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若手がいない? 森下佳子、宮藤官九郎らベテラン勢の活躍の裏にあるドラマ界の脚本家事情

リアルサウンド

21/3/21(日) 10:00

 先日、最終回を迎えた『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレビ朝日系、以下『書けないッ!?』)は、連続ドラマの脚本家に抜擢された売れない脚本家・吉丸圭佑(生田斗真)の物語だ。

 初めての連ドラ執筆は波乱の連続で、急遽決定したため数日でドラマのアイデアを出すことを要請され、プロデューサーに何度もダメ出しされる。同時に主演俳優も無茶な要求をしてくるため、脚本は二転三転。現場の注文に翻弄される吉丸は、厳しいスケジュールの中でなんとか第1話を書き上げるが、第2話を書く予定だったシナリオコンクールで最優秀賞を受賞した大学生の若手・如月翔(小越勇輝)が、脚本家を降りてしまったことで、吉丸は全話の執筆を急遽担当することになってしまう。

 本作の脚本は『HERO』(フジテレビ系)等で知られる福田靖。脚本家&テレビドラマのあるあるネタが散りばめられたコメディだが、リアルに感じるのはドラマ制作の都合で何度も書き直しを命じられる吉丸の姿と、書き直しの要求に応じず、あっさりと降りてしまう若手脚本家という対比が序盤ではっきりと示されたからだろう。

2021年冬クールドラマに集結した、ベテラン脚本家たち

 森下佳子(TBS系『天国と地獄 ~サイコな2人~』)、宮藤官九郎(TBS系『俺の家の話』)、北川悦吏子(日本テレビ系『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』)、岡田惠和(テレビ朝日系『にじいろカルテ』)、橋部敦子(テレビ朝日系『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』、フジテレビ系『知ってるワイフ』)、福田靖といった実力のある脚本家が勢揃いした2021年冬クールドラマだが、気になるのは脚本家の年齢が高齢化しており、新人の影が薄いことだ。

 もちろん、ベテランにはベテランの魅力がある。宮藤官九郎の『俺の家の話』のような介護をテーマにした作品が作られる状況は、テレビドラマの豊かさの現れであり、宮藤たち作り手と共に年を重ねてきたからこそ味わえる喜びを筆者も毎週、堪能している。だが一方で、果たしてこれを10代~20代の視聴者が観たいと思えるのだろうか? とも考えてしまう。

 80年代後半のトレンディドラマブーム以降、ドラマは若い視聴者を獲得していったのだが、その勢いを支えしていたのが、1987年からスタートしたフジテレビのヤングシナリオ大賞だ。自称35歳以下を公募の条件としたこの賞は、小手先のテクニックよりも若者だからこそ書ける瑞々しい台詞や、時代にマッチした新しい感性が求められた。

 第1回受賞者は当時19歳だった坂元裕二。翌1988年の受賞者は当時25歳だった野島伸司で、野島は受賞してすぐに月9の恋愛ドラマ『君が嘘をついた』(フジテレビ系)に抜擢される。デビュー仕立ての新人が、民放プライムタイムのドラマを全話執筆するということ自体、今となっては夢物語のようだが、経験がなくても可能性があると思えば抜擢し、若いプロデューサーと二人三脚で作っていく体制があったからこそ、新人脚本家が育つ環境がテレビドラマにはあった。

 もちろんそこには厳しい競争原理も働いている。『書けないッ!?』のように脚本は何度も直され、ダメだと判断されれば、後に控える脚本家と交代。身も蓋もない言い方をするのなら、若手脚本家だからこそ、プロデューサーも容赦なく(脚本に)ダメ出しができる。

 チャンスは与えるが消耗が激しいという意味では、新人を積極的に起用するが人気がなければ10週で打ち切りになる少年ジャンプの世界と似ている。だからこそ90年代の月9ドラマは圧倒的な支持を若者から獲得したのだろう。

 こだわりの強い若手作家には耐えられない世界だが、そこで切磋琢磨した経験は貴重な財産となる。坂元裕二は今も現役の脚本家として映画『花束みたいな恋をした』を大ヒットさせているし、野島伸司もドラマ執筆こそ停滞しているが、脚本を担当したアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』が再評価されており、まだまだ書けることを証明した。

ドラマシーン全体に停滞感?

 むしろ問題は、80~90年代に力を付けたベテラン脚本家の存在が大きすぎて、下の世代が世に出られないことかもしれない。失敗するリスクの大きい不安定な若手と、安定した作品をコンスタントに作るベテランなら、大抵の人間は後者に仕事を任せる。

 それが積み重なることで若手が打席に立つ機会がどんどん減っていき、活躍する機会が失われていく。これはドラマに限らず、高齢化社会となった日本の至るところで起きていることだ。だが、それでもテレビドラマの世界には、若いプロデューサーが何人かいて、若手脚本家が書くドラマを作ろうと奮闘している。

 たとえば、3月6日にNHKで放送された震災10年特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』は34歳のプロデューサー・北野拓と、33歳の三浦直之(劇団ロロ主宰)の脚本で作られたドラマだ。本作は他の震災を題材にしたドラマとは違う、若い感性が発揮された作品となっていた。

 『書けないッ!?』の最終話でも、ベテラン脚本家がそつなくまとめた台本ではなく、リスクはあるが新人の吉丸の脚本に賭けようとする作り手たちの姿が描かれた。おそらく、同じ危機感を作り手も抱えているのだろう。三浦たちのような若い作り手が連ドラを作る状況になれば、ドラマをめぐる状況も大きく変わるだろうと期待している。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS

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