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Ensemble FOVE坂東祐大インタビュー/集まって演奏するだけではなくステージを作り込むこと。それがクラシックでもできることを証明したい!

ぴあ

坂東祐大 撮影:ヒダキトモコ

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新進気鋭の次世代型ユニットEnsemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)による、Ensemble FOVE『ZINGARO!!!』公演(9月12日:彩の国さいたま芸術劇場)が目前だ。「ニュー・フォーカス・ヴィジョン・アンド・エクスペリメント」からとった造語を名称としたEnsemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)のテーマは、“クラシックを素地としながら、どれだけ実験的なことや新しいアプローチができるかということをきちんと考えたい”ということだ。初のホール公演となる今回のステージに向けて、彼らは一体何を目指し、どのようなステージを描き出してくれるのだろう。アンサンブルの主宰者で、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の劇伴と印象的な挿入歌を手がけた注目の音楽家(作曲家)坂東祐大に話を聞いてみた。

メンバー全員をチームとして考えることによって、どれだけクリエイションできるか

――作曲家坂東祐大がこのアンサンブルで活動する意義はいったいどこに?

僕のメインフィールドは現代音楽の作曲家としてホールで作品を演奏することです。しかし最近様々なところに呼ばれる機会も増えています。たとえば映画であったりJ-POPのフィールドであったりですね。Ensemble FOVEとして呼ばれることもあります。当初からそれらを通じて、自分の音楽だけではなくチームでできたらいいなと思っていました。ひとりだけではなかなか難しいこともありますからね。
FOVEは僕の個人プロジェクトではありません。メンバー全員をチームとして考えることによって、どれだけクリエイションできるかです。さらに言えば、新しい創造にフォーカスすることにおいて、僕のアイデアだけでは限界があることが見えています。そのためには最初からチームにしておいたほうが将来性があるように思います。
それは演奏家だけや作曲家だけに特化するものではなく、それらを同じプラットフォームに載せた上でどれだけアクティブに活動できるかということです。 クラシックは残念ながらまだそこに届いていないというのが実感ですが、そのためには“みんなでやる”ということに新たな可能性があるのではないかと思っています。ここでの僕は「座付きの作曲家」といった位置づけです。

――初のホール公演の持つ意味とは?

今までホール公演はあえて避けていました。ホールというのはクラシックにおける伝統的なステージです。我々が目標とする“新しい価値付け”においては、ホールではない所から始めた上でホールに戻ってくるほうが良いのではないかと考えたのです。様々なことを試した結果をホールに持ち帰る。それが面白いんじゃないかというのがみんなの意見でした。

――今回いよいよ機が熟したということですね

その通りです。ホールでも面白くできるという感触が得られました。2020年2月の公演だったかな。これだったらホールでやってもいいという手応えをメンバー全員が感じたのです。
そのポイントは、アクティブかつ自由な配置やコンセプトが見えるようになったことです。メンバーは普段クラシックのフィールドで活動しているので、ホールでの演奏というのは普通の状態です。それを別の場所で違う目線を持って演奏することによって、改めてホールの面白さや、持ち込むアイデアを発見するという戦略的な意味もありました。
中でも一番重要なのは聴衆との関係値ではないかと思います。なにしろ30センチくらいの距離で演奏することもありましたからね(笑)。コロナ禍の今ではそれは難しいという、現実的な問題もありますね。

ステージ全体が1つの物語のようになっている感じ

――“シアターピースのように仕立てる”という言葉の意味は?

クラシックの通常の公演では、誰かがプログラムをキュレーションして、そのプログラム通りに演奏するというのがひとつのスタイルです。我々はそれをもっとストーリーテーリングしたいという意味です。ステージ全体がひとつの物語のようになっている感じですね。聴衆には“何かを見終わった”という感触を持ち帰って欲しいです。
そこにおいては作曲的な部分の比重がとても大きいと思うのです。構成に関して演奏家だけでは難しい部分がある。かといって作曲家だけでも成り立たない。そこはメンバー全員が様々なアイデアを持ち寄って構成していく感じですね。
ひとつの作品として舞台を作りたいという思いで、シンプルなセットではありますが、舞台装置なども含めてかなりイレギュラーなことをやるつもりです。

――ホールで行うにあたり今までやってきた音楽からどの位変えていったのでしょうか?

『ZINGARO!!!』は当初CDとしてのプロジェクトだったのです。CDとして作品になるべきという考え方ですね。しかし、CDとホールやサロンでの時間のスケールは違うと思うのです。なので、CDで作り上げたものをステージ用に再構成する必要がありました。というわけで、聴衆が予期しないような形での再構成を試みました。FOVEは窓口であるべきだと思っていますので、音楽の敷居を下げるのではなく、間口を広げるといったニュアンスですね。
決してイージーリスニング的なものではなく、正統的なものを面白く伝えたいと思っています。その結果、演奏者も面白いし聴いてくださる方も面白いというものに仕上がりました。

――イメージする「面白さ」とはどのようなものでしょう?

クラシックをする上で外せない点は、どれだけ歴史的なコンテクストに対しての現在進行形の意見を持っているかということだと思います。それは演奏する側もキュレーションする側も同様です。クラシックの蓄積や、文化的な事においてアイデアに満ち溢れているかどうか。つまり文脈的なことをわかっているかが「面白さ」の原点だと思います。
“2021年のこの時期にやるには何が一番エキサイティングなのか”ということを考える力ですね。極東の島国から発信する上ではそれがとても重要でしょう。その視点が欠けてしまうとどうしても閉鎖的になってします。
これならヨーロッパやアメリカにも張り合えるぞというアイデアですね。文脈を踏まえた上でどれだけ面白いアイデアを持っていて、それを提供できるかだと思います。

オペラでしかできないようなステージ・クリエイションを、クラシックにおいてもできる

――今回のステージは、クラシック界の現状に対する提言的な意味合いもありそうですね

そうですね。僕自身はプロデューサーではなく作曲家です。今回のステージも特にプロデューサーというのは存在せず、合議制で物事が進められています。 困難な面もあるのですが、実はそこが面白いのです。合議制というスタイルを選ぶことによって何かを証明したいと思っています。あえて音楽監督を置かない「ヨーロッパ室内管弦楽団」のような活動が日本においてもできるはずなのです。チームでやれるということを証明したいと思っています。
今は僕が表に出る機会が多いのですが、僕だけのアンサンブルではないのでこれから徐々に変わってゆくと思います。それが次のフェーズですね。

――最後に、今回のステージの注目ポイントや聴きどころを教えてください

まだ模索中ではありますが、メインの尾池亜美(ヴァイオリン)さんだけでなく、21人の出演者全員の音や動きが面白いという状態になると思います。この配置だとこうなる、このフォーメーションならこうなるといったことを細かく計算したステージを作っていますので、主役がひとりのステージとは比べものにならない程の情報量になるはずです。普通のコンサートの3,4倍の情報量かな(笑)。とても凝縮された1時間を体験してもらえるはずです。 休憩なしのぶっ通しの1時間ですので、ぜひ我々全員の一挙手一投足を見逃さないようにしてください。オペラでしかできないようなステージ・クリエイションを、クラシックにおいてもできるということをきちんと証明したいと思っています。そのスタートとして絶対に面白いものをお見せします。 コロナ禍なので安心安全第一ですが、その中でできることを精一杯やりますよ。今回チャンスを与えてくださった彩の国さいたま芸術劇場には心から感謝しています。



取材・文:田中泰 撮影:ヒダキトモコ/Natsu Tanimoto(Ensemble FOVE)

■公演情報
Ensemble FOVE『ZINGARO!!!』
2021年9月12日(日) 14:20 開場/15:00 開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/91050/
主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団

■出演
Ensemble FOVE
尾池亜美(ヴァイオリン)
多久潤一朗(フルート) 浅原由香* (オーボエ) 東 紗衣 * (クラリネット)
中川ヒデ鷹(ファゴット) 上野耕平(サクソフォン) 佐藤采香* (ユーフォニアム)
田村優弥 *(チューバ) 大家一将(打楽器) 池城菜香* (ハープ)
戸原 直、町田 匡、大光嘉理人*、山本佳輝* (ヴァイオリン)
三国レイチェル由依*、對馬佳祐 * (ヴィオラ)
小畠幸法、飯島哲蔵 * (チェロ) 篠崎和紀、地代所悠(コントラバス)
企画・プロデュース:坂東祐大  *Guest Member

■曲目
ラヴェル:ツィガーヌ、モンティ:チャールダーシュ
ブラームス:ハンガリー舞曲、サラサーテ : ツィゴイネルワイゼン ほか
(編曲:坂東祐大・Ensemble FOVE)※CDアルバム『ZINGARO!!!』収録曲より(予定)

■プロフィール
Ensemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)
第一線で活躍するクラシックの演奏家によって結成された、新進気鋭の次世代型アンサンブル。作曲家・坂東祐大の呼びかけによって、2014 年から数回の単発企画を経て、2016 年設立。ジャンルの枠を拡張する新しいアートの実験・実践を旨とし、新しい聴覚体験を提案する。
2018年、初のオリジナルプロジェクト「SONAR-FIELD」(SHIBAURA HOUSE)を開催。建物一棟を借り切り、コンサートともインスタレーションとも異なる新しい音楽体験をクリエイションし、話題となる。(2019年、再演)
同年京都芸術センターとの共同主催により第二弾プロジェクト「TRANS」を開催。観客を360°ぐるりと囲い込む立体音響と、FOVEメンバーの生演奏による空間を創造し、衝撃を与えた。
オリジナルプロジェクトに加え、米津玄師『海の幽霊』『馬と鹿』(2019年)、『井上陽水トリビュート』にて宇多田ヒカルのカバーによる『少年時代』(2019年)、また宇多田ヒカル『Beautiful World(Da Capo Version)』(2021年)へ参加したほか、TVアニメーションシリーズ『ユーリ!!! On ICE』(2016年-)、映画『来る』(2018年、中島哲也監督)、日本テレビ系ドラマ『美食探偵 明智五郎』(2020年)、主宰者の坂東祐大はカンテレ系ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)、映画『竜とそばかすの姫』(2021年、細田守監督)の劇伴にも精力的に取り組むなど、ジャンルの枠を拡張する活動も行なっている。
2019年秋、メンバーの尾池亜美(violin)をソロに迎え、Ensemble FOVE初となるCDアルバム『ZINGARO!!!』を、自主レーベルFOVE RECORDSよりリリース。

坂東祐大
作曲家/音楽家。1991年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科修士課程修了。様式を横断したハイブリッドな文脈操作、サンプリングなどを駆使し、多岐にわたって創作活動を行う。第25回芥川作曲賞受賞(2015年)。2016年、Ensemble FOVE を創立。代表として気鋭のメンバーと共にジャンルの枠を拡張する、様々な新しいアートプロジェクトを展開している。新作『ドレミのうた』を4月にリリース。テレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の音楽を手がける。7月16日公開の細田守監督『竜とそばかすの姫』の音楽も担当。

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