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[Alexandros]、“心の声”でシンガロングした6年ぶりのディスフェスをレポート デビュー以降のバンド史を感じさせた一夜

リアルサウンド

20/8/19(水) 12:00

 今年デビュー10周年を迎えた[Alexandros]。ベストアルバムのリリースは延期、ツアーも中止になるなど、当初の想定通りにアニバーサリー企画が進まないなか、8月14日、15日、『[Alexandros] 10th ANNIVERSARY THIS SUMMER FESTIVAL 2020』を開催した。

 『THIS SUMMER FESTIVAL』、通称ディスフェスとは、[Alexandros]がアマチュアの頃から続けている主催企画の名称。夏とは言い難い時期に開催されることが多かったため、「日本一遅い夏フェス」と銘打たれたディスフェスだが、約6年ぶりの開催となる今年はあえて夏に開催。“フェスのない夏”を覆してしまおうという、このバンドの粋な天邪鬼さを感じる。

 本稿では、とあるバンドとの対バン形式だった14日公演に言及する。おそらくファンの方は、「なんかお酒の名前で色々あった人達ぽいです」という川上洋平(Vo/Gt)のコメント(参照:ナタリー)から、察しがついていたことだろう。

 6月の『Party in ur Bedroom』は配信ライブとしての開催だったが、今回は、会場に500名(座席キャパ50%以内の定員)の観客を入れ、同時に配信も行った。司会者は、ライブ活動休止中、ゆえに久々にファンの前に姿を見せた庄村聡泰(Dr)。感染症拡大防止の観点から声を出せない場内の観客、そして配信で観ている観客に「声が出せない分、心の声をステージに届けてください」と伝えたあと、例のバンドを呼び込む。

 期待通り、画面には“[Champe]”(シャンぺ)の文字。野暮だと承知の上で改めて説明すると、シャンぺとは改名前のバンド名の略称。つまりこの日は、およそ6年前の彼らと今現在の彼らとの対バンだったのだ。メンバーの衣装や髪型は当時を彷彿とさせるもの。白井眞輝(Gt)に至っては“武道館に立つまで喋らない”というキャラ設定まで忠実に再現している。「Zepp Hanedaの屋根吹っ飛ばそうぜ!」、「(Don’t Fuck With Yoohei Kawakami」演奏前に)爽やかな曲やっちゃっていいですか!」といった川上の口ぶりも懐かしい。

 翌日の15日は、ファンクラブ・モバイル会員を対象とした、リクエストによって演奏曲を決めるライブ。マニアックな内容になると予測された翌日と対比させるためか、セットリストは、当時のライブ定番曲が中心(とはいえ「Kids」や「Don’t Fuck~」、「Untitled」辺りは今やレア曲)。そんななか、「Waitress, Waitress!」Cメロの展開がよりジャジーになっていたり、「Kill Me If You Can」Aメロが歌詞の語感によるノリを活かしたアレンジ変わっていたりと、シャンぺ時代からの進化ぶりを読み取れる場面も多かった。

 観客を目の前にするとやはりスイッチの入り方が変わるのだろう、バンドの演奏は、庄村に「えらい飛ばしよう」と言わせるまでの勢いだ。特に、長尺のソロを弾く機会の多かった白井は、天を仰ぎながら熱の入った演奏を見せる。磯部寛之(Ba/Cho)が、住んでいる地域や職業的にライブハウスに来るのが難しい人がいることに触れながらも、「正直嬉しいね、久しぶりだね」と言っていたように、メンバーは喜びの表情。「Starrrrrrr」のラスサビなど、いつもは観客のシンガロングに任せる箇所もここでは川上が歌い、次へと繋げる。

 シャンぺのライブ終了から数分後、衣装を替えたメンバーが、今度は[Alexandros]として再登場した。始まりは「Adventure」。メンバーの後ろに視聴者のコメントが映り、ここで画面越しに観ている観客の存在が改めて強調される。また、〈亜麻色に染まったZepp Hanedaは〉と歌詞を替えた箇所では、照明によってフロアにいる観客の存在が照らされた。

 [Alexandros]としてライブを行った後半戦では、たとえシンガロングができない状況でも、“ライブとは、バンドと観客が一緒になって作り上げるものである”という点は揺るがないのだということ、いや、揺るがせてたまるかという意思がより強く伝わってきた。あなたの声もまた“大それた四重奏”を構成する大切な要素である。彼らが「生で鳴らしてナンボ」と語る理由の一つはそういうところにあるのだろう。

 凛としたバンドサウンドに背を預け、川上は「Run Away」の最中に「聴こえてるぞー!」と叫ぶ。そして「ムーンソング」からの「月色ホライズン」。珍しくない選曲だが、この日ばかりは、離れていても同じ空の下に生きていることを象徴した2曲が並んでいるように感じる。「Dracula La」ではいつもならばシンガロングが起こるが、この日は代わりに場内の観客が腕を突き上げ、配信の観客が「おーおーおー」と書き込むのに応じるように、メンバーがイヤモニを外す。イヤモニは遮音性が高いため、観客の声をちゃんと聞きたいときは外した方がよいが、逆に言うと、観客が声を発せないこの状況で外す必要はないはず。それでも彼らがあえて外したのは、“心の声を聴かせてほしい”という意思を――あなたの声は実際ここまで届いているのだということを、行動で以って伝えるためだったのでは。

 重厚感あるサウンドがさらに燃える「Mosquito Bite」アウトロに、川上の「またあの日を取り返そうぜ!」が重なる。こうしてライブ本編は終了。アンコールでは、全てを包み込むように響いた「ワタリドリ」をはじめ、3曲を演奏。さらに、観客を入れようと決断するまでにたくさん悩んだこと、最終的な決め手になったのは「我々のファンなら大丈夫だろう」という信頼感だったことが明かされた。本日のゲストバンド、もとい、かつての自分たちに対して「あのバンド、これからいろいろある気がする。運がなさそうだから(笑)」と言っていた川上。アンコールでの「10年でいろいろなことがあったけど、我々は本当に、ファンの方には恵まれたと思っていて」という発言は、そこに対するひとつのアンサーか。ライブ中シンガロングを積極的に促すタイプのバンドだけに、“観客は声を出せない”という状況から受けるダメージは大きいと思っていたが、いち条件で揺らぐほど彼らはやわではなかった。ステージに立つからには揺らがないよう、ライブ実現に向けて協議・準備を重ねていたことも想像できる。

 庄村も交え、名残惜しそうにしばらく喋ってから終演。配信終了を知らせる画面のバックで流れているのは、『Bedroom Joule』CD版のみに収録される「真夜中 (Bedroom ver.)」で、つまりリリース前の曲だった。最後の最後に嬉しいサプライズを仕掛けてくるのもまたこのバンドらしい。デビュー10周年、結成から数えるとそれ以上の月日を生きてきたロックバンド、[Alexandros]。要素盛りだくさん、特別な内容のライブは、彼らが築いてきた歴史の賜物だった。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

■セットリスト
[Alexandros] 10th ANNIVERSARY
『THIS SUMMER FESTIVAL 2020 -全員集合! 6年振りのディスフェスパーティー-』

01 For Freedom
02 Waitress, Waitress!
03 Starrrrrrr
04 Kids
05 Kill Me If You Can
06 city
07 Don’t Fuck With Yoohei Kawakami 
08 Untitled
09 Adventure
10 Run Away
11 ムーンソング
12 月色ホライズン
13 Dracula La
14 Girl A
15 Mosquito Bite
En01 Thunder (Bedroom ver.)
En02 rooftop
En03 ワタリドリ

[Alexandros] オフィシャルサイト

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