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津野米咲が遺した数々の楽曲と意志 赤い公園『THE PARK』、SMAPやモー娘。への提供曲、客演など振り返る

リアルサウンド

20/10/20(火) 14:00

 赤い公園の津野米咲さんが10月18日に亡くなった。今月2日に29歳になったばかり。あまりにも早すぎる。

 筆者が彼女と最後に喋ったのは昨年11月に東京・EX THEATER ROPPONGIで開催された『FUYU TOUR 2019 “Yo-Ho”』終演後の挨拶。その日披露された数多くの新曲に、「ポップでありながらも、どこか変態性を帯びた津野さんの記名性が光る楽曲」と自分なりの最大の賛辞を贈った。赤い公園の音楽性を知らない人が横で聞いていたら、きっと訝しげな目で見られていたことだろう。それでも両手を頬に当て、朗らかな表情を浮かべて喜んでくれた津野さんの笑顔を今でも鮮明に思い出す。

 津野さんは赤い公園のギタリストで楽曲のソングライティングとプロデュースを手がけるバンドの中心メンバー。様々なアーティストへの楽曲提供でも知られる人物だった。彼女のクリエイターとしての特徴は突き抜けたポップスとソリッドなアンダーグラウンドの両極を手がけられることにある。そのポップスの代表作にあるのが、2013年にSMAPに提供した「Joy!!」。グループにとって50枚目の記念すべきシングルであり、津野さんはこの時21歳で「Joy!!」を作り上げている。SMAPのコンサートには欠かせない、会場が一体となるライブチューンだ。思わず踊りだしたくなるディスコサウンドは、後にモーニング娘。’16に提供した「泡沫サタデーナイト!」にも通ずるものがある。ジャニーズだけでなく、ハロー!プロジェクトにも精通していた津野さんは、「『LOVEマシーン』の再来」と言われたハロプロ好きも唸る「泡沫サタデーナイト!」を作詞作曲し、その後も℃-ute、Buono!、こぶしファクトリー、つばきファクトリー、鈴木愛理とハロプロ関連アーティストへの楽曲提供は続いていった。

モーニング娘。’16『泡沫サタデーナイト!』(Morning Musume。’16[Ephemeral Saturday Night]) (Promotion Edit)

 同世代のバンドだけでなく、aikoやYUKIといった女性シンガーからも一目置かれていた津野さん。2018年リリースのYUKIのシングル『トロイメライ』に収録された「かたまり」は、YUKIが自ら津野さんにコンタクトして完成した楽曲だ。津野さんが担当したのは作曲、編曲とギター演奏。エレピのカラフルで胸が弾むイントロに、流麗なストリングス、サビのコーラスとYUKIの作風を踏襲しながらも、ところどころでインサートされるつん裂くようなギターリフは決して楽曲を殺すことなく彼女の存在証明を鳴らしている。

「かたまり」

 ギタリストとしてはほかにも、Creepy Nuts × 菅田将暉「日曜日よりの使者」にVIVA LA J-ROCK ANTHEMSの一人として参加。中でも特筆したいのは2013年にギターとコーラスで参加した長澤知之の「そのキスひとつで」。赤い公園のサウンドカラーの一つでもあるシューゲイザーが前面に出た客演だ。さらに付け加えれば、今年1月に配信リリースされたクリープハイプの「愛す(津野米咲 Remix)」は彼女がリミックスしたエレクトロポップ。タイム感が強く出たビートに、後半にかけて色濃くなっていくノイズは彼女の変態性が垣間見える部分である。

「日曜日よりの使者」
長澤知之 / そのキスひとつで
Busu (Maisa Tsuno Remix)

 赤い公園は、それらのポップスも、オルタナティブな要素も全てひっくるめた奇跡のバランス感覚を持ったバンドだ。ミュージシャンにとって一番の自信作は、新曲または最新アルバムだと聞く。今年4月にリリースされたアルバム『THE PARK』は、ジャンルもサウンドもバラバラながら不思議と一本の芯が通った作品。『THE PARK』を初めて聴いた時、展開の予測できない11曲にワクワクが止まらなかった。

 赤い公園の代表曲「NOW ON AIR」にも匹敵するほどのポップネスを帯びた「紺に花」、その対極にあるのがイントロから鋭利な爆音で疾走するジャスト3分間の「yumeutsutsu」。ヒップホップを取り入れた「chiffon girl feat. Pecori (ODD Foot Works)」に、ジャジーなムードを纏う「Unite」。「絶対零度」はシングル表題曲でありながら、3拍子、4拍子、5拍子を行き来する複雑なリズム構成が光る、ポップとオルタナが同居した特異な楽曲である。石野理子(Vo)、藤本ひかり(Ba)、歌川菜穂(Dr)との成熟したバンドとしてのグルーヴとともに、『THE PARK』には津野さんの優れたソングライティングの才を感じさせるパートが随所に存在する。

「赤い公園にとって2度目の“1stアルバム”とも言える『THE PARK』は、10年後、20年後にも金字塔として語り継がれる最高傑作だ。豊潤なイマジネーション、沸き起こる衝動。赤い公園はいつだって想像の遥か先を走っている。」

 当時、『THE PARK』のレビューをそう書き始めたが、今でもその思いは変わることはない。その後開催予定だった『赤い公園 「SHOKA TOUR 2020 “THE PARK”」』は全14公演が中止に。ツアーの0日目として赤い公園のホーム・立川BABELから行った配信ライブ『SHOKA TOUR 2020 “THE PARK” ~0日目~』が津野さんにとって最期のステージとなってしまった。MCなしの約1時間、全16曲。リズミカルなカッティングギターに、時折、石野や藤本にいたずらに近寄ってみては、飛び跳ねながら満面の笑みでギターを弾く。その姿がもう見られないと思うと、心の底から残念でならない。

赤い公園『THE PARK』

 資料として『THE PARK』の音源と一緒に添付された津野さん直筆のライナーノーツ。そこには11の収録曲に込めた思いがカラフルなイラストともに綴られている。そこにあるのは、“絶景”に向け新たなスタートを切る順風満帆なバンドの今とメンバー一人ひとりに対する深い愛情、絆。津野さんの見据えるこれからをずっと見ていきたかった。

 けれど、少しばかりの希望もある。配信ライブで初披露された「オレンジ」は、11月25日に表題曲としてシングルリリースが予定されている。シングルに収録される「pray」と「衛星」のほかにも、ライブではすでにお馴染みの「Beautiful」や「未来」、「石」、「おそろい」、「輝き」と正式音源化されていない津野さんが残していった楽曲が多く存在しているのだ。この先はあえて言葉にはしない。私たちにできることは、津野さんの残していった楽曲を、意志を、ここで消さないことだ。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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