Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

SUPER BEAVERに聞く、紆余曲折の15年で見出した“音楽の伝え方”「一個人を見てないとメッセージは届かない」

リアルサウンド

20/7/10(金) 12:00

 結成15年を迎えた直後の今年4月8日、メジャーレーベルとの「再契約」を発表したSUPER BEAVER。ご存知ない方のために説明すると、「再契約」というのは以前にも一度メジャーで活動していたことがあったからだ。結成からわりと早い段階でメジャーデビューをした彼らだったが、その時は思うような活動ができず、わずか2年で所属していたレーベルからも事務所からも離れざるを得なくなった。

参考:Base Ball Bear 小出祐介が考える、コロナ以降の音楽シーンの変化 仮想ライブ企画で感じた“表現の可能性”

 だが、それこそがSUPER BEAVERの物語の始まりだった。メンバー4人で自主レーベルを立ち上げ、いろいろな人の手助けを得ながら、自分たちのやり方で道を切り開いてきたこの10年あまりで、彼らは確固たる哲学と自信を手に入れてきた。その結果が目に見える形で表れたのが、2018年の日本武道館公演であり、2019年末のアリーナワンマンだった。

 一度は「メジャー落ち」したバンドによる、地道でタフな復活のストーリー。いや、彼らが成し遂げてきたものは、それ以上の何かだった。彼らは誠実に音楽と向き合い、それを受け取るひとりひとりと向き合うことが何よりも大事なのだという、当たり前だが見過ごされがちな真理を、自分たちの軌跡で証明してみせたのである。

 最近ではこれまで一部を除き行ってこなかったサブスクリプションサービスでの楽曲配信を全面解禁したり、配信ライブを試みたり、今も新たな挑戦を続ける彼らの変わらぬ信念とは何か。最新シングル『ハイライト/ひとりで生きていたならば』も含め、今のSUPER BEAVERを支えるバックボーンについてメンバー4人に聞いた。(小川智宏)

■メジャー再契約の背景

――再びメジャーレーベルで新たな挑戦をすることを決めたわけですけど、どういう流れのなかで決断したんですか?

渋谷龍太(Vo):特別なきっかけがあったわけではないんですけど、じつは3年ぐらい前から声は掛けていただいていたんです。自分たちも、メジャーに対して「二度とあんな場所にやるもんか」って思いながらやっていたわけではなかったし――もちろん、メジャー離れてから何年間かは反骨心みたいなものもありましたけど、それがずっと自分たちの原動力だったわけではないので。だからそのメジャーというものに対してフラットにいられたし、その中で声を掛けていただいて。ただ、二度目に行くというのはどういうことかっていうのはわかってるつもりでいたので、果たしてどんな気持ちで声を掛けて下さっているのかは知りたかったんですよね。それで長い時間かけて話をして、最終的に「組めたら面白いことができそうだな」って思うに至った。その歳月だったり熱意であったりに自分たちの心が動いたのかなと思ってます。

――最初にメジャーデビューして、渋谷さんはよく「落っこちた」という表現をしますけど、結果的にうまくいかなかった。それは何が原因だったと思っています?

渋谷:それはもう、ほとんど全部じゃないですかね。いろんな面に対して大人じゃなかったと思うし、何も知らな過ぎたっていう。あとは、なんで自分たちが音楽をやっているのか、音楽の本質的な魅力みたいなものに、ちゃんと気づけていなかったのかなとも思いますね。音楽を好きでいる気持ちとか音楽をやりたいっていう気持ちが足りなかったとは僕は思わないですけど、じゃあなんで真剣に腹括って音楽やるのかっていう理由はやっぱり少しふわっとしてたのかなっていうのは思いますね。

柳沢亮太(Gt・Cho):最初にメジャーに行った時って、たとえば楽曲ひとつにしても曲や歌詞を担当のディレクターやスタッフと何度かやり取りをして作っていくわけですよね。そこで「ここはこういうふうにアレンジし直さないか」とか「歌詞もちょっと修正しないか」っていうような会話が……どこでもあると思うんですけど、そこのやり取りがあまり建設的ではなかったっていうのが印象としてあって。でも4人でやるようになってからは、作ってから出して、どう届くかっていうところまですべてメンバーの責任でやるんだって思うようになって。そこに責任を持つようになって、その延長線上に今があると思うんです。

――大人対大人っていうと言葉がおかしいかもしれないけど、お互いに責任をもって対等に向き合ってものを作れているっていう。

渋谷:一緒に仕事ができそうだな、と思ったのはありますね。

藤原”32才”広明(Dr・Cho):うん。しかも絶対にもっと楽しくなるって思えたので。昔はレコーディング現場とかでも考えなくていいことを考えていたり、余計なことに気を遣って、自分たちのやりたいことというより、それこそ「大人」が納得するようなものを作っちゃってたりしたと思うんです。でも今はもっとシンプルに、自分たちがいいと思えるもの、もっとわくわくしてもらえるような曲、ライブ、活動をやっていけばいいし、それを応援してくれる仲間が増えたなというイメージですね。だからやり方は変わってないですし、インディーでやってきて、自分たちのスタンダードができているという感じはします。

上杉研太(Ba・Cho):ずっとインディーで武道館やってアリーナやって、そうやってきた自分たちの軸のまま、このボールをもっと遠くに投げるにはっていうところを考えた時の一手が今回の再契約だったという。だから単純に「でっかいエンジン積んだ」感じなんですよね。同じ直線上にある、一番健全な歩み方なのかなと思います。

――それは今回のシングル『ハイライト/ひとりで生きていたならば』を聴いてもすごく感じます。ここまでの話を証明するような、今まで以上のストレートだなあと。

柳沢:まあ、順番的には「ハイライト」はメジャーで出すシングルのために書いたというわけではなくて。もともと2019年はリリースをしないっていうことをメンバーで決めていたんです。そのぶん、始めてのこととして同じ街でライブハウスとホール両方をやるっていうツアーを回っていたんですけど、リリースがないぶん実は結構ツアーの以外の時間はあって、曲をちょこちょこ作ってはいたんですね。「ハイライト」はその中でもわりと序盤、去年の今ごろの時期にはできていたんです。

――そうなんですね。

柳沢:去年は15年目のインディーズバンドとして、15年経ちながらもまだ新しいことができているという喜びを噛み締めながらツアーを回っていたと思うんですけど、その中で「この先もずっとこういう、人生においてのハイライトとなるような出来事を絶やさずにひとつでも多く作っていきたいな」って気持ちでできたのが「ハイライト」で。それ以降に今回のメジャー再契約の話が一気に具体的になっていったんですけど、その1枚目をどうしようかという時に、この「ハイライト」という楽曲は今SUPER BEAVERというバンドを表わすのにふさわしいんじゃないかって、わりと満場一致で入れることに決めたんです。それと同じタイミングで映画の主題歌のお話をいただいて作ったのが「ひとりで生きていたならば」で。できたのは去年の秋口ぐらいでしたけど、その、映画の主題歌として書き下ろした曲と「ハイライト」、多面的なSUPER BEAVERを最初の軸として提示したいよねってところで、両A面シングルという形にしたという。

■SUPER BEAVERが訴え続ける“今を生きるんだ”というメッセージ

――「まわる、まわる」のリメイクを入れたのはどうしてですか?

柳沢:「まわる、まわる」はライブのセットリストに入れようっていうところからですね。去年の年末、神戸ワールド記念ホール2デイズと代々木第一体育館というアリーナ3本でどんな曲をやろうかっていう話をした時に、今ここで「まわる、まわる」をやりたいよねっていう話題がメンバーの中で上がって。そこからシングルに入れようっていう流れになっていきました。

――久しぶりにこの曲をレコーディングしてみて、どう感じました?

渋谷:すごく感慨深かったですね。メジャー最後の盤、『SUPER BEAVER』っていう名前を冠した盤に入っている曲を、もう一度メジャーに帰ってきた一発目のシングルに入れるっていうのはすごくドラマチックだなって思いました。やっぱりあの曲は当時、すごく自分たちの支えになった曲のひとつだし。当時歌っていた数年先の僕に今自分たちがなれてるっていう実感と、その時系列みたいなものがあの曲には明確に表れているので。自分たちが選んできたストーリーや道のりを真正面から見つめ直すことができる楽曲だなって思います。だから、同じ曲なんですけど感覚的には全然違うっていうか。

上杉:特にアレンジを変えたりはしていないですけど、今のみんなが思うストレートなサウンドであったりアンサンブルであったり、「今」をパッケージするっていうところに意識は行っていたかもしれないですね。同じ楽曲だけど、30代になった今の4人がやるという空気感までレコーディングしたかったというか。なんかそういう気持ちで録りましたね。そこにこの曲をレコーディングする意味があるなと思っていたので。

――まさにそうで、ちゃんと今のメッセージとして聞こえるというか、逆にいえばSUPER BEAVERはずっとひとつのことを歌い続けてきたんだなって思います。

上杉:それを確かめられるきっかけになったと思いますね。だから知らない人が聞いたら新曲だって思うかもしれないぐらいの曲が、実は相当昔に歌ってたものなんだっていう。そこにこのバンドの面白みと意味がある気がしています。

柳沢:それが自分たちでも自信になったところはあって。「やっぱり俺たち、こういう歌歌い続けてるよね」っていう。シンプルに10年前の曲でそう思えるって結構すごくないですか? あの当時からひとりでも多くに届いてってほしいと思ってましたけど、今届ける方がより多くの人に届くのかもしれないと思うし。それは曲に対して純粋に「おまえ、よかったな」って感じもするし。

――実際、SUPER BEAVERはずっとひとつのことを訴え続けてきたと思っているんです。あえて言葉にすれば「今を生きるんだ」ということ。そのテーマというのはいつから生まれてきたものなんだと思います?

渋谷 やっぱり自分たちでいろいろ始めてからじゃないですかね?

柳沢:でも「今を大事にしよう」っていうより「今やれることをやる」しかなかったみたいな部分はありましたけどね(笑)。たとえば、いろいろな人にできたCDを送ろうと思っても、自分らで梱包してゆうパックかなんかで切手貼って送ったりとかしてたんです。「100個送るってマジかよ」とか思いながら、でもやらない限り終わらないじゃないですか。そして送らない限り届かない、届かない限り知ってもらえない。つまり巻き戻していくとここをやるしかない。「マジか、明日朝からバイトなんだけどな」とか思いながら夜中までやってる感じというか。だけど本当に目の前にあるものをすっ飛ばしたら何もできないんだなっていうのを4人になってものすごく実感させてもらった気がしていて。4人が動かない限り何も動きませんっていう。そうやって片っ端からやってきた感覚は、今に繋がってるのかなって気がしてる。

――目の前のことをやり続けるしかないという。それって、それこそ渋谷さんがよく言う「あなたたちじゃなくあなたに歌っているんだ」っていうことにも通じる気がしますね。

渋谷:うん。全部、根本的には「人対人」の部分に気づけたってことがでかいと思うんですけど、人に対して何かを伝えたいと思う時に――メジャーにいた時もそうですし、あとはまあ校長先生の話とか(笑)、なんで届かないんだろうって思うと、一個人を見てないとメッセージって届かないんだなって気が付いた。なので普段の生活から、誰かに何かを伝えようと思った時には、その人のことだけ考えて伝えるっていうところにどんどんシフトしていったんですよね。それによって、自分たちが何かをやろうという時に誰が何をしてくれたのかもよく分かるようになったし。

■届けたいのであれば技術を磨くことはすごく大事

――目の前にいる人の大切さをちゃんと感じることができるようになっていった。

渋谷:そうですね。自分たちが続けてこれたのも、その時に自分たちのそばにいたり、自分たちを応援したりしてくれた人たちの気持ちがあったからだし、それは会場の大きさとかとは比例はしないと思うので。その時にもらった気持ちっていうのはやっぱりかけがえのないものだったし、そういう気持ちを絶対なくしたくないって思ったし、守りたいと思ったし。それは一番大きな原動力だった気がします。

――とはいえ、それこそ大きな会場でライブをやるというところで「より広げる」「届けていく」ということに対して意識的に変えていった部分もありました?

渋谷:いや、あの……技術は大事だなって思いますね。

柳沢:はははは。

渋谷:あくまでも芯にあるものがしっかりしていないと、どれだけ武器を強くしたところで大したことはないとは思ってるんですよ、正直。でも、気持ちがめちゃくちゃでかくて、これを伝えたいっていうことが明確に思ってても、いまひとつの人と上手な人だったらたぶん上手な人のほうが届くから。だからどうしても届けたいって思うのであれば、技術を磨くっていうことってすごく大事なことだなって思ってるんです。そこに対する意識はかなり変わりました。

――歌は明らかに変わったと思うんですよ。でもそれは歌だけというより、楽器隊も含めての変化なのかなという気もしていて。音源を追っていくと、ある時期からグルーヴが変わったなと思うんです。

柳沢:ほう。いつですか?

――『27』のあと? 『歓声前夜』の前後ぐらいですかね。

柳沢:『真ん中のこと』ぐらいですよね。あの時は「リズムを重視したものを作ってくれ」っていうぶーやん(渋谷)から明確なオーダーがあったんですよね。だからそこにフォーカスを当てて作っていったというのがあって。それ以降、『歓声前夜』あたりからはそういう引き出しが増えた状態でレコーディングにも挑んでいったので。変わっていったと感じるのはそういうところなのかなという気はしますけど。

藤原:そのちょっと前ぐらいから、アルバイトを辞めることができたんですよ。それでみんな、自分たちの楽器にすごく向き合う時間が増えたと思うし、ライブ100本毎年やるっていうのもずっと続いていて、空いた時間に練習するっていうのも日常化していたし、技術的にも今まで知らなかったこととかもすごくやるようになって。そこで(ドラムとヴォーカルの)前後の関係だったり、横のサオとの関係っていうのがちゃんと頭の中で分かるようになったっていうのはあります。ぶーやんもバイト辞めてフロントマンとして考える時間が増えただろうし。

柳沢:でも、演奏の真ん中にはずっとヴォーカルがいたんですよね。歌に対して楽器を当てていくみたいなところはこの10年変わっていなくて。でも、とはいえ、歌がリズムに引っ張られる部分ができてきたりとか、そういうところは確かに今ヒロが言っていたような理由もあるかもしれない。技術的な意味でお互い気づきやすくなっていったみたいな。

■シンガロング=自分がそこにいるというアイデンティティ

――あと歌でいうと、もはやSUPER BEAVERの代名詞といっていいメンバー全員でのユニゾンも明確に武器になっていきましたよね。そもそもあれはどうしてやるようになったんですか?

渋谷:あれ、何だろね?

上杉:「証明」からじゃない?

柳沢:もっというと、『世界が目を覚ますなら』で「とにかくみんなで歌う曲を作りたい」ってぶーやんに言われて。それが明確にあってできたのが「東京流星群」なんです。あれがSUPER BEAVERにとっての明確なシンガロングソングの一発目で、めちゃくちゃ意識して作ったんですよ。それでそのあと、僕が体調不良になって一回ちょっとバンドを離脱したんですけど、そこから復帰して一発目にできあがった曲が「証明」だったんです。だからあの曲にはちょっと勝手な思い入れみたいなものもあるんですけど、「流星群」を作ってた時の感覚も凄い残っていて、復帰一発目でメンバー全員で歌ってるってめちゃくちゃいいんじゃなかろうかって思って作ったんですよね。

――渋谷さんはどうして「みんなで歌える曲」を求めたんですか?

渋谷:それはやっぱり、自分がお客さんとしてライブを見に行った時に何が楽しかったのかって、どうしてもこの部分一緒に歌っちゃうっていうのがすごく多かったんで。時代感もあると思うんですけど、自分がそこにいるっていうアイデンティティとか個人の存在意義みたいなものっていうのはすごく大事だと思っていて、それをライブの場でどうやって満たすのかっていうのを考えると、やっぱり声を出してライブハウスのその空気を自分が作れていると思えることだと思うんです。勝手に責任感みたいなものを感じて、「これは俺が歌わにゃ始まらん」みたいな、そういうのをやっぱり作りたかった。

――個人の存在意義を満たすっていうのは、いわゆる「一体感」みたいなものとは違うということですよね。

渋谷:「一体になりたい」って思ったことはあんまりない。でも結果的になっちゃったことに対するロマンはめちゃくちゃ感じます。「同じ方向むいちゃった」みたいな――隣りの人はまったく知らなくて見たこともない人なんだけど、めっちゃこの曲好きなんだよねって手を挙げるタイミングが一緒だったとか、そこにはすごくロマンを感じるんで。要は個人個人に訴えかけた結果がたまたまそうなったという。それがはたから見た時に「一体感」って言われちゃったりするのは全然OKだけど、別にそこを求めてやってたわけではないかな。

藤原:自分はぶーやんほどライブ行くタイプじゃなかったですけど、ライブに行くとお喋りになれるというか。自然と声が出て歌えてしまうというのは感じていて。そういうことが自分のドラムフレーズにも関係してたりしますね。単純にSUPER BEAVERの歌が好きなんですよ。

――メンバーもお客さんも歌える場所を作るっていうのってSUPER BEAVERにとってすごく大事な考え方ですよね。バンドとして掲げている「ジャパニーズポップミュージック」っていうことともつながると思うし。

渋谷:「ポップミュージック」って最も凶暴なものだと思ってるんです。意識せずとも入り込めちゃう、うっかり口ずさんじゃうっていう。土足で踏み込んでいってガチンコで話をするみたいな感じ。

――土足でズカズカ入っていってぶっ刺していく、それこそがポップだと。

柳沢:今回のメジャー再契約っていうのも、SUPER BEAVERのポップミュージックをより強いポップミュージックにするためのものだという気がします。音楽のジャンルや質感ではない部分、インディーズではかなわない部分みたいなものがやっぱりあって。それをSUPER BEAVERで目指してきている気がするんですよね、個人的には。だって、ふいに流れてきた音楽に耳を持っていかれるっていうのがポップミュージックの強さですけど、普通の音楽はふいには流れてこないですよね。そういった状況っていうのは待ってても生まれないし、やっぱり自分たちで作り上げていかなきゃいけない。でもそれをいわゆるインディーズと言われるシーンでも少なくともやってこれてたっていうところにSUPER BEAVERのおもしろみがあるとも思うんですけど。

■サブスク全盛のシーンやコロナ禍に対して思うこと

――そういう意味では、たとえば今年サブスクリプションサービスで全楽曲を解禁しましたよね。ああいうのもまさに「ふいに流れる」状況を増やしていくということなのかな。

渋谷:個人的には……やっぱりモノが好きなので、CDをお店に買いに行って手に取るっていうところから含めて全部音楽だった気がするし、それが実体をともなわなくなるっていうのが僕には結構信じられなかったんですよ、正直。だから俺はサブスクやりたくないってずっと言ってました。でもこの考え方っていうのは個人で持っていればいいんだって割り切っちゃった。聴いてもらわなければないのと一緒。CDは持ちたくないっていう人もいる時代だし、そういう人にもやっぱり聴いてもらうために音楽をやってると思うから。自分がオールドスクールだってのは分かってるけど、自分の考えはこの先も絶対大事にしていく。でもやっぱり多く届けたいっていうのが本質的なことだなと。

――やっぱりそういう、リスナーの変化みたいなものは感じますか?

渋谷:うん、めちゃくちゃありますね。アルバムではなく1曲で考える人がすごく増えてるし、下手したらアルバムの中で曲を選んで買ったりするような時代になってるっていうことを考えると、新しい価値っていうのが生まれてきていると思います。そういう中で、ライブの価値が逆にちょっと上がってる感じもするし。もの対する執着がなくなっている分、リアリティを感じられるものに対しての価値は少しずつ上がってるような感じはオンステージしててもありますね。まあ、それによって何か変えようとあんまり思ってないですけど。

――たとえばリスニング環境に合わせて音作りを変えよう、みたいなことは?

柳沢:ないです、まったくない。そこは、ちょっと乱暴な言い方かもしれないですけど、もう聴き手が整えればいいんじゃないかって思う。だってイヤホンひとつで変わるわけじゃないですか。今の10代とかってそういうことを自然にやってるのではなかろうかという、僕らの想像を越えた価値観が実はもうあるのではないかっていう気がするんです。だってBluetooth当たり前でしょ、みたいな。それは有線のほうが音がいいとかそういうことではなくて、それは新しいゲームが出たよ、新しいアプリが出たよ、みたいなこととほぼ一緒なんじゃなかろかっていう。であれば、こっちがそんなにジタバタする必要ないのかなと個人的に思います。

――すごくよくわかります。加えて今はコロナの影響でライブもいつもどおりはできないし、そういう部分でも音楽の届け方が変わってきてますよね。そこに対してはどう思っていますか?

渋谷:あんまり……合わせて変えていくつもりってのは今のところないですかね。もしかしたらそうしなきゃいけない状況っていうのが来るのかもしれないけど、その時はその時かなって思ってます。少なくとも、今自分たちが貫いてきたスタイルっていうのはそれが好きでやってたことだから簡単に変えられるようなものでもない気がしてるんですよ。だからその状況に応じて変えなきゃいけないってなっても、それに対して付き合っていけるかどうかもはまだ正直分からない。それが許せるものだから変えていくのか、許せないから変えないのかっていうのは。

――分かりました。最後に、今回AWAでプレイリストを作ったとのことで、その中からそれぞれ1曲、思い入れのある曲を選んでもらえればと。

渋谷:1曲かあ!

柳沢:難しいけど……俺は、これは作曲的な部分も含めてですけど「361°」。その当時の自分たちを表すために360°、一周終わって一歩前へ進むんだという感じが表現できたっていうこと自体も嬉しかったですし、アレンジも転調しては戻ってまた転調するとじゃ結構目まぐるしく変わっていくんだけどヘンテコリンではなくて、いろんなバランスがすごく取れたんだ1曲だなと思っていて。いまだにライブでやると結構ぐっとくるランキング上位な曲だったりもするんです。メジャー再契約した今がまさにちょうど一周と一歩目なんじゃなかろうかという気もしますし。

――うん、今にも重なる曲ですよね。リーダーは?

上杉:「らしさ」ですね。技術的に、レコーディングのとき急遽半音下がることになって。普通はレギュラーチューニングで弾いてるので、レコーディングのときだけ半音下げで弾けなくて、結局レギュラーで弾いたっていう苦い思い出がある曲(笑)。だからこの曲で聞こえるベースの音は、もうその曲にしか存在しないんです。やってる人しかわからないことなんですけど。

――なんで急にキーを下げたんですか?

上杉:結構よくあったんですよ。

柳沢:当時はプリプロしてなかったんだよね、たぶん。プリプロかレコーディングかみたいなのが曖昧で、いい感じだったらそのまま録っちゃおうみたいな。抑えられる経費はできるだけ抑えようっていう(笑)。

――渋谷さんは?

渋谷:「ハイライト」。理由はいちばん新しい曲だから。

――らしい答えですね(笑)。じゃあ最後、藤原さん。

藤原:「まわる、まわる」で。理由は最新作が入っているから、もありますが、ずっとライブでもやってたし、だから再録する時も何回テイクを録っても一緒っていうか、この曲はこうじゃないとダメだみたいなのが完成されてる不思議な曲なんですよね。そういうのを今回のシングルレコーディングでも再確認できたっていう意味で。

――わかりました。それぞれの答えでおもしろいです。ありがとうございました。

全員:ありがとうございました!(小川 智宏)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む