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『ダンボ』『アラジン』『ライオン・キング』も 実写制作の増加から考えるディズニー作品の未来

リアルサウンド

19/4/9(火) 13:00

 ティム・バートンが監督を務めた実写版『ダンボ』が公開され、手描きのアニメーションとは異なる、リアルに表現されたダンボの姿に注目が集まっている。また、ダンボが飛翔する場面や、ダンボと隔離された母親が鼻を伸ばして互いに抱擁するなどの名シーンも、新しいヴィジュアルによって再現されている。

【動画】『ダンボ』特別映像

 ディズニー・アニメーションの過去の名作を実写化する映画企画は、いまやお馴染みのものとなっている。近年、『シンデレラ』(2015年)、『ジャングル・ブック』(2016年)、『美女と野獣』(2017年)、『プーと大人になった僕』(2018年)などなど、ファンに愛されるディズニー・クラシックのラインナップが、CG技術の進歩によって続々とリアルな表現で再映画化されているのだ。そのなかには、賛否を呼んだものもいくつかあるが、さらに今後も、『アラジン』(2019年予定)、『ライオン・キング』(2019年予定)、『ムーラン』(2020年)が控えるなど、この流れは勢いを増して継続中である。

 しかし、なぜ近年になって、ディズニーがこんなに多くの実写化作品を提供するのか。そして、それは何を意味しているのだろうか。ふたたび創造された各作品の評価や、その内容も踏まえながら、今後のディズニー作品のあり方について考えていきたい。

 ディズニー作品のなかでアニメーションの製作を担当するのは、「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」。実写映画を製作しているのは、「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」である。ディズニーアニメの実写化作品を手がけるのは、この後者にあたる。

 そんな「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」は、1946年、『南部の唄』から実写映画の製作を始める。代表的なところでは、『メリー・ポピンズ』(1964年)、『トロン』(1982年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年~)、『魔法にかけられて』(2008年)などが有名だ。

 ディズニーの過去の名作アニメーションを実写化する企画は、『101匹わんちゃん』(1961年)を基に、グレン・クローズが悪女クルエラを演じた『101(ワン・オー・ワン)』(1996年)が先駆けとなっている。とはいえ、これは単発的な実写化企画に数えられるだろう。ちなみに、『ラ・ラ・ランド』(2016年)のエマ・ストーンが若い頃のクルエラを演じるスピンオフ”Cruella(クルエラ)”の企画も、現在進行中だという。

 いまの実写化企画の流れが生まれたのは、『ふしぎの国のアリス』(1951年)を実写化した、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)からだ。約2億ドルという、ハリウッド映画のなかでは上限クラスの大作であり、当時の最新技術で美麗に表現された“ふしぎの国”に注目が集まるとともに、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで人気絶頂のジョニー・デップ出演作ということもあって、この作品は世界での興行収入が10億ドルを達成する大ヒットとなった。ここまで稼ぎ出してしまえば、続編企画はもちろん、「他にも映画化できる企画はないのか」という話が出てくるのは必然的であろう。

 とはいえ、『アリス・イン・ワンダーランド』は、アニメーション版のファンからはきわめて評価の低い作品でもある。その理由は、もともとアニメーションが、原作に準拠してナンセンスな世界を表現した、感覚的でアーティスティックな内容だったのに対し、実写版はそこに“ふしぎの世界を救う”という要素を追加して、単純化された勧善懲悪の典型的娯楽映画にしてしまったことが大きいように思われる。しかも、そのような内容の映画を、「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」出身でありながら、これまでにディズニーとは異なる反逆的な価値観を提供してきたバートン監督が作ってしまったということが、より反発を呼ぶ原因になったのではないだろうか。

 続く、『眠れる森の美女』(1959年)を実写化した『マレフィセント』(2014年)は、批評家に嫌われた作品だ。有名な悪役マレフィセントを、アンジェリーナ・ジョリーが演じ、同情的に描くというコンセプトは面白かったが、コメディーの要素を強めようと意外性をねらったとはいえ、オーロラ姫を助ける妖精たちをただろくでもない存在として描くなど、アニメーション版への敬意が欠けたものになっていた。

 たしかに、アニメーション版と全く同じようなものを実写にそのまま再現するのでは芸がないかもしれない。そこで“新解釈”という発想が出てくる。とはいえ、もとの作品を足蹴にしてしまうのでは、ファンに不満を与えてしまうことになる。これは本来のディズニーの望む方向ではないだろう。このあたりが実写化企画の難しいところだ。

 その後、ディズニー・クラシックの実写化は、基本的にはアニメーション版の価値観に沿ったものとなる。『シンデレラ』にはケネス・ブラナー監督(『フランケンシュタイン』)、『ジャングル・ブック』にはジョン・ファヴロー監督(『アイアンマン』)、『美女と野獣』にはビル・コンドン監督(『ドリームガールズ』)、『プーと大人になった僕』 にマーク・フォースター監督(『ネバーランド』)と、実績あるスタッフに予算をかけたリメイクを撮らせるという流れが出来上がってきた。

 『ピートとドラゴン』(1977年)は、厳密には『メリー・ポピンズ』(1964年)と同じく、実写映画として撮られた、もともと「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」作品だが、これをデヴィッド・ロウリー監督(『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』)がリメイクした傑作『ピートと秘密の友達』(2016年)も、ここで挙げておきたい。

 そこでは、キャストの見せ場など、実写版ならではの新たな魅力を創出し、オリジナル作品よりも時代に沿った表現をすることができるという強みもある。『アリス・イン・ワンダーランド』や『ダンボ』では、自立心の強い女性が、自分の能力を発揮して成功する描写がある。これらの作品を見ることで、勇気を与えられる観客は少なくないだろう。

 しかし、このような流れが支持され、安定した興行収入が確保できた大きな理由は、ディズニーのアニメーション作品を、映画やビデオなどで何度も何度も繰り返し見てきたファンの存在がある。子どもの頃の郷愁を求めて名シーンの再現に涙したり、自分の子どもに劇場で同じ感動を味わってもらいたいと思う人たちだ。それはまた、ディズニーの先人たちの努力や、テーマパークなどで作品ごとのイメージをブランド化してきたことで生まれた、ディズニー全体の財産でもある。

 現在の製作ラッシュは、その財産を使用してしまっていることを意味する。オリジナル作品の間にバランスよく組み込むのではなく、現在の、とにかく連続して作り続けられ、観客がそれを楽しむというサイクルは、ディズニーに長い歴史と魅力的な作品群があるとはいえ、永遠に続けられはしないだろう。新たな時代を作るには、『メリー・ポピンズ』や『トロン』のように、「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」から発信する作品も必要なのだ。

 伝統を守るだけでなく、新たな価値、キャラクター、そして世界を生み出す。ウォルト・ディズニーの持っていた挑戦心と、志が高く才能あるクリエイターを見抜き、イマジネーションを最大限に爆発させられる環境を整え、新しいオリジナル企画を進めること。いままでの財産を使って得た利益は、そこに投入してこそ、「ディズニー」の名を継ぐ企業の姿勢たり得るのではないだろうか。

(小野寺系)

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