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橋本淳が俳優として目指しているもの 『月極オトコトモダチ』を中心に2019年を振り返る

リアルサウンド

19/12/29(日) 16:00

 男女の友情関係は成立するのか? 古くからさまざまな文学や映画で描かれてきたテーマを、“レンタルオトコトモダチ”を通して描いた映画『月極オトコトモダチ』のDVDが現在発売中だ。

参考:徳永えり、橋本淳が自分自身にツッコミ! 『月極オトコトモダチ』異例の“生オーディオコメンタリー”

 アラサー女性編集者の望月那沙、那沙がレンタルした“オトコトモダチ”の柳瀬草太、那沙の同居人のミュージシャン・珠希。3人の揺れ動く心模様を描き出したのは、ファッション業界で会社員として働き、本作が長編初監督作となった穐山茉由。

 那沙を演じた徳永えりが穐山監督の“分身”として思いをぶつけ、BOMIとしてミュージシャンでもある芦那すみれが自由人の珠希を自然体で演じる。そんな2人の芝居をすべて受け止め、タイトルにもなっている“オトコトモダチ”を体現したのが、橋本淳だ。

 2004年のドラマ『WATER BOYS2』(フジテレビ系)でデビュー以降、さまざまな作品で実力を磨き、近年は舞台でも精力的な活動を続け、2019年は菅田将暉主演『カリギュラ』では、ケレア役として鮮烈な輝きを放った。2020年も舞台『泣くロミオと怒るジュリエット』が控えるなど、進境著しい橋本は今なにを思うのか。『月極オトコトモダチ』の振り返りから、俳優としての今後の展望までじっくりと話を訊いた。

●レンタルオトコトモダチは性分に合っている?

ーー『月極オトコトモダチ』は、音楽×映画の祭典「MOOSIC LAB 2018」で長編部門グランプリを含む4部門受賞、第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門正式出品を経て劇場公開されると、口コミで評判が広まりロングラン上映を果たしました。一般公開作とは違う広がり方だったと思うのですが、振り返ってみていかがですか。

橋本淳(以下、橋本):最初にお話をいただいたときは、ペラ3枚の企画書でした。脚本も出来上がっていない段階でしたが、その時点でプロットは面白かったんです。「MOOSIC LAB」の受賞も、東京国際映画祭への参加も、劇場公開も、そしてこうしてパッケージ化までされるなんて、当時は思ってもいませんでした。作品を観てくださった方々が口コミだったり、SNSで拡散してくれたおかげです。じわじわと作品が広がっていくのは初めての経験だったので、改めて本作に参加できたことをうれしく思います。

ーー穐山監督は異色の経歴の方ですが、最初の印象は?

橋本:本作への参加を決めた理由として、元々「MOOSIC LAB」に足を運んでいたことや、プロットが面白かったなどあるのですが、一番の理由は穐山監督が“変な人”だったことでしょうか(笑)。これまでお仕事をさせていただいたどの監督とも違う雰囲気を持っていて、内に秘めた情熱がひしひしと伝わってきたんです。穐山監督には、脚本の完成前に「橋本さんの恋愛観を教えてください」と猛烈な取材をされました。だから僕が演じた柳瀬というキャラクターも、当て書きとしていろんな要素を組み込んでいただきました。巨匠と呼ばれる監督たちとお仕事をするのももちろん楽しいのですが、穐山監督とは本当にゼロから一緒に作っていく感覚を味わわせていただきました。また、穐山監督だけでなく、スタッフの方々も同世代が多かった現場でした。事前にテストをしたものをこなしていくというよりは、常にみんなで現場でも話し合いながら撮影を進めていった感じですね。レールが敷かれていない分、大変ではありましたが、楽しい現場でした。

ーー橋本さんが演じた柳瀬は、レンタルトモダチという契約者が求める人間に一時的になる役柄です。演じるという意味において、役者とも共通点があると言えますが、そのあたりの難しさはありましたか。

橋本:不思議な感覚でした。橋本淳が現場にいる時点で、「役者の橋本淳」となっている。その上で、『月極オトコトモダチ』の柳瀬を演じている。さらに柳瀬は劇中でレンタルオトコトモダチとして那沙をはじめとした利用者の理想を演じているわけです。2重、3重というか、僕自身も自分がどういう状態なのかわからなくなることがありました(笑)。なので、一番大事にしたのは、柳瀬という男の本質をいかに理解して、そこからどうはみ出すかということ。芝居としては、柳瀬として自分がどう演じようかということよりも、那沙を演じる徳永さんの芝居をまず受けることが大事だと考えていました。

ーーミュージシャンでもある柳瀬は、那沙のルームメイトである珠希と意気投合して楽曲提供もします。柳瀬は那沙に見せている顔と、珠希に見せている顔が全然違います。この演じ分けはどのようにされたのでしょうか。

橋本:僕自身もそうなんですが、喋る相手が変われば自ずと口調も変わるし、雰囲気も変わると思うんです。なので、論理立てして2人の前の芝居を変えよう! とは思っていませんでした。また、徳永さんと芦那さんの芝居の感じも真逆なんです。徳永さんは理論立てての芝居。一方、芦那さんは即興的というか、同じ芝居が毎回できないタイプ。現場の雰囲気も全然違うので、そこはすんなりと違いを出せたのかなと思います。

ーー2人が発信する芝居だとして、橋本さんはひたすら受けの芝居です。その合わせ方が抜群にうまいと感じました。

橋本:いやいや。発信するほうが絶対難しいと思います。監督が当て書きしてくれている部分もありますが、僕の性分に柳瀬が合っていたんだと思います。女子会にも参加しておいてよかったです(笑)。

ーーそんな機会が(笑)?

橋本:それが結構あるんです。飲み会に誘われて参加してみたら男は僕だけということがあって(笑)。

ーーそういった部分も柳瀬に反映されているんですね。

橋本:柳瀬が姉の話をするシーンがありますが、実際に僕にも姉がいるんです。女性に囲まれて育ったのせいもあるせいか、相手の反応を気にするというか、話を聞く側に回ることも多いですね。それがうまく生きたのかもしれません。

●0から1を生み出すことの尊さ

ーー『月極オトコトモダチ』は、男女の恋愛と友情という永遠のテーマを描くと同時に、アーティストが何かを生み出すことの尊さも描かれていました。

橋本:役者は0から1を作り出す仕事というよりは、1を10にする仕事だと思っています。だから、“生む苦しさ”みたいなものを根本の部分では分かっていないと思います。ミュージシャンや監督・脚本家、自ら物語を作り出せる方々は本当に尊敬します。文章を書く、音楽を生む、常に自己表現なわけですから。しかも今はそうやって生み出されたものにすぐに批判も飛んでくる。まるで自分自身を否定された気持ちになってしまいますよね。そんな中でものを作り続ける方たちは本当にすごい。あまり評価されていない作品でも、0から何かを生み出した人には尊敬しかありません。

ーー作品の中で柳瀬はプライベートとしての自分と、レンタルオトコトモダチとしての自分の境界線がどんどんおぼろげになっていきます。橋本さんも普段の自分と役者としての自分をどのように切り分けているのでしょうか。

橋本:“普段の自分”と言っても、家族の前でも演じているとも言えるし、友達ごとに相手に合う自分になっているような感じはあります。自分がわからないからこそ、芝居を通じて探しているような感覚なのかもしれません。役者によっては、「スイッチがある」方もいると思うのですが、僕自身はまったくないんです。日常生活の延長に役がないと嘘だなと思ってしまうので。でも、「役が自分自身に残ってしまって辛い」みたいな格好いいことが言えるわけでもありません。クランクアップすれば、スッと普段の自分には戻るので。

 例えば舞台のお芝居だと、同じことを毎日やらないといけないのですが、同じ中にもその日の自分のコンディションを反映させたいと思うんです。朝起きて身体が軽いな、と思えばそれを演じる役に乗せたい。調子がいい自分を否定して、「いつもどおりやらないといけない」と頑なになるのは何か違う気がして。「いつもどおり」やろうと思っている瞬間にどっかで嘘が生じているわけです。だから日々の変化も受け入れてこそ、“同じ芝居”ができるのかなと考えています。あとはお芝居は基本的に一人ではできない仕事なので、一緒にお芝居をする方、現場を作ってくださるスタッフの方々の思いを受けて、自分がどう反応できるかということなんだと思います。一人だけでも人が変われば現場の空気は変わるので。毎回変化があるからこそ楽しい仕事だと思いますし、絶対に奢ってはいけない仕事だなと思っています。

ーー舞台の芝居、映画、ドラマの芝居の違いは?

橋本:映画が一番瞬発力を必要とされて、舞台は持久力、ドラマはその間のイメージです。根本的には同じで、目の前の相手とどう作り上げていくかということだと思います。最近、キャラクターの“わかりやすさ”が求められる作品が多いのですが、キャラクターは関係性の中で初めて生まれるものだと思いますし、それによってドラマが生まれると思っています。だからその部分がしっかりしている作品に出演できることが幸せだなと思います。

●2020年は博打の年

ーー2019年は、映画『まく子』、ドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK総合)、舞台『キネマと恋人』『カリギュラ』など、さまざまな役柄に挑戦していた印象です。今後演じたい役柄などはありますか。

橋本:一昔前は、「殺人犯がやりたい!」「医者がやりたい!」という思いはありましたけど、今は全然ないですね。客観的に僕を観てくださった方が、こんな役をやらせたい、こんな役があっていると言っていただけることが何より楽しいので。どんな役者になりたいかと問われれば、「この人が出ている作品なら面白いだろう」と思ってもらえる役者ですね。それがどういう役者なのかはわかりませんが、今は一本一本大事にしていきたいなと。

ーー10代~20代の頃は学生の役などが多かったと思うのですが、30代前半というちょうど役柄も変化する時期かと思います。

橋本:そうですね。どちからというと童顔なので、誰かの弟役とかが多かったのですが、最近は「嫌な役」が増えてきました。舞台ではヒール役も多かったのですが、映像作品でも『これは経費で落ちません!』の専務役だったり、殺人犯だったり、悪役寄りな役が増えてきたのはうれしいです。

ーー今は役者も監督やプロデューサーも兼務することが増えてきましたが、橋本さんも願望は?

橋本:今は監督をやりたい、という思いはないのですが、0から作り出すところにもっと携わってみたいという思いはあります。舞台の場合は、準備期間が長いこともあり、脚本をはじめ、照明や音響に関してもスタッフさんとキャストが話し合える場があるんです。でも、映画やドラマの場合はそれぞれの部署が用意して、キャストは後から合流する形がほとんどです。創作段階から携わっているわけではないので、役者の中にはどうしても作品への愛情が薄い方もいるんです。予算やスケジュールの問題が一番大きいことは理解しているのですが、可能であれば映画やドラマも、製作の最初の段階から役者も参加できたらいいなと感じます。

ーー最後に、2020年に向けて一言いただけますか。

橋本:33歳になる歳で、まだあまり変わらないなという思いがあります。ただ、35歳になったときに変わりたいと思っているので、ホップステップジャンプの「ステップ」の年になるのかなと。2019年は新しい分野に挑戦できた年だったので、そこで得たものをどう応用していいくかを考えています。自分の中で博打をかけている年でもあるので、その中でどう楽しんでいけるかですね。今後も頑張ります!

(取材・文=石井達也/写真=池村隆司)

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