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植草信和 映画は本も面白い 

「百聞は一見に如かず」な写真満載!『写真集 若尾文子』ほか

毎月連載

第36回

20/3/10(火)

『写真集 若尾文子』

『写真集 若尾文子』(『写真集 若尾文子』製作委員会編/ワイズ出版/3,500円+税)

今回で5回目になる「若尾文子映画祭」で、本邦初披露の4K復元版『刺青』を観た。

今まで何回も観てきたフィルム上映の画像とは明らかに違う、クリーンな色彩と高いコントラスト映像。高度なテクノロジーがクラシカルな古典に新たな生命を吹き込んだ瞬間に立ち会っているのだ、と思えた。

4K復元版で甦った、若尾文子の白桃のような柔肌に彫られた〈刺青〉は、まさに「百聞は一見に如かず」の鮮やかさだ。

今回の「若尾文子映画祭」の関連企画として作られた『写真集 若尾文子』には、その「百聞は一見に如かず」の場面スチール、撮影スナップが満載されている。版権所有社KADOKAWAの倉庫に眠っていた膨大なネガブックから選び抜かれた、これまでほとんど世に出ていない395枚の写真一枚一枚から映画の力、若尾文子の魅力が伝わってくる。

まず最初に驚かされるのは、20歳の若尾が茶道具の前で正座し、ファインダーを覗いている宮川一夫カメラマン(顔は見えないが)、溝口健二監督がその隣りで演技指導している『祇園囃子』の撮影スナップだ。B5判見開きいっぱいの、映画のミューズが舞い降りたような若尾と溝口監督が映っているこの写真は、見る者を時空を超えて『祇園囃子』の撮影現場へと誘ってくれる。

また小津安二郎監督が中村鴈治郎と若尾に演技指導する『浮草』の撮影スナップは、短いショットで登場人物の心模様や物語の流れを映す小津監督独特の演出術を垣間見ているような気にさせる。

見る者を幸せにするスナップは、『女は二度生まれる』の打ち合わせ中の川島雄三監督と若尾のツーショットだ。見たことがある写真ではあるが、迫力ある見開き2ページの写真からはふたりの会話が聞こえてくるようだ。「若尾くん、この映画で僕は君を女にしてみせるよ」「あら、そうですか。だったら私もひと肌脱ぎますわ」……なんて。

そんなふうに書いていくとキリがないので止めるが、その他、名コンビの増村保造監督との『清作の妻』の撮影現場、市川崑監督『ぼんち』での市川雷蔵とのオフショットなどなど、時を止めて見続けていたくなる写真ばかりだ。

「私の大映時代のすべてがこの中に詰まっています」(前書き)という若尾さん、本書の製作委員会の方々に感謝したくなる写真集だ。

『イージー★ライダー/負け犬たちの反逆 ハリウッドをぶっ壊したピーター・フォンダとデニス・ホッパー』(谷川建司著/径書房/2,600円+税)

『イージー★ライダー/負け犬たちの反逆 』

1968年のベスト1映画『俺たちに明日はない』、69年のベスト2『真夜中のカーボーイ』、70年のベスト1『イージー・ライダー』(何れもキネマ旬報ベストテン)というアメリカ映画史をリアルタイムで見聞してきた者たちは、『イージー・ライダー』を特別な映画として語り継いできた。

ハリウッドの映画産業が崩壊寸前まで衰退し、それに取って代るインディペンデント映画が抬頭し始めたその時代。映画改革の象徴、金字塔が『イージー・ライダー』という映画だったからだ。

「負け犬」「反逆」「ぶっ壊し」など物々しい言葉から成る書名だが、サブタイトルの「ハリウッドをぶっ壊したピーター・フォンダとデニス・ホッパー」は、その史実にそって付けられたのだろう。

本著は、そのホッパーと深く交流した著者の旧著「『イージー・ライダー』伝説 ピーター・フォンダとデニス・ホッパー」の改訂版(帯文には『増補改訂完全版!!』とある)だ。

「新版に衣替えするにあたって、書名を新しくし(…)旧版刊行以降の『イージー・ライダー』をめぐる出来事やデニス・ホッパー、ピーター・フォンダの人生について加筆した」、と著者は「あとがき」に記している。

『イージー・ライダー』の監督・主演のデニス・ホッパー、原案・主演のピーター・フォンダ、共演者のジャック・ニコルソンが本作とどのように関わり、その空前絶後の世界的大ヒットによって彼らがどのような人生を歩んだのか…。著者自身によるインタビューやニューズウィークなどの記事を織り交ぜて、三人三様の人生の光と影を詳述、映画史の断片を切り取っていく。

「最終的に映画が6000万ドルもの配収に達したため、結果的に(ピーターの)取り分は720万ドルにもなった計算だ。ピーターとの利益配分の差額(300万ドル)が明らかになっていくにつれて、ホッパーはあからさまにピーターを罵る発言を繰り返すようになる」。

「『イージー・ライダー』が予想をはるかに上回る大成功を収めてしまったことでその友情に亀裂が生じ、結果的にそれぞれが別の道へと進んでいくことになってしまったのはまったく皮肉な巡り合わせであった」。

成功がもたらした残酷な現実を生きなければならなくなったふたりの道は最後まで交わることなく、ホッパーは2010年74歳で、ピーターは2019年79歳で激動の人生に幕を下ろす。

しかし、彼らが作った映画『イージー・ライダー』は半世紀経った今でも燦然と輝き、「保守化」しているアメリカ映画の現在を照ら続けていることを本書は教えてくれる。

『俳優 原田芳雄』(原田章代・山根貞男著/キネマ旬報社/2,200円+税)

 『俳優 原田芳雄』

今から半世紀前の1970年早春、日活は業績不振に揺れていた。その不況の中で作られた渡哲也主演、澤田幸弘監督の『斬り込み』に感動し、日活撮影所に澤田監督を訪ねた。

快く面談に応じてくれた澤田監督は、「今撮っている『反逆のメロディー』の原田芳雄がいいんですよ。ディスカッションが出来る珍しい役者なんだ」、と嬉しそうに語ってくれた。

それから4カ月後に封切られた『反逆のメロディー』での原田さんは、長髪にブルージーンズ、ジープを駆るアウトローを演じていた。ヤクザといえば着流しが相場だったあの時代、実にクールでカッコよく、一目でファンに。それが俳優原田芳雄との出会いだった。

本書『俳優 原田芳雄』は、原田夫人の章代さんと映画評論家の山根貞夫氏の共著で、1967年のデビューから2011年に逝去するまでの44年間の原田さんの俳優人生を回顧する追悼集。全3章から成っている。

「I 原田芳雄との日々」では、俳優原田さんを公私にわたり支えた章代夫人が、俳優座養成所時代から遺作が完成するまでの故人の歩みを山根貞男の問いに答える形で逍遥する。交遊録、趣味、仕事観など、公にされたことがない故人の私生活、秘話が語られていて興味が尽きない。

「II 原田芳雄を語る」は生涯を通じての盟友だった石橋蓮司、代表作『竜馬暗殺』『祭りの準備』『父と暮せば』などの撮影監督である鈴木達夫が故人への思いを語る。中でも石橋の「芳雄は僕にとって〈最大の他者〉というか、〈最高の素敵な他者〉だったんですね。(…)演技で、ですよ。芳雄は演技で他者として僕を自覚させてくれる存在だったと思う。」という交流の深さを感じさせる言葉が胸を打つ。

「III 原田芳雄が語る」は「鈴木清順のやりたい放題 縦横無尽」のタイトルのもと、自身の演技観、監督論を語っている(初出は『ユリイカ』1991年4月号)。

1970年以降の日本映画界に彗星のごとく現れた原田芳雄というスーパースターが、どのように誕生し生きたのかを余すところなく伝えてくれる感動的な追悼集だ。

プロフィール

植草信和(うえくさ・のぶかず)

1949年、千葉県市川市生まれ。フリー編集者。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。著書『証言 日中映画興亡史』(共著)、編著は多数。

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