたらいい。父島、母島、南鳥島、小笠原諸島、佐渡ヶ島、北方四島……など。逸材はアイドル歌謡に染まっていない場所に必ず埋もれているはずです。

 あと、東南アジアの小国。インドネシア、ブルネイ、ネパール、フィリピン、イラク、イラン……。あの辺には、民族音楽をやっていて、「あの子はうまいね」と近所では評判になっている子がいるはずです。発声音量のすごい子、4オクターブ出る子、すぐハーモニーが上の音でも下の音でもとれる子。その子たちをスカウトして、日本語を覚えてもらって……という気合の入ったアーティスト育成を、なぜレコード会社は考えないのでしょう。今の平和ボケの、アイドル歌謡を小さい頃から耳にしてしまった世代からは、新しい才能は出てくるはずがない。一時期、沖縄ブームがありましたが、あれはいいことでしたね。……青田買いの結果として、ハゲ山になってしまいましたが(笑)。

音楽業界が厳しくなってくると、新人発掘に回すお金がなくなってくるという問題もあります。これはどういう風にお考えですか。

 レコード会社というのは、制作、宣伝、営業の三位一体です。営業はレコード店に出向いて「これを何枚、置いてください」と折衝する立場。宣伝は、出版社やテレビ局、ラジオ局にサンプルを持って行って、「ぜひ聞いてくれませんか」とお願いしに行く役割を担っています。

 今後、ますます配信の割合が増えれば、レコード店がなくなっていきますよね。するとまず、営業がいらなくなる。そして、今は誰もテレビやラジオから情報を得ないので、宣伝の人数も昔ほど必要ありません。仕事が制作だけで事足りるようになる――つまり、人件費を3分の1まで減らすことができる。

 このことを、外資系レコード会社のトップたちにぶつけたのですが、答えはいずれも「NO」でした。単純に、日本人的な発想で、3分の2もの人たちのクビを切るのがためらわれたからでしょう。「音楽業界の現状を考えたら、そんなことを言っている場合じゃない」と言いたかったけれど、ぐっと押し殺したのを覚えています。

今後、制作に特化したレコード会社(レーベル)が伸びる可能性はありそうです。

 仙台のエドワード・エンターテインメント・グループなんかは、ほぼ制作だけでやっていますね。ああいう、優秀で志のある若手ががんばってくれたらいいのですが……。

音楽そのものでは、「ボカロ」関係がめざましい成長を遂げています。麻生さんはどう評価されていますか?

 ボカロは、ネットという媒体と、コンピュータプログラミングの2つがあれば作れるという、入り口の広いジャンルですよね。僕は嫌いじゃないし、期待をしています。今、ドワンゴ傘下のレーベル「ドワンゴ・ユーザーエンタテインメント」(略称:DUE)が、ボカロPを囲い込んでいます。もしかしたら5年後、レコード会社が全部なくなって、DUEだけになっているとも限らない(笑)。

20130730asou.jpgIllustration:やべねこ

 ただ、そろそろボカロ界からもスキャンダルめいた話が出てくるのでは……と、心配もしています。ボカロは、今までの芸能界と非連続であってほしいのですが、音楽業界のエスタブリッシュメントが無関心でいるわけがありません。上手にやらないと、これまでのいろんなブームと同じことになってしまう。

 正直に言って、あまりいい予感はしません。トップアーティストですら、小さなスキャンダルをすっぱ抜かれている。ボカロPたちはオタクで純朴な青年たちが多いでしょうから、脇が甘い。大きな組織がその気になれば、彼らを殺すのは、猫の手をひねるようなものだと思いますよ。そこを誰が監視するのか。

スキャンダルの仕掛けようとする人たちが出てくると?

 大きな会社には、自然と情報が集まってくるんです。「歌の上手い子がいる」といういい話も、まず大きな会社のほうに来ます。情報提供を仕事にする輩も出てくる。

 大きい会社が悪い、と言うつもりはありません。いい楽曲を作ってくれれば、それでいい。しかし、何かしらのバイアスがかかりそうな気がする。

 ボカロはまさに今、ユーザー自身が彼らを守るシステムを作らなければならない時期にきている。誤解を恐れずにいえば、クラウドファンディングサービスの「Kickstarter」のようなものを利用して、自分たちでレコード会社を作ってしまえばいいのではないか。いずれにせよ、既成の枠組みの外に何かを構築する必要がある。ファンなら、「オレたちの初音ミクをソニーから出すな!」と言えるくらい、枠組み作りから、がんばらないといけないと思います。
(了)

■麻生香太郎
大阪市生まれ。評論家、作詞家。『日経エンタテインメント!』スーパーバイザー。東大文学部在学中から、森進一や小林ルミ子、野口五郎、小林幸子、TM NETWORKなどに作品を提供。『日経エンタテインメント!』創刊メンバーとなり、以降はエンタテインメントジャーナリストに転身し、音楽・映画・演劇・テレビを横断的にウオッチしている。著書に『誰がJ-POPを救えるか マスコミが語れない業界盛衰期』(朝日新聞出版)など。Twitter

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