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林遣都×大島優子、『スカーレット』の世界観を支える演技力 “主役”の2人が親友役を演じる贅沢さ

リアルサウンド

20/2/28(金) 6:00

 朝ドラ『スカーレット』の放送もいよいよあと1カ月となった。幼い頃、大阪から信楽に移住し、陶芸に目覚めたヒロイン・喜美子(戸田恵梨香)が、自分の心の思うままに表現する喜びを発見していく過程が描かれ、そのため何を選択するのか、愛か、孤独か……と苦悩の末、別れた夫・八郎(松下洸平)と女手ひとつで育てた息子・武志(伊藤健太郎)とわだかまりをとっぱらって新しい関係を築くことになったところまでが20週。翌、第21週は、一旦、喜美子の物語は小休止、特別編になった。

参考:戸田恵梨香×松下洸平の印象的な“2つの反復” 『スカーレット』が描き続ける家族の物語

 21週のサブタイトルは「スペシャル・サニーデイ」(脚本は三谷昌登)。喜美子の妹・百合子(福田麻由子)と喜美子の幼なじみの信作(林遣都)夫婦を中心にした、これまでの回想も交えたコメディ仕立ての内容である。

 有馬温泉に日帰りで出かけていった父・忠信(マギー)と母・陽子(財前直見)の代わりに店番をする信作と百合子のもとに、喜美子の幼なじみ・照子(大島優子)の夫・敏春(本田大輔)がやって来てひと悶着。今度は百合子の昔の知り合いがやって来て、信作がやきもき……。その流れに主人公の喜美子は出てこない。あくまで信作や百合子、照子がメインの週だ。こういう内容は本編が終了した後、しばらくして放送されるスピンオフドラマによくあるが、本編の枠でやることは珍しい。けれど、そもそも林遣都や大島優子は主演作品も多くもつ華も実力もある俳優で、『スカーレット』でも要所要所かなり引き締めて来た。そんな林と大島だからこそ、スピンオフ枠でなく本編枠でやる意味があるともいえるだろう。

 思えば、主人公の幼なじみ役をこれだけの大物が演じることも珍しい。たいていは朝ドラをきっかけに飛び立っていくことを期待されたフレッシュな俳優か、若いなりに実力あるバイプレーヤーがやるものとされている。例えば、広瀬すず主演の『なつぞら』では幼なじみは山田裕貴、福地桃子、富田望生、安藤サクラ主演の『まんぷく』では松井玲奈、呉城久美、永野芽郁主演の『半分、青い。』は矢本悠馬、奈緒。有村架純主演の『ひよっこ』では佐久間由衣、泉澤祐希などが務めてきた。

 戸田恵梨香が新人枠ではなく、フレッシュ俳優がやると実力も年齢差も歴然としてしまうため、彼女と拮抗する俳優としての林遣都と大島優子だったのだろう。そして、ふたりがたくさんのファンもいる実力派だったため、出演が発表されたとき、私は彼らの出番が多いものと勝手に思い込んでしまった。ところが第1週の子役期間を経て、2週目に登場するも、3週目から喜美子が大阪に行き、2人の登場シーンはほとんどなくなる。

 幸い、大阪編は予想以上に短く、6週目から喜美子が信楽に戻って来て照子の実家・丸熊陶業で働くことになった。とはいえ、喜美子も照子も信作も成人して各々の道を歩むため、林遣都と大島優子はやっぱりたまにしか出てこないのであった。残念。とはいえ、2人はわずかな出番で視聴者の心をしっかり掴んでいる。例えば、名優は全2幕の舞台の1幕には出ず、2幕にちょっとだけ印象的な場面に出て盛り上げるということもあり、あたかもそういう役回りのごとく、時々、印象的な場面に出てきて、喜美子を支え続けた。

 林遣都と大島優子は、芝居の方向性は違うと感じるが、短い出番で確実に世界観を作り上げ、視る者に伝えたいことを十分過ぎるほど伝えることにおいては同じくらいの力を発揮している。

 例えば、林遣都。滋賀県で生まれ、10代の頃は青春ものによく出て人気を博し、マイペースで活動している印象で、朝ドラでは2016年『べっぴんさん』でかっこいいドラマーを演じていた。2018年、ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)に出演すると熱狂的な支持を獲得、いまに至る。そのとき演じた牧は同性を愛する人物だったが、男女関係なく、林の演じる牧という役の、屈折と繊細さがラブストーリーも奥深いものにした。

 『スカーレット』で林が演じる信作は、幼少時、人見知りで友達がいなかったが、遠慮のない照子と喜美子にいじられることで救われていた。成長するとイケメンになって黙っていても女子が寄ってきて、来る者拒まずのモテ男になる。しかし、自分の本音がわからず、必ず女子を怒らせてしまう。やがて、喜美子の妹・百合子と心を通わせ合い結婚することになる。男の友達は喜美子の夫・八郎だけ。守備範囲が狭いが、この人!と思った人にはとことん親身になる。不器用だが一生懸命な言動で百合子、喜美子、八郎たちを支えて来た。

 林遣都の才能は、彼が出て来て、ふと佇み、セリフを言うと、胸の奥が締め付けられること。誰もがもつ青春の思い出を呼び起こすこと。彼が語り、ちょっとした仕草をすると、自分で自分が明確にわからず、すべてのものに素直じゃなかった十代のときの彷徨える心にたちまち戻ってしまう。こういう雰囲気は、川べり、海辺、屋上などでロケをすると、空や風、陽光の雰囲気でそれっぽさが出るものだが、林遣都は、無風で奥行きのないセットでもひとりでロケ感を出してしまう。青春の香り漂うルームフレグランスのような俳優なのである。

 役の設定としては信作はもう40代で、課長で子供もふたりいるお父さん。「おもしろおじさん」として、喜美子たちを笑わす役割を懸命に演じ続けるという役。どこかトゥーマッチなほどの滑稽な言動は、必死に頑張って「おもしろ」を演じている証なのだ。とにかくいつでも全力を尽くす、その全力で走ったあとの清々しさみたいなものが、青春感と通じているのではないだろうか。

 一方、大島優子。子役から芸能界に入り、10代はAKB48というアイドルグループのレジェンドに所属、トップランナーのひとりとして駆け抜けた。その後、俳優となり、映像や舞台で活躍、主演映画も多数こなし、舞台では稲垣吾郎や三浦春馬の相手役を務めた。常に“全力の人”と思われるようなところがあるが、実はちょっと引いてものを見て、自分のエネルギーの動きを数値化するくらいのレベルで細かく把握しているような冷静さを感じる俳優である。だから、彼女と一緒にいるとものすごく安心。優れたナビゲーターとして運転の指示をしつつ、自分で運転も代われる。そんな頼もしさがある。

 『スカーレット』で大島が演じる照子は、喜美子とは対照的なお嬢様。信楽の名士・丸熊陶業のひとり娘としてわがまま放題に育つ。でもなぜか喜美子を気に入ってちょっかいを出してくる。ほんとは優しいけど素直じゃないだけなのだ。幼いとき、戦争で兄を亡くし、その幻影をいつまでも引きずっている。婦人警官になりたかったが諦めて、婿をとり丸熊を継ぐ。後半戦は、田舎のお金持ちのおばちゃん感をふんだんに出して、「家庭菜園照子」仕様(布の帽子、エプロン、長靴など農業やっている服装とかごいっぱいの野菜)で出てくることが多くなった。コスプレ感とリアル感が絶妙に混ざり、みごとにそれっぽく見えて面白い。関西ネイティブではないながら、関西弁も器用にそれらしく話す。自然に演じるというよりも、それらしさの特徴を捉えて的確に演じることが得手の、スケッチ上手という印象がある。夫・敏春との相棒感も見事だ。

 いつも明るくけろっとして場を照らし(照子だけに)、適度に場を賑やかしつつ、いざとなると、女として、妻として、母としての生真面目さを全面に出し、喜美子をどやしつける。肝っ玉かあさん的な強さ。主人公の喜美子が心の赴くままに、夫と子供を後回しにしても表現のけもの道に分け入りたいという人だから、照子はいわゆる一般的な妻となり母となる道を歩む存在として揺るがない。彼女がいるからこそ、喜美子が自由になれたと思う。

 信作、照子、こんなに優秀な親友がふたりいるにもかかわらず、喜美子がふいに現れた謎の女・小池アンリ(烏丸せつこ)に、八郎と武志と新たなフェーズに向かうきっかけ作りをしてもらってしまったことがいささか残念な気もした。最後まで、信楽の幼なじみ3人でいろんなことに立ち向かってほしかったなとも思ったが、このように特別編で信作と照子にスポットが当たるのだから良しとしたい。

 信作と照子はコメディリリーフな面もありつつ、本編で相当シリアス部分も引き受けているので、特別編では徹底して喜劇を演じることでふたりの芸達者ぶりがより際立っていいかもしれない。そして、最後の1カ月はぜひとも信作と照子で喜美子を支えてほしいと願っている。(木俣冬)

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