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『凪のお暇』に込められた“人生のハンドルを握る勇気” 黒木華が2つの恋に決着をつけた最終回

リアルサウンド

19/9/21(土) 12:00

「今ね、ちょっとだけ未来が楽しみなんだ」

参考:『凪のお暇』中村倫也が考える、“やりたいこと”の叶え方 「初期衝動を新鮮な気持ちでキープする」

 金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)が、ついに最終回を迎えた。“自分を変えたい“と、仕事も、恋も、SNSも、全て捨てて“お暇“をとった主人公・凪(黒木華)。「お前は絶対変われない」と言い放ったモラハラ元カレ・慎二(高橋一生)も認めざるを得ないくらい、凪はこの夏で大きく変わった。

 それは自分の手で、人生のハンドルを握る勇気を持つということ。誰かにルートを決められたり、助手席に乗っているだけなら、リスクは少ないかもしれない。道に迷ったり、間違えたのではと後悔したり、その先が闇かもしれないと怯えたりしなくてもいい。でも、自分で決めた道ならば、心細くてもきっと希望を持って突き進むことができるはず。“お暇“の出口は、「選ぶ」という言葉がキーワードになった。

 凪を温かく迎えてくれたアパート「エレガンスパレス」の取り壊しの日が近づいていた。それぞれ「これからの人生」を考えるタイミングが迫っていたのだ。松山の旅館のお嬢様だった緑(三田佳子)は、家や婚約者を押し付けた妹に会いに行く。緑が繰り返し見ている映画『ローマの休日』でオードリー・ヘップバーンが演じた王女は、まさしく家から逃げた緑の心境そのもの。映画では、王女は城に戻るが、緑はそこから長いお暇へ。数十年ぶりの再会に、妹は「それで? 幸せだった?」と緑に問いかける。

 「どっちでも同じね。どうせ最後は独りなんだもん」。そう、私たちはこの世に出てきたときも、あの世に逝くときも結局は独りだ。だからこそ、生きている間は人と繋がりたいと願う。自分が誰と縁深くなるかは、自分の人生を選ぶのと等しい。アパート「エレガンスパレス」でみんなが出会ったのもそうだ。ハローワークで知り合った坂本龍子(市川実日子)ともそう。ひょんなことで知り合い「そんなつながりから」というところから、愛が生まれることもある。親は選べないけれど、住む場所も、仕事も、恋人も、友人も、行きつけのお店も、または1人で生きていくかどうかも……こんなにも自分で選べる時代は、振り返ってもなかなかない。そんなことに気づかされる最終回だった。

 そしてもう一つ、自分が選んできた人生は、いつか自分に返ってくるのではないか、ということも感じられた。凪に対して初めての恋を感じたゴン(中村倫也)は、必死に関係を持った女性たちから鍵を回収し、凪に告白する。新しい部屋の鍵を渡しながら、涙ながらに、どれほど凪のことが好きかを訴える。だが、その告白の中で「凪ちゃんがいなくなったら、俺、何もなくなっちゃうよ?」というセリフがあったのは、メンヘラ製造機がメンヘラになったとも見える重さ。相手の罪悪感を煽って凪をコントロールしようとしていた母・夕(片平なぎさ)のことも思い出されるようなセリフだが、凪はこの告白を丁重に断る。そこにも、凪がこの夏で身につけた強さが滲んでいた。

 一方、凪のお暇ラスト1日を「空気読むとかなし」なデートに誘った慎二。散々「変われない」と言い続けてきたことを撤回。この先は、一緒に歩めないけれど「絶対、大丈夫」と背中を押す。そして、最後にハグをしようとするのだが、それは“空気を読まない“凪によって拒否されてしまう。「お前、そこは空気を読んで……」。そこからは本音の小競り合い。そして最後に「尊いわー!」とハモってしまうあたり、本当にふたりは似た者同士だったのだと痛感する。似ているからこそ、次に会うときには成長している自分でいたい。凪にとって慎二は、恋人というよりも精神的双子。これからの人生において最大の理解者になりうる人なのかもしれない。

 また、凪の元職場では足立(瀧内公美)が、凪の第1話と同じように仲良くしていたはずの同僚から陰口を叩かれているのを知り、「わかる~」と感情なしで同意する状況に追い込まれていた。自分が変わらなくても、周りの空気がいつの間にか変わっていた、ということは往々にしてある。そして、その変わってしまった空気を前に、私たちも変わっていく。そうして、いつの間にか自分で運転する方法を忘れていってしまうのだ。だが、そんな足立に、かつて空気クラッシャーと呼ばれた市川(唐田えりか)が「最強のママがいるスナックを知ってる」と声をかける。その誘いに乗るかどうかは、足立の選択。だが、こうやって繋がっていく友情もあり、なのだ。

 思えば『凪のお暇』というドラマそのものも「何を見るか」という視聴者の選択によって、またその印象を大きく変わるのが面白い。凪と慎二、そしてゴンの恋愛物語をメインに見ている人にとっては、もしかしたらどちらともくっつかないことを残念に思うかもしれない。そして、凪の成長をテーマに見ていた人にとっては、1人で自立して歩き出す姿こそ、ハッピーエンドに見えたはず。または、コミカルな空気の中に潜む“モラハラ”、“毒親”、“メンヘラ”といった人と人との心の距離感に注目していた人ならば、凪と夕の母娘関係、慎二やゴンの今後の恋への向き合い方をもっと見ていたい気分なのではないか。

 『凪のお暇』を見ている時間は、私たちにとっても日常の“お暇“だった。最終回を見終えた今、「そろそろ考えてみてもいいんじゃない?」、そんなスナック『バブル』のママ(武田真治)の声が脳内に流れてくる。誰とどうやって生きていくのか。もしかしたら、今日送った1通のメールが、驚くような交際につながるかもしれない。今日誘った誰かと唯一無二の親友になるかもしれない。今日捨てた思い出が、新しい人生を呼び寄せるかもしれない。そう思うと、ちょっと未来が楽しみになる。

(文=佐藤結衣)

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