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Lamb Of God、Xibalba、Oranssi Pazuzu……エクストリームメタル界の“今”を切り取った新作7選

リアルサウンド

20/7/5(日) 10:00

 2020年も気づけば2分の1が終了。そのうちの半分は新型コロナウイルスの影響で、今年冒頭のような日常を送ることができなくなってしまい、音楽界においてもライブ活動自粛やリリース延期などネガティブな話題ばかりを耳にするようになりました。その一方で、世に届けられるハードロック/ヘヴィメタルやエクストリームメタルシーンの新作は、例年以上にクオリティの高いものばかりという印象もあります。今年前半を振り返っても、ビッグネームの話題作から意外な掘り出しモノまで個性豊かな良作三昧でリスナーを楽しませてくれました。

 今回紹介する5〜6月リリースの新作7枚もその例から漏れず、それぞれに強い個性を放つ力作揃い。いまだ悶々とした日々を過ごす音楽ファンに、今だからこそ爆音で楽しんでもらいたい良作の数々を紹介していきたいと思います。

Lamb Of God『Lamb Of God』

Lamb Of God『Lamb Of God』

 21世紀のUSメタル界においてもっとも強い影響力を持つバンド、Lamb Of Godが5年ぶりとなる待望の8thアルバム『Lamb Of God』をリリースしました。新型コロナウイルスの影響により発売が1カ月延期となっていた本作は、名手クリス・アドラー(Dr)に代わりアート・クルーズ(Dr/ex. Prong)を迎えて制作した初のアルバムで、アルバムタイトルにバンド名を冠した究極の1枚と言えます。

 Pantera以降の流れを汲むグルーヴィでハードコアなメタルサウンドはそのままに、全体的にコンパクトにまとめられた作風は過去のアルバム中もっとも聴きやすい内容に仕上がっています。だからといってその攻撃性は過激さが後退したわけではなく、従来の“らしさ”を維持しつつも(この手のサウンドとしては)非常にポピュラリティの高さが感じられる絶妙なバランス感で成り立っている。職人技に徹した新ドラマーの仕事ぶりも影響してなのか、最後まで耳が疲れることなく楽しむことができるのです。質感や方向性は異なるものの、本作はMetallicaにおける『ブラック・アルバム』(1991年発売の大ヒット作『Metallica』)に通ずる1枚になりそうな気がします。

Lamb of God – Gears (Official Music Video)

The Ghost Inside『The Ghost Inside』

The Ghost Inside『The Ghost Inside』

 LA出身のメタルコアバンド、The Ghost Insideも初めてバンド名を冠したセルフタイトル作『The Ghost Inside』をリリース。彼らは2015年11月、ツアーバスの事故によりドラマーが片足を切断する大怪我を負い、活動休止に追い込まれました。しかし、2018年春に事故後初となるリハーサルを開始すると、翌2019年夏には復活ライブを開催。そのままレコーディングに突入し、待望の5thアルバムを完成させました。

 ドライバーが死亡するほどの大事故、メンバーの大怪我という悲劇を乗り越えて届けられた本作は、嫌が応にも“奇跡の復活”というフィルターを一枚通して接することになってしまいますが、当のバンドはそんなことお構いなしの王道メタルコアサウンドを高らかに響かせています。新鮮さや革新的な要素は皆無ですが、終始安心して身を委ねられるメタルコア・サウンドはこの手のバンドが好きな人にはたまらない1枚。アルバムラストを飾る「Aftermath」に到達する頃には、きっと前述のネガティブな話題を忘れ、無心で頭を振っていることでしょう。なお、同曲のMVでは事故発生当時のニュース映像がフィーチャーされているので、そのへんのバックグラウンドが気になる人は細かくチェックしてみてください。

The Ghost Inside – “Aftermath”

Machine Head『Civil Unrest』

Machine Head『Civil Unrest』

 続いて紹介するのは、6月半ばにデジタルリリースされたMachine Headの最新シングル『Civil Unrest』。Machine Headは現時点での最新アルバム『Catharsis』(2018年)発表後は、デビューアルバム『Burn My Eyes』(1994年)リリース時のメンバーを迎えて同作からの楽曲を再録音したり、最新ラインナップによる新曲「Do Or Die」を配信リリースしたりと、創作面でも精力的な活動を続けています。

 今回配信されたデジタルシングルに収録された2曲は、2018年に録音された音源がもとになっており、アマド・オーブリー氏やジョージ・フロイド氏が殺害されたアメリカでの黒人差別問題を受けて新たに制作された歌詞が乗せられています。このうちの1曲「Stop The Bleeding」ではKillswitch Engageのジェシー・リーチ(Vo)をフィーチャー。『Catharsis』ではソフィスティケイトされたモダンサウンドで賛否両論を巻き起こしましたが、本シングルではMachine Head本来のアグレッシブさが前面に打ち出された、怒りに満ちたサウンドを堪能することができます。

MACHINE HEAD – Stop The Bleeding feat. Jesse Leach (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

Xibalba『Años En Infierno』

Xibalba『Años En Infierno』

 Xibalba(ジバルバ)は“デスメタル×ハードコア”なヘヴィさが武器の、カリフォルニア出身のブルータルハードコアバンド。バンド名やアルバムタイトルから伝わる非英語圏要素と、スペイン語を用いた歌詞、デスメタルからの影響を強く感じさせながらも基軸はあくまでハードコアというスタイル、ドゥーミーかつパーカッシヴなスローパートからダンサブルな色合いも見え隠れする独創性の強いサウンドは、ブラジルのSepulturaやSoulflyを彷彿とさせるものがあります。

 実に5年ぶりの新作となるこの4thアルバム『Años En Infierno』では、ハードコアバンドらしいスピード感と、スラッジメタルや初期デスメタルにも通ずるスロー&ヘヴィさを自在に操るブルータルなサウンドが際立っており、ラテンアメリカ直系のトライバルなリズムが強化されたことでSepulturaの名盤『Roots』(1996年)にも匹敵するモダンメタル的質感を持つ良作に仕上がっています。「デスメタルなのか、それともハードコアなのか?」というカテゴライズはもはや不要の、モダンさとオールドスクール的側面を併せ持つ2020年らしい1枚と言えるでしょう。

XIBALBA – En la Oscuridad

Bleed from Within『Fracture』

Bleed from Within『Fracture』

 アメリカ出身のバンドが4組続いたので、ここからはイギリス/ヨーロッパに目を向けていきましょう。このBleed from Withinはスコットランド・グラスゴー出身のデスコア/メタルコアバンドで、当初はLamb Of Godのカバーから活動開始したものの、すでに活動歴15年という中堅クラス。適度なメロディアスさとモダンかつテクニカルなバンドアンサブルを武器に、UKメタルシーンの次世代を担う存在として注目を集めています。

 セルフプロデュース作となる通算5作目のアルバムは、初期ほどデスコア色は強くないものの、90年代のPantera、2000年代のLamb Of Godなどにも通ずるグルーヴメタルや、メロディックデスメタル以降のモダンメタルからの影響が色濃く表れたダイナミックな1枚に仕上がっています。先のLamb Of Godの新作同様、従来の“らしさ”を損なうことなくメジャー感を強めた今作は、おそらくこのバンドにとって「新規リスナーへの名刺がわりの1枚」になることでしょう。なお、6曲目「Night Crossing」にはTriviumのマシュー・キイチ・ヒーフィー(Vo/Gt)がゲスト参加。彼らしい叙情的なギターソロを楽しむことができます。

BLEED FROM WITHIN – Night Crossing feat. Matt Heafy (OFFICIAL VIDEO)

Behemoth『A Forest』

Behemoth『A Forest』

 ポーランドのブラックメタル/デスメタル・バンドBehemothが2018年発売のフルアルバム『I Loved You At Your Darkest』に続く最新EP『A Forest』を5月末にリリースしました。本作は全4曲入り/約20分という、いわば次のフルアルバムまでの繋ぎ的な小作品集ですが、その内容は非常に充実したものとなっています。

 タイトルトラック「A Forest」は、かのThe Cureの1980年に発表した楽曲のカバー。原曲が持つダークさ、ゴシック感をより強調させた壮大なメタルカバーには、スウェーデンのスーサイダルメタルバンド・Shiningからニクラス・クヴァルフォルト(Vo)がゲスト参加しており、豪華な“暗黒の宴”が繰り広げられています。同曲はスタジオテイクに加え、ニクラスも参加したライブ音源も収録。同じ曲が2曲続くものの、「スタジオならではの作り込み」と「ライブならではのダイナミズム」を比較できるのも本作の醍醐味かもしれません。このほか、『I Loved You At Your Darkest』制作時のアウトテイク2曲も収められているので、同作の延長として接してみてはどうでしょう。

Behemoth – A Forest feat. Niklas Kvarforth (Official Video)

Oranssi Pazuzu『Mestarin kynsi』

Oranssi Pazuzu『Mestarin kynsi』

 今回最後に紹介するのはフィンランドのサイケデリックブラックメタルバンドOranssi Pazuzu(オランシ・パズズ)の日本デビューアルバム『鉤爪の主(Mestarin Kynsi)』です。彼らは2007年の結成以降、今作含め5枚のアルバムを制作。中でも2016年の4thアルバム『Värähteliiä』がPitchforkを筆頭に欧米主要音楽メディアで絶賛されただけでなく、Metallicaのジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)がSpotifyお気に入りリストに挙げたことで一躍注目を集めることになりました。

 新たにエクストリームメタル界の最大手レーベル<Nuclear Blast Records>と契約し、最初のリリースとなる今作はブラックメタル的アプローチをベースに、スペイシーなサイケデリックサウンドやKing Crimsonにも通ずるアバンギャルドなプログレッシブロック的アレンジが随所に散りばめられた、濃厚で聴きごたえのある1枚に仕上がっています。全6曲で50分というトータルランニングからもわかるように、1曲が7〜10分と非常に長尺ですが、途中で飽きるどころか「次に何が来るかわからない」縦横無尽かつ予測不能なサウンドスケープに夢中になるはずです。ブラックメタルをはじめとするエクストリームメタルのみならず、70年代のプログレッシブロック、Nine Inch NailsやRadiohead、Mogwai以降のポストロック/エクスペリメンタルロックとも共通するスタイルは、メタルという枠にとらわれず広く多くのリスナーに届いてほしい傑作です。

ORANSSI PAZUZU – Uusi teknokratia (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
RealSound_ReleaseCuration@Tomokazu_Nishibiro0705

■西廣智一(にしびろともかず)Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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