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乃木坂46 鈴木絢音、被写体としての魅力とは? カメラマン 新津保建秀が語る、写真集『光の角度』で記録したもの

リアルサウンド

20/12/30(水) 10:00

 発売翌日から重版が決定した乃木坂46鈴木絢音の1st写真集『光の角度』(幻冬舎)。写真集を制作するにあたり鈴木絢音が唯一出した要望は、カメラマンの新津保建秀に撮ってもらいたいということだけだった。

 なぜ彼女は、唯一の要望としてカメラマン新津保建秀を指名したのだろうか? そこにどんな思いがあったのだろうか? 鈴木絢音の言葉なき意志を、カメラ越しに鈴木絢音の存在に触れ続けたカメラマンの新津保建秀と探っていく。

 アイドルの写真集とは。グラビアとは。それらは一体、何を写すものなのだろうか。もちろん、アイドルの「可愛いところ」を収めるという前提はあるものの、その問いに確かな答えはきっとない。ただ、この写真集が素晴らしいのは、鈴木絢音と新津保建秀、そして周りのスタッフ全員が、阿吽の呼吸とも言える静かなコミュニケーションを通い合わせていたからだと、話を聞いて実感した。旅の記録。触れられない時間の感触。またひとつ、新しい角度で写真集を楽しめる話を聞かせていただいた。(とり)

男の子が遠くから女の子を眺めているような視線で

――鈴木絢音さんは、前に雑誌で初めて新津保さんに撮影してもらったことがきっかけで、写真集のカメラマンとして指名したとインタビューで話されていました。そのときの鈴木さんの印象って覚えてますか?

新津保:撮影中は物静かな人だなという印象でした。同時に、撮影後の編集者さんとの会話の様子から華やかさと快活さもあったので印象に残っています。今回の写真集の前に鈴木さんの撮影を依頼してくださったのが、『アップ・トゥ・ボーイ』(ワニブックス)の編集の山下剛一さんでした。山下さんは昔から付き合いのある方なんですけど、いつも短編映画か映像作品をとれるほどの入念なロケハンとリサーチを行い、その場所へのお互いの解釈からイメージを膨らませます。山下さんはこのイメージの飛躍と小道具の準備の精度が圧倒的で、あるときはグラビアの撮影予算に自分のボーナスを注ぎ込むほどのこだわりを持っていたり、本当に凄い方です(笑)。このときは谷中の街に架空の書店を想定し、そこで働いている書店員さんという設定で撮影しました。撮影中は、普段の仕事の中で彼女がまとっているアイドルという記号をいったん解くことを意識しました。その結果、とてもシンプルなポートレートが撮れていました。山下さんが鈴木さんの人となりを細かく丁寧に教えてくれたことに助けられたと思います。

――そのことが本作に繋がったと。完成した写真集を見てどのように感じましたか?

新津保:ちょうどコロナによる社会変化の直前に撮影したので、形になったときたいへん感慨深いものがありました。世界が大きく変わってしまった現在から振り返ると、当たり前のように旅しながら捉えた、おだやかな普通の時間がいかにかけがいのないものであったかを感じています。写真を編んでいく過程では、一度コロナで当初の発売時期が延期になったので、幻冬舎の女性編集者である菊地朱雅子さん、黒川美聡さんとゆっくり話しながら進めました。おふたりとも、出版社に勤めているくらいだから、鈴木さん同様、子供の頃から本が好きだったわけです。僕が感じただけのことですが、先ほどの山下さんとはまた違った、それぞれの思いを投影してくれていたような気がします。実際に鈴木さんとも話が合っていて、彼女たちと議論しながら、構成をしていったことが良かった気がします。

――写真集の構想については何か意見を出されたんですか?

新津保: 担当編集者の一人、菊地さんとは、2009年の冬に雑誌『papyrus』で一緒に秋田県に住む20代の女性作家さんをご実家へ訪ねて撮影したことがあります。この撮影はとても思い出深いものでした。最初の打ち合わせでは、このときの秋田で出会った人たちの思い出と、鈴木さんご本人の印象、最初の撮影での書店で働いている女性という人物像を膨らませて、担当編集のお二人と構想を練っていきました。ロケから戻ってからは、構成のパターンを何校も作って、アートディレクターの田中良治さんとやり取りしながら詰めていきました。最初はもっと抽象度が高い感じだったんですけど、担当さんに、あまり難解になりすぎるとファンの人に伝わらないと意見をいただいたりして。

――ロケ中はどうでしたか?

新津保:今回はスタッフ全員が女性でした。男性は僕とデジタルオペレーターの二人だけ。だからタヒチへの和やかな旅に随行して、遠巻きに撮るみたいな感じになりました。あまり細かなディレクションを入れない方が良いと思ったので、たくさんお話したわけではないんですけど、ただ旅をしようというのは全体で共有していたことでした。鈴木さん含め、みんな女子旅を楽しんでいる感じでしたね。そのようなわけで、よくアイドルの写真集で出てくるような衣装だと、今回のイメージには合わないと思ったので、目指すニュアンスをお伝えしてスタイリストの牧野香子さんとメイクの宇藤梨沙さんに考えてもらいました。

――グラビアではある種の違和感も魅力的だったりしますけど、今回のテイストだと違和感はなるべくない方がいいですよね。

新津保:僕の息子は今高校生で、男子校に通っているのですが、話を聞いていると乃木坂46のイベントに行っている同級生がいるみたいなんです。あとは、友人でアイドルが好きな人がいるので、そこからなんとなく読者像を掴んで、中高一貫の高校に通っていた男の子が、進学先の大学で出会った友人を遠くから見ているような、恋愛というよりも、自分と近い感受性、もしくは同じ興味の対象を持つ他者を、たとえば、ゼミでの現地調査旅行の過程で、遠くから見ているような、それくらいの距離を心がけて撮っています。

グラビア・写真集

――グラビアというワードが出ましたが、新津保さんはグラビアをどのように捉えていますか?

新津保:被写体や撮影者だけでなくて、その場にいた皆が経験した、そこに流れていた時間や、風の動きといった形のないものを、写真というメディウムの中に織り込んで見てもらうものかなと捉えています。

 自分が写真の仕事を始めて数年の頃、あるベテランの出版プロデューサーから「お前の写真は恋愛が足りない」と言われたことがあります。このとき大きな違和感を感じたけど、ここにグラビアといわれる写真の深層に横たわる価値観が集約されている気がしています。これまでのグラビア写真と呼ばれる多くのものは、撮影対象との疑似恋愛的な関係性や、性的関係の暗喩、もしくはそれにその時々で「おしゃれ」に見える記号を被せて、読者の関心に訴求することが主眼となっているように思います。

 ただ、あるカメラマンが20代の女性作家を撮ったとき、カメラマンが付けようとしたタイトルを、その作家が毅然と拒否したときや、他のカメラマンが専属モデルから異議申し立てされたとき、それまで撮影者や編集者のなかで当たり前となっていたものと、撮られる側との乖離がいよいよ大きくなってきたことを感じました。だから必ずしも疑似恋愛的な関係性の暗喩や、過剰な身体の露出や衣装のバリエーションは必要ないのかなあと。今は過渡期なのかなと考えています。

――なるほど。鈴木さんの写真集は「疑似恋愛」ではなく、「遠くから眺めている」というコンセプトじゃないと出ない「良さ」だと思います。

新津保:このとき「遠くから眺めている」というというよりはむしろ、「遠くにあるもの」をカメラを介して手探りで辿っていくような感じです。ここでいう「遠くにあるもの」とは、見ず知らずの土地が想起する物語とか、遠くの雲のフォルムとか、鈴木さんの周りの時間の流れとか、直接手に触れることができない形のないものたちです。

 一番心を砕いたのは旅行自体がスムースにいくような旅程の設計です。その中で、皆が旅を共にしながら偶然に出会ったものを写真のうちに収めていきました。帰国してからは、この時に感じたものと、先ほどもお伝えした、撮影を振り返った時に、過去と現在の行き来のなかで感じた、おだやかな普通の時間のかけがえのなさと儚さを自分の気持ちに正直に本のなかに収めていくことです。

――撮影は今年の1月です。ギリギリ海外に行けたのも良かったかもしれませんね。

新津保:旅先の開放感っていうのはあったと思います。本当に行けて良かった。今回は、プランニングとコンセプトの構想を作るのに力を入れたので、撮影自体は作業全体の2割くらいな気がします。ロケでの撮影は、絶対に外しちゃいけない一点が必ずあって、それが外れていなければ良い感じになるんですよね。撮る前に既に勝負は決まっているというか。なるべくシンプルな機材で、撮影自体は感覚的に撮りました。

――「外しちゃいけない一点」、解ります。

新津保:ロケでは、かつてゴーギャンがいたと言われている場所を訪ねたんですが、撮影の中でみたものの中で最も心に残っているのは、その場所に吹いていたおだやかな風の肌触りです。そのとき、眼前の風景のうちに過去の手触りが立ち上がってくるかのような経験でした。

――確かに景色の写真が入ることで、旅の時間がより立体的に見えますよね。

新津保:「絢音ちゃんが見たいのに余計な土の写真入れるなよ」って言われるかもとは思いましたけど(笑)。乃木坂46の運営委員長の今野義雄さんとは、彼がかつて担当していたアーティストのジャケットなどでご一緒したことがあります。数万人の人を想定した写真集だと、自分の作風とのバランスが難しいのですが、衣装の打ち合わせのときに今野さんと交わした会話のなかで、なんとなく方向性を掴んだ感じです。今野さんがOKを出してくれた構成案にはもっと抽象的なものが多く攻めた感じだったのですが、流石だなと思いました。

――先日のインタビュー取材で鈴木さんのお話を聞いていたときに、今回の写真集で活動への自信を強くしたという印象を受けました。

新津保: 自分は知り合った人から直接の撮影依頼があるとき、そのひとのなかでの転機の場合が多い気がしています。例えばある友人は東京大学に提出した博士論文をまとめて満をじして書籍の形で世に問う時に著者近影を、また実験的な電子音楽を作っていた音楽家の友人はピアノによる初めてのアルバムを発表する時にジャケット写真を依頼してくれました。

 今回は鈴木さんが10代からの芸能活動の中で考えたことを形にしたいのかなと思いながら撮影しました。10代から20代の人のときは自身で自分では気づけていない部分が良い形で写真なり映画なりの中に残すことができると、その人にとって良いのかなという気がしてます。その人が仕事のなかで曖昧に感じていたことが、他者の眼差しを通して見えてくるというか。もし今回それができていたのなら嬉しく思います。こうした写真集はみんなで一緒に作る作業だから、形になった後にお互いに何かしらの発見があるのが理想的ですよね。

――では最後に、写真集をもう持っている方、そしてこれから見てくださる方に、こういうふうに見てほしいというのはありますか?

新津保:鈴木さんが過去のブログに好きな本を挙げていたりすると思うので、実際に同じ本を読んでもらうことで写真集をより追体験できると思います。本が好きですっていう人もいっぱいいますけど、彼女は本当に好きですからね。

 本表紙(カバーを取った表紙の箇所)にもなっている本を読んでいるシーンは、僕のいちばんお気に入りのカットです。ここで鈴木さんの素に触れられたような、心が通じ合った気がしたんですよね。アイドル以前の鈴木さんが浮かび上がってきたというか、普段こんな感じなんだろうなというのが垣間見えた瞬間でした。

 それと、先ほど述べた「想像のなかの旅」を意識して見ていただけたら嬉しいです。写真集の中の、コロナの前の穏やかな世界に流れる時間の片鱗に触れてみてほしいです。

■書籍情報
鈴木絢音1st写真集『光の角度』
写真:新津保建秀
定価:2,200円(税込)
出版社:幻冬舎
公式サイト

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