Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

キャスティングはひらめき重視? 新井順子プロデューサーが明かす、『MIU404』の全容

リアルサウンド

20/8/7(金) 19:00

 毎週金曜日、ドラマ『MIU404』(TBS系)に心揺さぶられている。現代社会を痛烈に映し出す脚本家・野木亜紀子の構成力。その物語を生身の人間が体現する主演・綾野剛&星野源を始めとした俳優陣の演技力。その演技を最大限に“魅せる”塚原あゆ子ら監督たちの技術力……その才能を集めた仕掛け人が、プロデューサーの新井順子だ。

 新型コロナウイルスの影響で大幅にズレ込んだドラマのスタート。キャストたちのスケジュール調整はもちろん、企画時とは大きく変わった社会に向けて何ができるのかを模索する日々。

 このドラマには「一話完結のノンストップ“機捜”エンターテインメント」というコピーが添えられているが、まさに舞台裏もノンストップ。そんな混乱を極めた『MIU404』の舞台裏を新井プロデューサーが明かしてくれた。

刑事モノで通らないなら機捜モノで

――野木亜紀子さんのインタビュー(参照:『アンナチュラル』の成功が切り拓いた10年越しの企画 野木亜紀子が語る、『MIU404』制作の背景)で、なかなか企画が通らなかったという、念願の刑事ドラマだとお聞きしました。

新井順子(以下、新井):そうですね。個人的に刑事モノが好きなんです。でも、原作ありの刑事モノとかいろいろ出してたんですけど、いっこうに企画が通らず(笑)。そんなときに「『アンナチュラル』チームでまた何かやりたいね」みたいになって、「でも普通の刑事モノは絶対通らない」ではどうしようか?と考え、「機動捜査隊や広域捜査隊はどうか?」と野木さんと話した結果、「機捜なら面白いんじゃないか」という話になって。

――機動捜査隊って、どこかで聞いたことがあるけど……という印象です。

新井:『警察24時』とか見てるとよく出てくるんですよ。すごく好きで。初動捜査を担当するので、いろんな事件に遭遇するんですよね。

――そしてタイトルも『MIU404』ではなかったと。

新井:最初は「特捜なんとか」みたいなタイトルだったんですよ。その企画段階では4機捜というアイデアもまだなくて。でも、野木さんの中でいろいろ「こうしたい」が膨らんだときに、実際にある1機捜とか3機捜とかじゃなくて、4機捜という架空の組織を作ってフィクションとして成立させたいという話になって。実在する組織に迷惑をかけないためにも。そこから「404を入れよう」という流れだったと思います。まだ『けもなれ』(『獣になれない私たち』日本テレビ系)が終わってちょっとしたくらいだったかな。ビールを飲みながら話していましたね。

404は塩顔バディ、401は濃い顔バディ

――キャスティングの話で、野木さんが『コウノドリ』(TBS系)でも共演されていた綾野剛さんと星野源さんのコンビに一瞬「大丈夫かな?」と思われたところ、新井さんが「大丈夫! いける!」とおっしゃっていた、とお聞きしました。

新井:逆に私から言うと、何が不安かわからないって感じでした(笑)。共演はしていたけど、バディではなかったし。2人が過去の作品で刑事モノのバディを演じてたならともかく、キャラクターも全然違うし、ストーリーも全然違うから「いけるいける!」って。

――なるほど! 岡田健史さんは『中学聖日記』(TBS系)で見つけられた逸材ですが、九重役として起用した理由は?

新井:ベテランの中に“これから”の感じの若い男の子が1人ほしいなというのがあって。主演が2人とも塩顔じゃないですか。そこにまた塩顔が入ったら塩塩塩塩になっちゃう。だから、401は濃い顔バディにしようと。

――ビジュアルからだったんですね。

新井:やっぱりキャスティングの最初は、見た目のバランスから入りますね。そこから、彼の持つ育ちの良さそうな美しい佇まいとか、“本当に21歳?”って思ってしまいそうなくらい堂々とした感じは、九重にぴったりだと思ってオファーしました。一見、物怖じしない落ち着きっぷりなんだけど、言ってることに「ん?」っていう感じのキャラクターがうまくはまりそうだなって。

「派手にいこう」で実現したカースタントに“やっちゃった感”

――第1話のカースタントが大きな話題になっていましたが、現場はどのような感じだったのですか?

新井:大変でした。正直、台本の段階では「これどうなるんだろう」って思っていたんです。「カースタント」って書いてあるけど、それ通りに撮れるのかわからないですから。街の人たちの協力も得て道路を封鎖してやらなくちゃいけないし。1話の編集が終わったときには素直に「できたー!」と安心しました。

――あれほど手に汗握るスペクタクルは、最近テレビドラマで見かけないので、度肝を抜かれました。

新井:当然のことながら、時間もかかるし、お金もかかる……。でも、警察のエンターテインメントだから、やる必要があるなと思いました。ラブストーリーとかお仕事ドラマに、あんなカーチェイスは必要ないけど、やっぱり車に乗ってパトロールする機捜ならではが欲しいと思ったときに、カーチェイスが必要だなと。でも時間もお金もかかる(笑)!

――それを捻出するのが、プロデューサーの腕ですか!?

新井:いえ、まだです。まだこれから調整です……やっちゃった感ある(笑)。

――それだけ見たかった画ということでしょうか。

新井:やるからには派手に。「1話は派手にいこう」「1、2話はまずガツンといって、3話からは少し落ち着こう」みたいなことを言ってたんですけど。まったく抑えきれてないっていう(笑)。スタッフに言われてます、「全然落ち着いてないじゃないか」「3、4話だって大変だ」って。「たしかに、ごめん」としか言いようがないですけど。

コロナ禍で、なくなる可能性もあった『MIU404』

――第3話の途中まで撮影が進んでいたところで、収録を止めたとお聞きしました。

新井:そうです。加えて4話も1日分だけ撮っていて、忘れもしない。4話の撮影中に電話がかかってきて「局に至急戻ってくるように」と言われたんです。嫌な予感しかしませんでした。 このままだと放送スタートさせても1、2話でストップしてしまう。それでもスタートするか、それとも延期させるかを決めなくてはならなくなって。私の中で、やっぱり連続ドラマって“毎週金曜日を楽しみにしているという感覚が連続してくるからいいんだ”という思いがあって延期、撮影のストップを決めました。

――誰も経験したことのない事態でしたが、すべて新井さんの判断で?

新井:編成の方と相談して決めました。感染者が多くなっていくのをみんな不安がっていましたし、自粛要請が出る前にうちは撮影を一旦ストップさせました。当初は、2週間ほどで自粛ムードが明けるかと思っていたんですが、なかなかその気配がない。4話の美村里江さん、5話の渡辺大知さんら、ゲストのスケジュールが決まっている。そもそも、主演キャストだってスケジュールがずっとあるわけではない。「どうする?」の毎日でした。

――それらの課題をどうしたんですか?

新井:何ができるかみたいなパターンを何通りも考えました。本数を減らして収まる範囲にするか。いやいや、このままだと6話で最終回になっちゃう、そんなことありえないよ……とか、延々と。さらにキャストの皆さんの予定を伺ってみると、もちろんそれぞれ次のスケジュールが入っているわけで。いよいよこれはやばい、このままだと本当にこのドラマ自体なくなってしまう!?と思いました。そんな中、編成さんが放送日程を調整してくれて、キャスト事務所さんがスケジュールを調整してくれて、当初より数話本数は減りますが、やりたいことはやれる体制ができました。撮影再開した今でも、誰か1人でも感染したらストップせざるを得ない。だから、今できることは、みんなで感染しないよう気をつけること。スタッフキャストが同じ意識を持って作品に向き合うしかないんですよね。

――あの手この手を駆使して、『MIU404』のスタートにこぎつけたんですね。

新井:そうですね。熱量を引っ張るためにSNSをつぶやき続けて、グッズをたくさん作って。でも、新しい情報を出すことがなかなか難しい。なので、楽しみにしてくださった方がイラスト企画で盛り上がってくれたのは、本当に感謝しかないです。いろんな人の力があって、スタートできたと思っています。6月末にスタートが決まったときには、何よりも「出せてよかった」という気持ちでした。煽り運転とか外国人労働問題とか、今起こっていることが描かれているので、これが、2年後とかの放送になるともう「古いね」みたいになっちゃうから、それは避けたかったんです。

――あまりにもタイムリー過ぎるフレーズもありましたね。

新井:本当に。今起こっていることとリンクしているとはいえ、たまたまが重なりすぎてしまって。「あえて脚本に付け加えたんじゃないか」と思われてしまうのは、不本意なんですよね。むしろ、ダイレクトなフレーズを直前になってカットしているくらいなので。それでも、現実と重なってしまう。心が揺られる脚本だからこそ、いろいろと考えが巡ってしまうのもわかるのですが。本当に伝えたいところが伝わらなくなってしまうので、狙っていないところを取りざたされるのは、不本意なんですよね。その点は、すごく注意しながら進めています。

野生の勘でオファーした菅田将暉のサプライズ出演


――菅田将暉さんのサプライズ登場も、大きな話題になりました。撮影延期の影響は受けなかったんでしょうか?

新井:いやー、そこはお願いしました。もう頼むことしかできませんでしたね(笑)。最悪あきらめないといけないなと覚悟はしていたんですけど、ご本人もすごく楽しみにしていてくださって。できるだけ、こちらもコンパクトにスケジュールをまとめて取れるようにして叶った感じです。

――サプライズというのは、新井さん発案だったと監督の塚原さんにお聞きしました(参照:塚原あゆ子が明かす、毎回違う味で作る『MIU404』 テレビドラマの最前線で考えること)。

新井:そうですね、単純にサプライズって面白くないですか? 先に発表していたら「いつ出てくるんだろう」「どうやって出てくるんだろう」という目で観てしまうと思っていて。見えないものがあってもいいんじゃないかな、みたいな。

――あの役は、サプライズで話題になる人を登場させようというのは、もともと決めていたんですか?

新井:いえ。誰がいいかと話していたときに、「そう言えば一昨日、菅田将暉さんのマネージャーさんと喋ったな」と思い出して、以前、菅田さんと仕事したこともあったので、「ダメもとで相談してみます」と。みんなから「えー!?」って言われながら「いや、ここは当たってくだけてみましょうよ」と。そしたら「面白そうですね」と快諾していただけて。菅田さんの悪役ってあんまりみないなと思っていたので、こういういつもと違う感じの役を本人も面白がってくれそうだなとは思っていて。“得体の知れない菅田将暉”が観たいなと。テロップが先に出てしまうとつまらないと思ったので、それもなしで、完全にサプライズで登場していただきました。

ゲストのキャスティングもひらめき重視

――毎回ゲストの方の演技にも引き込まれるドラマになっていますね。

新井:芝居が良いからですね。 演出は、ゲストが光るようにではなく、物語が生きる形にしてると思うので、役にその人がハマってくれたんだと思います。それにしても美村さんが出演された4話の放送日、リアルタイム検索のランキングで1位が「青池さん」だったのは驚きました。役名のほうが話題になっているのが衝撃で。さらに驚いたのが、その次に「野木さん」(笑)。思わずスマホ画面をスクショしました。

――青池透子役に美村さんをキャスティングした理由は?

新井:ひらめきです(笑)。青池さんって、弱い立場の人なんだけど、すごく強く生きようとする。ついてない人生だけど、最期まで何かに賭けているというか。そういう儚げな雰囲気を持ちながら、芯を持った感じの役柄が、美村さんなら上手に表現してくれそうだなとオファーしました。でも、想像以上に素晴らしかったですね、印象的だったのは、私たちが言ったことを熱心にメモされていて、ずっと真摯に向き合ってくださって、笑った顔に癒されてしまいました。主演オーラみたいなものもあるのに、身近に感じさせる何かがある。「すごいなー」ってスタッフみんなで絶賛していました。美村さんだったから、ここまで「青池さん」が話題になったんだと思います。

――弱い立場にスポットライトを当てるといえば、第5話もそうでしたね。

新井:「楽しかった」だけでは済まないところもあるから、「見てよかった」と思ってもらえるようなバランスを取らないととは思います。5話だと、悲しいけれどそういうことがこの世にはあるんだということが、1つ知れて明日からちょっと優しくできる……みたいな。だから、マイちゃん役の子は天真爛漫な感じが絶対に必要だと思って、陽な印象の子に演じてもらおうとオーディションをしましたね。「かわいそう」と同情を呼ぶのではなく、「頑張ってるな」と応援したくなるような。結果、フォンチーさんと巡り会えて、本当によかったです。ぜひ、彼女のインスタグラムを見てほしいです。マイちゃんの気持ちを理解して演じてくれたのが伝わってきますから。

綾野剛が引き寄せた村上虹郎のゲスト出演

――第6話では、志摩の元相棒・香坂役に村上虹郎さんも出演されましたね。

新井:香坂はもともと、あんなに出てくる予定ではなかったんですよ。でも、野木さんが台本書いたら「ごめん、めっちゃ出てくる」って(笑)。もともと虹郎くんの雰囲気って、『MIU404』に合いそうだなって思っていて、そんなときに「香坂に虹郎くんってバランスいいよね? 源さんと並んだときにも」と。

――ひらめいた。

新井:思いついちゃった。しかも、ちょうどその何週間か前に、綾野さんが「“現場どうですか?”って、虹郎からメールがあった」という話を聞いていて。そうか、虹郎さんと綾野さんはプライベートでも仲がいいのね、ってずっと頭の中にあったんですよ。

――でも、作中では……。

新井:絡ませなかったですね(笑)。でも、あのとき綾野さんが虹郎さんの話をしてなかったら、香坂=村上虹郎はなかったかもしれないですね。

――実際に、村上さんの様子は思っていたとおりでしたか?

新井:香坂って必死なんですよね。なんとか手柄を上げて、志摩に追いつかなきゃっていう、焦りみたいなのがあるんですけど。村上さんの自分で犯人を追い詰めているんだっていう高揚した表情とか。それが実は犯人は別の人だったみたいなことを言われたときの顔が良くて。頑張りたいって思いが空回りして、ついついウソをついてしまうようなことって、結構誰にでも陥りがちなことだよなとも思っていて。本当にスイッチという言葉が頭に浮かぶんです。「あのとき、ああしてれば彼は助かったんじゃないか」みたいなことを、志摩もずっとリフレインしてるんですよね。切ない……誰もが現実の後悔と重なってしまうと思います。

――そうですね。悲しい別れにはいつも後悔がつきまといます。ピタゴラ装置が登場したあたりから「スイッチ」が物語のキーになってきたなと思っているんですが、もともとドラマのテーマとしてあったものだったんですか?

新井:いや、そういう感じではなかったと思うんですが、書いているうちに3話あたりから「誰に出会うか、出会わないか」というのが物語の中で色濃く出てきた感じです。6話の「俺がここに来たのだってスイッチになってる」という伊吹のセリフが泣けました。志摩の独り言のように「伊吹みたいなのが相棒だったら……」の背中にもまたグッときて……。

――本当に、真に迫った名演技でした。

新井:キャストに助けられました。

気になるラストとアフターコロナに作りたいドラマとは?

――さまざまなスイッチがある物語が、どこへと向かっていくのか。もう着地点は決まっていますか?

新井:ラストはだいたい見えています。でもどうとでもなるんですよね。4機捜が解散することもできるし。続けることもできるし。刑事ドラマにありがちな誰かが死んでしまういう可能性もあるじゃないですか。でもとにかく悲しい結末にならないように。やっぱり「毎週見て楽しかった」って終わらないとダメだなとは思っています。

――野木さんが「新井プロデューサーはいい意味で視聴者の視点が変わらない」とおっしゃっていたましたが、その秘訣というのはあるんでしょうか?

新井:ないです(笑)。本当にただの視聴者なので! もう野木さんの台本が高度で、神様の視点というか、雲の上の人が書いてるから。だから、ちょっと地上に降りてもらっていいですか? 私、今地上にいるのでって。偏差値をグ〜〜っと下げてもらう感じです。で、その間にいるのが監督なんです(笑)。

――そのバランスが『アンナチュラル』チームの強みなんでしょうね。

新井:監督は大変だと思います。野木さんの台本を映像化するのって、難しいんです。それこそいろんなスイッチがあるので。尺を54分にはめるために、セリフをカットしないといけない部分も出てきたときに、このセリフは、あっちのセリフと対になってるから切れない……とか。ここは、前のシーンのここにかかってるから言い方を、対にしていかないと……みたいなことがたくさんあって。埋め込まれているものに気づかないとツルッていっちゃう。それが出来上がるのを楽しみに待ってるという意味では、ずっと視聴者なんです。

――なるほど。では今後、どういうドラマを作りたいというものはありますか?

新井:相変わらず、企画を出しまくってるんですけどね。箸にも棒にもかからない方が多いです(笑)。やりたいことはたくさんあるので、出し続けるしかない。

――今進んでいるものはあるんですか?

新井:あります。いつできるかは分からないけど、個人的に観てみたいのは、コロナ禍で注目を集めた医療従事者の方々のドラマですね。医師だけじゃなくて、看護師さんとか。おうちに帰らず、ずっと泊まり込んで患者さんと向き合っているという話も聞こえてきたじゃないですか。家族がいるにも関わらず、他人を助け続けるって。どういう使命感でやられているのか。医師モノドラマだと、とある患者が現れて、この人はどういう病気だから、こうするみたいな話が多いですが、もう患者が出てこない回もあるくらい、医師や看護師さんたちの人生そのものを深掘りしていく物語にしたいですね。

――ぜひ観てみたいです。

新井:みんなが、このマスクを外した日に実現するドラマ。早くそんな日が来ることを願っています。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む