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折坂悠太、日本のポップミュージックに起こる新しい波の鍵を握る 2020年さらなる活躍への期待

リアルサウンド

20/1/8(水) 12:30

 「シンガーソングライター同士というのは、親戚のような関係だから」

 折坂悠太がふと言っていた言葉が、記憶に強く残っている。

 去年の12月19日、場所は渋谷のWWWX。折坂悠太とカネコアヤノとのツーマンライブのMCで、両者の関係について語った言葉だった。二人は何年も前からのつながりで、お互いに認めあっていて、共演したことも何度もある。でも、シンガーソングライター同士がつるんだり、仲間として何かを一緒にやったりすることは、ほとんどない。だから、折坂悠太にとってカネコアヤノは、たまに会って、そのたびにちょっとずつ変わっていて、「最近、どう?」と聞きあったりする従姉妹のような存在なのだという。

 その感覚に、すごく腑に落ちるものがあった。

 というのも、「クラブシーン」や「バンドシーン」や「アイドルシーン」などという言葉が一般的に使われる他ジャンルの音楽に比べて、シンガーソングライターたちの「シーン」は、イメージしづらいものがあるから。

 シンガーソングライターというのは、基本的には「個」の表現だ。特に弾き語りだとそれが強く前面に出る。楽器ひとつ、身体ひとつで音楽を奏で、歌をうたう。だからこそ、それぞれのアーティストは基本的には独立独歩のスタンスと目線をもって活動する。互いに刺激を与え合ったり、共振したりすることはあっても、それらをひとくくりにするような場や状況は生まれづらい。

 ただ、そのことを踏まえても、折坂悠太はここ1〜2年でシンガーソングライターたちが日本のポップミュージックの現場に巻き起こしている新しい波のキーパーソンとも言える存在になっていると思う。卓越した音楽的感性と表現力を持った彼が、さまざまな歌い手たちと“親戚”の関係を結び、いわばハブのような象徴になっている気がする。

 特にそう感じたのが、昨年11月22日にヒューリックホール東京で行われた全国ツアー『折坂悠太のツーと言えばカー2019』の最終公演だった。

 ツアーでは青葉市子、イ・ラン、butajiが各公演に1人ずつゲストとして出演してきたが、この日はその3人に加え、のろしレコードの夜久一と松井文が参加。自身の楽曲だけでなく、青葉と折坂が共作した「百合の巣」やbutajiと折坂が共作した「トーチ」など創作を共にした新曲も披露していた。イ・ランと歌ったハン・ヨンエのカバー「調律」も、国境を超えた美しいハーモニーとして結実していた。

折坂悠太 오리사카 유타、イ・ラン 이랑 – 調律 조율 live recording at 漢江

 折坂悠太自身、2019年は大きな転機となった一年だっただろう。

 きっかけは、2018年10月にリリースされた2ndアルバム『平成』だった。それまでも弾き語りを軸に地に足をつけた音楽活動を繰り広げてきた彼だったが、「第11回CDショップ大賞2019」を受賞するなど、あの作品への評価が波紋のように広がっていったことが、一つの足がかりになった。

 浪曲や口上、ヨーデルなども取り入れ、ときに語り上げるように、ときに声を震わせ、独特の歌唱法を用いた歌の表現を見せる折坂悠太。リリースされた当初はフォークやブルースなどの伝統音楽、世界各地の民謡と通じ合うような作風に感じていた。しかしその一方で、彼自身は多くのインタビューで、フランク・オーシャン『Blonde』からの大きな影響を語っていた。最新の潮流を意識した上で、それをただ真似るのではなく、同じ目線に立つために自身の血肉や来歴を掘っていくような作品だった。今思えば、『平成』は、結果として2010年代を代表する作品となった『Blonde』への「日本からの最良の回答」とも言えるべきアルバムだったと思う。

折坂悠太 – 平成 (Official Music Video) / Yuta Orisaka – Heisei

 2019年3月には、新曲2曲を収録したシングル『抱擁』をリリース。ブラジル音楽の多層的なリズムとアンサンブルを取り入れた表題曲を筆頭に、深い音楽性の追求を見せていた。

折坂悠太 – 抱擁 / 櫂 (Official Music Video) / Yuta Orisaka – Houyo / Kai

 その一方で、昨年の折坂悠太は、タイアップにも意欲的に取り組んできた。2月にはノーリツのCMソングに起用され、同社製の住宅設備でお風呂が沸いたことを知らせるメロディをモチーフにした「湯気ひとすじ」も話題を呼んでいた。

NORITZ(ノーリツ)×折坂悠太ミュージックビデオ「湯気ひとすじ」

 何より大きかったのは8月には配信限定でリリースされた「朝顔」だろう。月9ドラマ『監察医 朝顔』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、彼の楽曲の中でも、口ずさみやすく、馴染みやすいメロディを持っている。ラストのダイナミックな展開も印象的だ。楽曲制作はドラマ監督やプロデューサーとの共同作業だったという。もちろんドラマ主題歌を担当すること自体、初の体験だったはずだ。CMやドラマといったタイアップにあたっても、彼自身の表現の核心をぼやかしたり薄めたりせず、それを一つのクリエイティブな“機会”と捉えて制作に向かったことが伺える。

折坂悠太 – 朝顔 (Official Music Video) / Yuta Orisaka – Asagao

 この曲をリリースし、前述の全国ツアー『折坂悠太のツーと言えばカー2019』で各地を回ってきた折坂悠太。3月末には東京、大阪公演が行われることも発表された。

 弾き語りに加えて、「折坂悠太(合奏)」、「折坂悠太(重奏)」という二通りのバンド編成でライブ活動を行っている折坂悠太。「合奏」は東京を拠点に、「重奏」は京都を拠点に活動している演奏家と組んだ編成だ。

 前述のカネコアヤノとのツーマンライブでは「折坂悠太(合奏)」で出演していた。寺田燿児(Ba)、田中久仁彦(Dr)、飯島はるか(Piano)、青野慧志郎(Gt、Cl、Sax、Mandolin)、宮坂遼太郎(Per)、ハラナツコ(Saxophone)との7人編成だ。

 一方、「折坂悠太(重奏)」は、yatchi(Piano)、senoo ricky(Dr、Cho)、宮田あずみ(Contrabass)、山内弘太(Gt)を迎えた5人編成。こちらは「道」と「荼毘」のライブレコーディングの模様がYouTubeで公開されている。

折坂悠太 – 道 live recording at UrBANGUILD / Yuta Orisaka – Michi
折坂悠太 – 荼毘 live recording at UrBANGUILD / Yuta Orisaka – Dabi

 二つのバンドは、同じ曲でもそれぞれまったく違うアンサンブル、まったく違う呼吸を見せる。しかし共通しているのは、とても豊かで純度の高い演奏だ。ときに荒々しく躍動的な、ときにおおらかな空気感を醸し出しつつ、ミュージシャン同士の感応からなる音楽的な興奮を見せる。

 折坂悠太の歌が、それだけの懐の深さを持っているということだろう。

 次回の公演は「折坂悠太(重奏)」の形で披露されるという。東京では稀な機会だ。「J-POP」としてのポピュラリティを一層得ていくだろう折坂悠太の2020年。その一方で、グローバルに感度を高めつつローカルを掘り進めることで頭角を現したのが歌い手としての彼の本領だ。その向かう先がどこになるのか、期待したい。

“折坂悠太 単独公演 2020” Trailer

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば」/Twitter

■ライブ情報
『折坂悠太 単独公演 2020』
折坂悠太(重奏)
Vo/Gt: 折坂悠太
E.Gt: 山内弘太
Cb: 宮田あずみ
Pf: yatchi
Dr/Cho: senoo ricky

【大阪公演】
3月23日(月) 梅田 CLUB QUATTRO
open 19:00/ start 20:00 ¥4,200(前売/1ドリンク別)
問い合わせ:06-6535-5569(SMASH WEST)

【東京公演】
3月27日(金) 渋谷 TSUTAYA O-EAST
open 18:30/ start 19:30 ¥4,200(前売/1ドリンク別)
問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)

オフィシャルHP先行: 1月7日(火)17:00〜1月13日(月)23:59(抽選制)
詳細はこちら

一般発売: 1月25日(土)

大阪公演:
ぴあ(P:173-026)・e+(QUATTRO web:1月18日12:00 – 1月20日18:00, pre:1月18日12:00- 1月20日18:00)・ローソン(L:56087)・LINEチケット・会場

東京公演:
ぴあ(P:172-886)・e+(pre:1月14日12:00 – 1月19日18:00)・ローソン(L:75535)・LINEチケット・岩盤 ganban.net

問合わせ:
SMASH:03-3444-6751
WEB
mobile

折坂悠太うえぶ(Official Web)

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