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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

松田先生とパンクロック

毎週連載

第109回

秋にアルバムをリリースして、色んなテレビ番組に出たけど、特に嬉しかったのが、中学のときの松田先生とオンラインで再会できたこと。あれは嬉しかったな。この番組を観てくれた人は知ってると思うけど、松田先生は中学のときの僕の担任でね。授業はきちんとやるし、黒板にアレコレ書いたりもするんだけど、「そのままノートに書いちゃダメ」っていう変わった教え方をする先生だった。

普通、先生が黒板に書いたことを生徒は自分のノートに板書するでしょ。でも、松田先生の場合はそれだと点数をくれないの。生徒が授業を受けた後、みんな家に帰って自分なりのノートを作って、次の授業のときに持ってくるんです。「マイ教科書」を作らされるような感じなんだけど、ノートを作ること自体がまず楽しいしさ、「マイ教科書」だから覚えなくちゃいけないこともちゃんと咀嚼して自然と頭に入ってくるという合理的なやり方だった。

またさ、誰がどんなノートを作ってきても、松田先生は絶対に尊重してくれるのがすごく良かった。例えばヤンキーがさ、ヤンキー的なバカっぽいノートを作ってきても「こいつは、こんなノートを作ってきたぞ。面白い」と言って喜んだりもして。だから、ヤンキーも松田先生に反抗することはなかった。生徒それぞれの気持ち、立場を尊重してくれて絶対に否定しない……そういう楽しい授業をしてくれるのが松田先生だった。結果的にさ、松田先生のおかげで社会の地理とか歴史とか大好きになったから。

松田先生ってね、なんか日本人っぽい感じではなかったんだ。山形だから確かにナマってはいるけど、海外文学とかにも精通してたし、映画もいっぱい観せてくれたし、ビートルズなんかも詳しく紹介してくれたりね。センスが都会的でリベラルだった。中学のとき、松田先生のやり方が普通だと思ってたから、高校に入ってビックリしたもん。「勉強ってこんなにつまんないものだったのか」って(笑)。そこで「松田先生は相当変わったやり方だった」ってことを知るんだけど、でも、松田先生から教わったことは、僕の素養になってると思う。

僕ね、音楽でも思想でもなんでも良いんだけど、「これだからダメ」「お前は違う」みたいなことをひとつも言いたくないの。先週まで喋った「タメ語の接客」っていうのはダメだけど(笑)、でも人が好きになったもの、人が考えていることに対して、「ダメ」とは絶対に言いたくない。むしろ「人と違うことを考えてるってことは、面白いんじゃないか」っていう見方をしたいんだ。

この辺はパンクの精神にも通じるかもしないね。パンクの世界にも人によって見方が違ったり、ときに排他的な考えをする人もいるけど、僕にとってのパンクの精神って、「変でもいい」「変わっててもいい」「下手でもいい」ってことと、さらに「自分の友達みたいになってくれるもの」ってこと。

僕がパンクロックを聴き始めて一番グッときたのはジョニー・ロットンの歌い方だったんだ。とんでもない表情で、汚いことも歌うし、ツバは吐くけど、一番グッときたのがマイクにかじりつきながら内股で歌う姿。あれを見たときに僕は救われる感じがあったんだよ。

子どもの頃の僕は内股で、これがすごいコンプレックスだったんだけど、ジョニー・ロットンが内股で足をくねらせながら歌う姿を見たら「カッコ良いじゃん」って思えてね。あと、エルヴィス・コステロもね。エルヴィス・コステロって、ジャケットを着てギターを持って内股でしょ。このふたつを知ってから世界はバラ色になった。肯定してもらえたような気になって。甲本ヒロトさんが昔、ブルーハーツで『夜のヒットスタジオ』に出てとんでもない歌い方をしてたでしょ。あれで救われた人、いっぱいいたと思うけど、それとも近い感じ。

それまでの芸能人、ロックミュージシャンって絶対的にルックスが良くないとダメだし、様式美みたいなものもあるから「僕には到底届かない世界」みたいに思っていた。でも、「お前もそれで良い」「変だっていいんだ」っていう姿を見て、「僕にも何かできるかもしれない」って思えたんだ。

だから、僕にとってのパンクの精神は「自分を肯定してくれる、自分の友達みたいになってくれるもの」の一言に尽きるんだ。「パンクとは何か?」って問いは、パンク好きの人なら誰もが通るお題だけど、僕にとってはこういう感じだね。

話を戻すと、松田先生の前ではさ、好きな子の話とかも普通にできたの。失礼があったらイヤだけど、松田先生に対しては「先生」っていう感じでもなくて、本当に友達みたいだった。だから、そういう人、もの、音楽は一生忘れることができない。全部僕を作ってくれたものだと思うからね。

今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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