Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『彼女、お借りします』から見える、アニメと原作の相乗効果 『マガジン』発ラブコメの強さとは?

リアルサウンド

20/8/28(金) 10:00

 冴えない20歳の大学生・木ノ下和也が、初めてできた彼女にふられたショックを癒すべく、ネットで見かけたレンタル彼女を利用するところから始まるラブコメ漫画『彼女、お借りします』。宮島礼吏が2017年より 『週刊少年マガジン』(講談社刊)で連載を開始したこの漫画がアニメ化され、現在テレビで放送中だ。原作コミックスは2020年8月現在、第16巻まで発売中だが、アニメ化効果で第1巻の売り上げが10倍に伸びたという。

 有料の恋人代行サービス、レンタル彼女(以下レンカノ)として和也の前に現われた黒髪の美少女・水原千鶴は、なんと和也と同じ大学に通っており、しかも和也が住むアパートの隣室の住人、一ノ瀬ちづると同一人物ということが後日発覚する。和也はレンカノの水原千鶴に恋人のふりをしてもらいつつ、プライベートな隣人としての一ノ瀬ちづるの飾らない素顔も知って彼女に惹かれてゆく。しかしそこへ、和也と別れたはずの元カノ・七海麻美や、千鶴と同じレンカノのバイトをしている更科るか、桜沢墨たちも和也の周囲に集まり、すっかり日常は騒がしいものへと変わってしまう。

 『彼女、お借りします』の監督を務める古賀一臣は、かつて恋愛アニメ『Just Because!』(2017年)の演出で、10代の少年少女の心の機敏を繊細に描いたことがある。本作では千鶴と和也の微妙な距離感を笑いの中に落とし込みつつ、双方の祖母に嘘がばれないように取り繕うコメディと、レンカノと利用客という嘘の恋が本当の恋へ変化する恋愛ドラマの両立が見事だ。優柔不断でズボラな和也に苛立ちながらも、そんな和也にアタックをかけてくる他の美少女たちに気を揉んでしまう千鶴の心境を上手く描き出している。また、原作の絵柄を活かしながら、可愛らしいアニメキャラクターをデザインした平山寛菜の功績も見逃せない。

 原作漫画の連載開始から約1年後の2018年9月には、コミックスの累計発行部数が75万部を突破したことが原作者のTwitterで報じられたが、さらにテレビアニメ化が発表された2019年12月には累計300万部と順調に発行部数を伸ばしてきた。アニメ放送開始直前の2020年5月は400万部だったが、同年8月には「アニメ放送後の大反響で」(※原作者のTwitterより)500万部に到達したというから、今回のアニメ化がいかに大きな反響を呼んだかが伺える。

 『彼女、お借りします』が連載されている『週刊少年マガジン』は、ラブコメ漫画の比率が高く、しかもテレビアニメ化された作品を多く輩出しているのが特徴だ。例えば『山田くんと7人の魔女』(2015年放送)、『徒然チルドレン』(2017年放送)、『五等分の花嫁』、『ドメスティックな彼女』(いずれも2019年放送)など。特に『五等分の花嫁』はアニメ化効果でコミックスの発行部数を大きく伸ばした。現在連載中の漫画でも、将棋を題材にしたラブコメ『それでも歩は寄せてくる』と、『山田くんと7人の魔女』の作者による『カッコウの許嫁』は人気が高い。

 昨今、原作付きアニメの放送で、原作の売り上げが急増するという話は珍しいものではない。劇場用新作の公開が控えている『鬼滅の刃』(2019年)も、テレビアニメ化によって原作コミックスが爆発的に売れた作品である。かといって、原作がライトノベルだろうと漫画だろうと、アニメ化すれば必ず原作の売り上げに結びつくとは限らない。アニメ視聴から入ってきた人が、物語の先が気になって原作に手を伸ばしたり、アニメが気に入って原作を全巻買い揃えたりと、まずはアニメそのものの完成度が高いことが前提条件だ。視聴者がアニメに惹きこまれなければ、原作の方も読んでみたいという気持ちにならないだろう。その意味では、もともと原作自体が人気を博していた上に、完成度の高いテレビアニメの放送で原作の認知度がさらに高まった『彼女、お借りします』は相乗効果が高い成功例といえる。

 アニメの放送は深夜1時25分からと遅い時間帯にも関わらず、Twitterのトレンドに毎週現れるほどリアルタイムで視聴しているファンが多い。ダメダメ大学生の木ノ下和也と、レンタル彼女・水原千鶴の恋模様は果たして今後どんな展開を見せるのか? 連載中の原作共々、この先が気になるアニメだ。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

■放送情報
『彼女、お借りします』
MBS・TBS系にて、毎週金曜深夜1:25〜放送中
原作:宮島礼吏(講談社『週刊少年マガジン』連載)
監督:古賀一臣
シリーズ構成:広田光毅
キャラクターデザイン:平山寛菜
色彩設計:石黒文子
美術監督:秋葉みのる
音楽:ヒャダイン
声の出演:雨宮天、悠木碧、東山奈央、高橋李依、堀江瞬
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
(c)宮島礼吏・講談社/「彼女、お借りします」製作委員会
公式サイト:https://kanokari-official.com/
公式Twitter:@kanokari_anime

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む