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10-FEET、“心のダイブ”で駆け抜けた50分のロックショー

リアルサウンド

21/3/12(金) 21:00

 新しいライブ様式とは何だろうか。その答えはまだ誰にもわからない。だからこそ、イチから積み上げていく楽しさ、面白さ、興奮があるのではないか。

 ライブでダイブ・モッシュするのは当たり前? サークルピットに入って暴れ回ることが至福の喜び? コロナ禍において、バンドと観客の関係性を根底から見つめ直すことは決して悪いことではない。そんな気持ちを胸に、立ち止まるよりも「あなたに会う」ために10-FEETは前に進むことを決意した。

 バンドは昨年10月14日にリリースしたシングル『シエラのように』に伴う全国ツアー『10-FEET “シエラのように” TOUR 2020-2021』の終盤を迎えている。ただし、本ツアーは1日2部制となっており、ここではZepp Tokyo公演2部の模様をお伝えしたい。

 開演時刻にSEが流れると、「よっしゃ行くぞ!」とTAKUMA(Vo/Gt)が号令をかけ、NAOKI(Ba/Vo)、KOUICHI(Dr/Cho)と共にメンバー3人の演奏がスタート。耳馴染みのある「RIVER」のギターが刻まれるものの、ベースとドラムのフレーズはまるで違う。すかさず「ちょっと待って!」とTAKUMAが止めに入ると、「すごくおかしい。近代アートやん!」と自らツッコミを入れる。どうやらNAOKIは「2%」を弾き、KOUICHIは「super stomper」を叩いていたらしく、場内は1曲目から笑いに包まれた。ド頭にこういう“おふざけ”を入れるのはかなり珍しいことだ。そこには、入り口で観る者の心を解きほぐしたいという、10-FEETなりの策略があったのだろう。

 「顔でモッシュしろ!」というTAKUMAの言葉を合図に、ようやく本当の1曲目「STONE COLD BREAK」が始まると、早くも会場は好反応。間髪入れずに「あなたは今どこで誰ですか?」で駆け抜ける。温かな歌メロとテンポ速く進む曲調で心地よく加速すると、極彩色のミクスチャーを突きつける「ハローフィクサー」に繋ぐ。この曲も聴くたびにドシッとした安定感が備わり、ライブで欠かせない1曲へと成長を遂げている。NAOKIのベースがブンブンうねりを上げる「彗星」においては、〈あとどれだけ傷つき合ったら/変わり合えたかな〉と胸を突く歌詞にもハッとさせられた。

 「ちょっと古い曲やります。みんな飛べる曲!」と前置きして「Freedom」をプレイ。ラップ、レゲエと自在に乗りこなすTAKUMAの歌唱も際立ち、フロアを見渡すと小さな子供から10-FEETと同世代の大人まで、嬉々とした表情でジャンプしていた。

 そして、中盤に差し掛かり、「シエラのように」「ヒトリセカイ」の流れにはグッと惹きつけられた。まず、「シエラのように」にはイントロから心を掴まれ、歌詞の一語一語が耳の奥に響き、サビの高揚感は名曲然とした輝きを放っている。「寂しかったよー!」とTAKUMAは曲中に言葉を発し、曲の後半では客席からも自然とハンドクラップが沸き起こるほど。

 「会いたかったぞ、おい! 自分の悔しさ、悲しさを誰かにぶつけんと、笑いや熱さや感動に変えて……あんまり悪口は言わん方がええぞ!」と場内に語りかけた後に、「ヒトリセカイ」へ。2階席後方まで力強く拳を突き上げる人で溢れ、四隅まで10-FEETの音楽が届いていることを実感した。そう、観る者・聴く者の心根に寄り添いたいというエモーションの発露が大スパークしていたのだ。たとえダイブやモッシュができなくても、送り手と受け手が深いところで共振し合えることをこの2曲で証明していた。

 ライブ定番曲「その向こうへ」に入ると、いつもならば歓声が沸くけれど、会場はしんと静まり返っている。けれど、いつもの歓声が脳内で勝手に再生され、会場が一体化している空気を肌で感じた。それから「蜃気楼」を挟み、「あと2分!」とカウントダウンの言葉を口にして、最終曲「SHOES」を演奏し始めると、フロアの盛り上がりに「踊りが足らんな!」とTAKUMAから愛のあるダメ出し。仕切り直すと、フィジカルに訴えるリズムも相まって、その場に留まりながらスカダンスに興じる観客の姿が増え、会場は最高潮の盛り上がりを記録して終了。

 全10曲トータル50分で駆け抜けたコンパクトなショーだったけれど、ライブの組み立てや魅せ方、流れなど10-FEETらしさ120%のパフォーマンスを完遂。通常のツアーと何ら見劣りするものはなかった。

 「友達、親戚の前でやるようなライブができて、めっちゃ嬉しかった! 僕らなりの新しい歴史の1ページ……悪いもんじゃない、ええ感じのライブ。バンド結成初期を思い出した」とTAKUMAは告げ、ステージを去って行った。振り返れば、筆者が彼らのライブを初めて観たのは3rdシングル『RIVER』リリース前、2002年2月16日の下北沢CLUB251だった。お客さんはまばらだったものの、そこでも10-FEETは目の前の観客を笑わせ、観る者の心を解放させるショーを魅せてくれ、僕は一気にファンになった。

 10-FEET自身もライブを始めた頃の原風景に立ち返り、余分なものを振り落とし、純粋に音楽をプレイできる喜びを再確認しているのではないか。その空気感が観客にもストレートに伝わり、送り手と受け手がこれ以上なく強い絆で結ばれた空間へと繋がったのだろう。物理的な時間を超えて、感情の濃度で直球勝負した10-FEETのアプローチに感服した。

■荒金良介
99年からフリーの音楽ライターとして執筆開始。メタル/ラウド/パンク/ミクスチャーなど激しめの音楽を中心に、雑誌/WEBを軸に書いてます。今年、自分が音楽を聴くきっかけになった漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦先生に六本木で偶然すれ違い、心臓が飛び出るほどビックリしました。その昔、荒木先生が少年『ジャンプ』の作者一言コメント欄で、レッド・ツェッペリンをお薦めしてて、それをきっかけに今では音楽ライターをやっています。人生はわからないものです。

10-FEET 公式HP

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