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杉野遥亮が体現する、グレーの世界の不気味さ 『スカム』反社会的勢力と日常はすぐ隣にある

リアルサウンド

19/8/27(火) 6:20

 振り込め詐欺の内幕を描いた『スカム』(MBS/TBSドラマイズム)は、リーマンショックの影響で新卒切りにあった青年・草野誠実(杉野遥亮)が主人公のドラマだ。

 毎月の学生ローンと癌になってしまった父親の高額の医療費を稼ぐために、友人から紹介された高額のバイトを引き受ける草野。しかし、友人が現金を持ち逃げしたために、集金屋の山田良(山中崇)に捕まってしまう。その後、なぜか詐欺グループの上司に才能があると見込まれた草野は、振り込め詐欺の実行者を育成する研修に参加させられる。

【写真】悲鳴をあげる杉野遥亮

 振り込め詐欺を題材にした本作には、反社(反社会的勢力)と呼ばれる人々が多数登場する。集金屋の山田、詐欺グループの店長・毒川馨(和田正人)、裏社会のトラブルを解消する謎の便利屋・小沼(柳俊太郎)など、闇社会に潜む恐い男たちが暗躍する姿は本作の見どころだが、『スカム』の恐さは、反社の暴力的な振る舞いではなく、彼ら反社の詐欺行為と、わたしたちの日常がたいして離れておらず、すぐとなりにある地続きのものであるということを嫌というほど実感させられるからだ。

 それを体現しているのが主人公の草野だ。

 本作は草野が一人前の詐欺師として成り上がっていく姿を描いた一種のピカレスクロマンだが、彼自身は親と同居する普通の青年で、寂れた町にあるオフィスに地味なスーツを着て通う姿は、外からみれば、どこにでもいるサラリーマンと変わらない。

 『スカム』を見ていてゾッとするのは、実は闇社会のあれこれではなく、危険な仕事をしながら母親と同居し、いっしょにご飯を食べている草野の姿だ。草野の日常と、母親の日常は離れているようだが実は地続きで、やがて母親にも秘密を知られてしまう。その時になんと母親も草野の仕事に加担し、訪問介護の仕事で調べたお金を隠し持っている老人たちの名簿を草野に渡してしまうのだ。

 そんな母親も被害に巻き込まれてしまうのが、本作の容赦のなさだが、友人や母親との関係といった草野の細々とした日常がちゃんと描かれているからこそ、反社が暗躍する振り込め詐欺等の反社会的行為のリアリティが倍増しているのだ。

 本作が恐ろしいのは、反社の実態が描かれているからではなく、振り込め詐欺に加担する反社と呼ばれる人たちが、自分たちの日常から離れた異常者の集団ではなく、実は自分たちと大して変わらない存在だと気付かされ、油断すると「その気持ちわかる」という共感の回路が生まれてしまうことだ。

 根幹にある豊かな老人に対する持たざる若者たちの怒り(それが仮に、詐欺グループが犯罪行為を正当化するために生み出した言い訳だったとしても)を理解してしまえば、その瞬間、彼らを他人だとは思えなくなってしまう。

 その意味でも本作の中核となっているのは、草野を演じる杉野遥亮だろう。当初は普通の青年だった彼が、詐欺の世界にハマって変貌していく話かと思っていたが、むしろ見た目は好青年のまま変わらないのに、詐欺師としてグループの中で成長していく草野の在り方にこそ、振り込め詐欺というグレーの世界の不気味さが体現されていると言えるだろう。

 杉野遥亮は現在23歳。松坂桃李にあこがれて応募した2015年のFINEBOYS専属モデルオーディションでグランプリを獲得し、2016年にWEBドラマ『民王番外編 秘書磯貝と怪しい6人の客』(テレ朝動画)で俳優デビュー。185cmの高身長と爽やかなルックスを武器に『兄に愛されすぎて困ってます』(日本テレビ系)や『花にけだもの』(dTV、FOD)、『ミストレス~女たちの秘密~』(NHK総合)などのドラマに出演してきた。

 筆者が杉野に注目したのは、Paraviで配信されたドラマ『新しい王様』だった。

 金に執着しない謎の実業家のアキバ(藤原竜也)と金で買えないものはないと豪語する実業家の越中勲(香川照之)がテレビ局買収を目論む本作は、現在のテレビの在り方を問いかける意欲作だった。『スカム』が底辺で暗躍する反社たちの物語だとしたら、『新しい王様』は億単位のお金を動かす投資家たち天上人の物語だ。

 本作で杉野が演じたのは、美女をセレブに派遣する人材派遣会社を起業する青年・鴨宮コウシロウ。セレブとコネクションを築いて必死で成り上がろうとする彼は、アキバや越中に較べると平凡な青年だ。

 藤原と香川という怪優に挟まれて右往左往する杉野の姿は、最初は無個性で味気なく見えて、凡人のくせに特別な存在になろうとするコウシロウの姿に痛々しさを覚えたが、今振り返ると、怪人ばかりの中で、もっとも人間味のある青年だったと好感を持つ。

 杉野の演技は良くも悪くもケレン味が薄いのだが、だからこそ普通の青年をしっかりと演じることができる。これは彼にとってもっとも大きな武器だ。

 杉野のような普通を演じられる俳優が真ん中にいると脇を固める個性派俳優たちのアクの強さがより際立つ。だからこそ『スカム』のようなダークな作品においてはなくてはならない存在なのだ。

※柳俊太郎の「柳」は旧字体が正式表記

(成馬零一)

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