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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

おばあちゃんの「はい、大升でーす」

毎週連載

第97回

8月12日にスマホのカメラで撮影した配信ライブをやったんだけど、その3日前の8月9日に僕の母方のおばあちゃんが94歳で亡くなりました。

実は、その母方のおばあちゃんは春くらいから入院していて、親から電話で聞いていたのね。「夏くらいには亡くなってしまうかもしれないから覚悟しておけ」って。それまでに、せめておばあちゃんのお見舞いに行きたかったんだけど、この間はコロナで移動したらマズい時期だったでしょ。特に東京から地方に行くっていうのがマズい。だから、すごく会いたかったけど、結局おばあちゃんには会えないまま亡くなってしまったんだよね。

せめて葬儀には……とも思っていたんだけど、葬儀があったのが8月12日の、スマホライブ当日だったんだ。だから、すごくもどかしかったけど、うちの両親もさ、「大丈夫。とりあえずお前は、自分のことをがんばってやれ」って言ってくれて。だから、あのスマホライブのMCでは、おばあちゃん、それと亡くなった大事な友だちの名前をあげて、演奏したんだ。

亡くなったおばあちゃんの名前は“カズコ”っていうんだけど、本当に優しくて面白い人だった。江口くん(マネージャー)と一緒に山形に帰ったとき、おばあちゃん家と江口くんの実家が結構近いからさ、二人でおばあちゃんの家に行ったことがあった。普通さ、おばあちゃんにとったら、孫の友だちなんかが来ても話かみ合わないじゃん。でも、うちのおばあちゃんは違う。3人でお茶飲んで、ゲラゲラ笑ったりして。まぁ、若い人に話を合わせることもできるくらい柔軟で頭の良い人だったんだと思う。うちのお母さんそっくりなんだよ。顔も、体型も、声も、喋り出したら止まんないところも全部(笑)。

おばあちゃんは、15年くらい前におじいちゃんに先立たれてさ、それからはずっと長男夫婦と一緒に住んで、「大升」っていう駄菓子屋をやってたの。その駄菓子屋をやる前はメチャクチャ大地主で、特に明治、大正の頃まではお金持ちだったらしいけど、戦争が終わって土地を持ってかれて変わっちゃったんだって。

だから、母方のおばあちゃんの家って、狭い家なのよ。その家に、おじいちゃん、おばあちゃん、長男夫婦、それと、長男夫婦の子ども……僕の従兄弟ってことになるけど、その一家に加えてさ、僕がまだ小さかった頃は、さらにまだひいばあちゃんも生きていたから、それだけの人数でギュウギュウ詰めで暮らしてた。

おばあちゃんとおじいちゃんはお互いに山形県庁で働いていて、そこで知り合って結婚したらしい。余談だけど、江口くんのお父さんとお母さんも山形県庁で働いていて、そこで出会って結婚したらしいんだけど、ビックリした話があってさ。江口くんって上にお姉ちゃんが2人いて、一番下でしょ。だから親御さんは同世代に比べればちょっと上なんだけどさ、うちのおじいちゃんと江口くんのお父さん、同じ時期に山形県庁で働いていて、名前を知っていたっていう(笑)。課が一緒だったかどうかまではわからないけど、すごい偶然だよね。仕事場で一緒だった人の孫、息子が偶然東京で出会って一緒に仕事をしているなんてね。

話を戻して、おばあちゃんの家でやっていた駄菓子屋なんだけど、家も狭いからお店ももちろん狭くてね。駄菓子と日常雑貨をちょこっと置いているようなお店だった。

今でも忘れられないことがあるんだけど、家にいると電話がかかってくるでしょ。僕が子どもの頃だから携帯なんかなくて、普通の黒電話がリーンと鳴る。でも、そういう電話が鳴ってもさ、やっぱり昭和の男は取らないんだよ。それで、おばあちゃんがやれやれって感じで立ち上がって「よいしょ!」とやって、電話を取りに行く。それで電話を取るとさ、おばあちゃんはいつものように「はい、大升でーす」って言う。独特の言い方、声でさ、あれがかわいくてキュートでね。一生忘れらんないんだ、あのおばあちゃんの声が。

おじいちゃんは山形県庁時代に、県庁の野球部でエースピッチャーだったらしいんだけど、沢田研二みたいで若い頃はカッコ良かったらしい。でも、15年前に先に亡くなってしまって。そのことが影響しているかわからないけど、おばあちゃんは急に野球が好きになっちゃって。それもただボンヤリ好きっていうんじゃなくて、毎年シーズン前に出る選手名鑑とか買ってさ、プロ野球選手全員の「去年の打率何割」とか、細かい成績まで全部覚えちゃってた。

試しにおばあちゃんにさ、「今年のヤクルトどう?」みたいな話を振ると、もうウンチクがすごすぎる。「今年は1番に誰それが来ているでしょ。だから、ダメなんだけど、ただドラフトでルーキーが入ったから。そこはいい。あとは4番の誰それがちゃんと打ってくれれば……」みたいな話をずっとしているっていう(笑)。

そんな明るいおばあちゃんの最期に、会えなかったのは本当に残念だった。でもさ、これはイノマーさんにしても他の友だちにしてもそうなんだけど、僕にとって大事な人が亡くなったからっていっても、どういうわけか亡くなった感じがしないんだよね。だから、おばあちゃんのさ、「大升でーす」っていう声だって、いつかまた絶対聞けるような気もしてるんだよね。

この連載とは別に、『ぴあ』では、「銀杏BOYZフルアルバム『ねえみんな大好きだよ』全11曲を語る!【11週連続ロングインタビュー】」という短期集中連載もやっています。良かったらこちらからご覧ください(写真:小境勝巳)。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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