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ユナイト、DIMLIM、ラッコ、nurié……既存の価値観広げる“ネオ・オサレ系”なバンド

リアルサウンド

19/11/2(土) 8:00

 “オサレ系”は、ヴィジュアル系のサブジャンルだ(オサレはオシャレの俗語)。ファンによる俗称のため明確は定義はないが、よくみられる共通点は3つ。

(1)カタカナやひらがなのバンド名
(2)原宿系ファッションに通じるカラフルで奇抜な衣装
(3)ティーンの心情をつづったような歌詞

(関連:MUCC、lynch.、DEZERT、the GazettE……定額配信で広がるV系アーティストの可能性

 西洋的で、黒く、ダークだったそれまでのヴィジュアル系と大きく異なる彼らは、2000年代前半に大流行した。

 そのきっかけとなったのはBAROQUE(当時はバロック)だった。2001年に活動を開始した彼らは、2本のデモテープののちに、オサレ系の金字塔となる『東京ストリッパー』を2002年に発表した。一連の作品に収録されている「あなくろフィルム」や「イロコイ」は、昭和歌謡風のメロディとシャッフルビートという、ブラックミュージックと関連する要素が特徴の曲だ。これは当時珍しい音楽性で、確かに“オサレ”に聴こえた。

 さて、2010年代に入り、フュージョンやファンク、R&Bといったブラックミュージックを代表とする“オサレ”な要素を積極的に取り入れているバンドが、ファンの注目を集めている。今回は、そんな“ネオ・オサレ系”ともいえる彼らを紹介していく。

■ユナイト
 “オシャレ”を実際に掲げたネオ・オサレ系の正道ともいえるのが、ユナイトが2018年に発表した『NEW CLASSIC』だ。重低音を効かせたテクニカルな演奏を、キラキラとしたポップネスに昇華するのを得意とするユナイト。本作では「オシャレな感じ(引用元:Tune Gate)」を目指したという発言の通り、R&Bからファンク、ミュゼット、フューチャーベースなどを駆使して、彼らの思う”オシャレ”を具現化している。一部の曲の参照元として、俗にいうKawaii Future Bassに類するアーティストや、ハロー!プロジェクトを挙げている点が独特だが、”可愛らしさ”はオサレ系の特徴のひとつだったこともあわせると、それも文脈に沿っていることがわかる。

■DIMLIM
 同じ”オサレ”な表現でも、2017年始動のDIMLIMが目指す境地はユナイトとはまったく別のところにある。彼らは「vanitas」や「離人」で、フュージョンに通じるギター表現を、激しく混沌としたメタルに導入し、その苛烈ながら消え入りそうな独特の存在感をさらに強めた。彼らにはデスコア/ジェントという下地もあるが、ジェントは欧米でもフュージョンと繋がっている。そうした文脈を、ヴィジュアル系で独自に体現しているという点でも注目だ。

■ラッコ
 DIMLIMがジェントという00年代以降のメタルで模索する方向性を、90年代以前のメタルで行ったのが、ラッコが2017年に発表した『弱肉教職』だ。本作は、ハードロック/スラッシュメタルに通じる苛烈なギターテクニックと、フュージョンの円熟した演奏がひとつになっている。ボーカリストのてんてん(現・平 一洋)は、2001年から2003年まで餞ハナむケ。として活動していた。餞ハナむケ。は、BAROQUEとともに“オサレ系”して捉えられていたバンドだ。そういう意味でもラッコはオサレ系の系譜にある。残念ながら2019年5月に活動を休止している。

■nurié
 2019年に始動したnuriéがデビュー曲として選んだ「モノローグ」は、フュージョン系のカッティングに、ラップ/ポエトリーのようなボーカルを乗せ、現代都市生活の感傷を描く曲だ。ほかの曲ではフュージョン要素は少ないものの、RADWIMPSやボーカロイドなどに通じる表現も目立っており、いわゆるヴィジュアル系とは少し異なる音楽性だ。当時のオサレ系には「ヴィジュアル系らしくない」という反応が少なくなかったが、彼らもまた、良い意味で 「らしくない」といえる。

 以上4組を今回“ネオ・オサレ系”としてまとめたものの、それぞれ基本となる音楽性は大きく異なる。“オサレ”要素は、彼らの多様な音楽性の一部だ。彼らは、バンドの表現をさらに深めるためにそうした要素を昇華している。

 さて、オサレ系は、ミクスチャーやポップロックへと音楽性の幅を広げながら、2000年代前半をピークとして勢いを失っていった。一方で、00年代中後期のネオヴィジュアル系ムーヴメントの中心にいたアリス九號.やアンティック-珈琲店-、the GazettE(当時はガゼット)、シド、NIGHTMARE(ナイトメア)らは、バンド名からわかるように、いずれも“オサレ系”以降の価値観をもっていた。とくにシドは、ブラックミュージック要素をポップに仕上げる名手だし、the GazettEにもそうした曲は多い。さらに、10年代に増えてきた、R指定や0.1gの誤算が得意とする、いわゆる“メンヘラ表現”も、ファンに寄り添うようなオサレ系の歌詞が先鋭化したものとも取れる。オサレ系そのものは時代とともに消えていったが、その価値観は現在のヴィジュアル系に根づいている。

 であれば、オサレ系は“新しいヴィジュアル系”をもたらし、90年代のブーム後のシーン再興の基盤となったムーヴメントだったとも取れる。その新しさと変革に対するファンの戸惑いが、“オサレ”という、揶揄とも取れる俗語表現に繋がったのだ。ネオ・オサレ系も、単なる音楽的共通点を意図した言葉ではない。その根底にある、既存の価値観を拡張しうる彼らの発展的な意志を表しているのだ。(エド)

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