Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

『ランボー ラスト・ブラッド』ータイトルに歴史と秘話あり。

毎月29日掲載

第23回

20/6/29(月)

『ランボー ラスト・ブラッド』 (C) 2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.

映画館の再開で感じることがある。全国公開規模の新作が少ないので、どうしても随分昔の旧作が多くなっていることだ。邦画なら『仁義なき戦い』『県警対組織暴力』『復活の日』『楢山節考』など、洋画なら『ひまわり』などが目に付く。すでに、『復活の日』は観に行ってしまった。近年の洋画には、あまり触手が伸びない。これは、私だけの話ではないだろう。コロナ禍は、昔の映画を思い出すきっかけを作ってくれた。いい機会だ。今一度過去に照らし合わせて、映画を振り返ってみよう。そんな思いがつのる。まさに、災い転じて福となす、の精神である。

ところで、旧作そのものが心に引っかかるだけではない。新作のなかに旧作の精神を見て、ちょっとばかりにニヤリとすることもある。6月26日から公開された『ランボー ラスト・ブラッド』だ。このタイトルを見て、ハッとする人がどれくらいいるだろうか。私は、ハッとして、すぐにあることが頭をよぎった。このシリーズ1作目のタイトルの変遷のことである。ここで、少し過去のことに触れる。私が、この業界に入って間もない1982年の9月のこと、東宝東和に何人かの記者が呼ばれて、ある作品のデモフィルムを見せられたのである。タイトルは『ファースト・ブラッド』とあった。すでに『ロッキー』の3作品で人気になっていた肉体派、シルヴェスター・スタローン主演のアクション大作の部分的な映像だった。

『ランボー ラスト・ブラッド』
(C) 2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.

これが凄かった。ベトナム帰りの男・ランボーが、警察隊と壮絶なアクションを繰り広げる。デモフィルムなので、細かいストーリー展開はわからなかったが、それでもそれまでのアクション映画とはレベルが違っているのがわかった。スタローンの強靭な肉体と苛烈なアクション描写が、見事な融合をなしていた。観終わって、この『ファースト・ブラッド』というタイトルが、実に適切で格好いい。言いやすいし、インパクトがある。そう感じた。だから、てっきりこの原題を邦題にして、公開するものと踏んでいた。しかし、その後、邦題が新たにつけられた。それは短く、『ランボー』となっていた。

これを最初に聞いたときは、ピンとこなかった。洋画の邦題というのは、公開前の時点では、ピンとこないときがある。『ランボー』も、私のなかではその一つだったのだが、それがその邦題でマスコミ試写などが進むにつれ、しだいに中身とのフィット感が生まれ、親しみやすくなっていった。なぜ、そうなっていったのかは、不思議な気もするが、要は言葉のもつ発信力、強い訴求性が、『ランボー』にはあったということだろう。

当時、本作を配給した東宝東和で宣伝部に所属していた竹内康治氏に話を伺うと、「東宝東和は、邦題に非常にこだわる会社だったので、邦題にはいろいろな案が出ました。原題どおりでいいのではないか。フルネームである『ジョン・ランボー』も有力候補でした。結果、『ランボー』に決めたのは、東宝東和の“ハッタリ宣伝”で伝説を作った当時の松本勉宣伝部長でした。スタローンの大ヒットシリーズ『ロッキー』にも影響されたと思います。邦題にはジンクスがあります。『ン』がつくのがヒットするんです。当社でいえば、81年の『バーニング』『エレファント・マン』、82年正月の『キャノンボール』、同年2月の『ブッシュマン』などです。それ以降でも、『バタリアン』といったホラーにつけました。いずれも大ヒットしました。ゴロがいいというのか、錠剤などのアリナミンも、その一つですね」ということだった。

当時の東宝東和その他の作品のチラシ

『ランボー』は、日本の東宝東和がつけた邦題で、シリーズ2作目以降では、原題になっていく。その最初の作品の原題『ファースト・ブラッド』のシリーズ最終作として、原題、邦題2つのニュアンスを兼ね備えた新作『ランボー ラスト・ブラッド』が、26日から公開されたというわけである。ただここで、押さえておきたいのは、1作目『ランボー』は予想されたような大ヒットにはならなかったことだ。当時、大都市以外は2本立て上映で、『ランボー』は『地中海殺人事件』と2本立てだった。今思うと、女性路線の『地中海殺人事件』とのセットは、少し強引な気もするが、『ランボー』だけを見ると、当初目標20億円(配給収入)を下回り、12億円程度に甘んじたのである。

ただ、2作目となる『ランボー/怒りの脱出』(85年)は、配収25億円の大ヒットを記録し、シリーズ最大の成績となった。米映画のシリーズものは、1作目が苦戦し、2作目以降でブレイクしていくことが結構ある。「インディ・ジョーンズ」シリーズ(1作目は『レイダース』)はじめ、『ターミネーター』『ダイ・ハード』など、枚挙にいとまがない。単純化すれば、1作目の面白さは、最初の公開時にはそれほどの伝播力がなく、その面白さがじわじわと浸透していく過程で、2作目で広範囲の支持を集めていくということだろう。『ランボー』は、邦題一つとっても、そこに大いなる歴史がある。映画ファンのみならず、多くの人が見届けてほしい作品である。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む