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ふたりを運ぶいくつもの物語。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』2ペアで開幕

ぴあ

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』より、牧島 輝(トーマス役)、太田基裕(アルヴィン役) 撮影:田中亜紀

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田代万里生&平方元基ペアと太田基裕&牧島 輝ペアというWキャストで上演されるミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』が、12月13日に開幕した。ふたつのペアのゲネプロレポートをお届けする。

本作は、2009年にブロードウェイで初演され、その後韓国で大ヒットした二人ミュージカル。幼馴染アルヴィンの弔辞を書くために、短編小説家のトーマスが、自分の心の中に広がる空想世界で、アルヴィンとの出会いからの転機を一つひとつ振り返っていく。

日本初演は’19年。今回も出演する田代万里生&平方元基ペアが出演し、2役を交互に演じる相互上演が話題を呼んだ。2年ぶりの上演となる今回は、役柄は固定となり、【アルヴィン・田代万里生&トーマス・平方元基】【アルヴィン・太田基裕&トーマス・牧島 輝】という2ペアで上演される。演出は初演から引き続き高橋正徳(文学座)が手掛ける。

平方元基(トーマス役)、田代万里生(アルヴィン役)

ベルが鳴り、生演奏とふたりの子供の話声から舞台は始まる。「人が死ぬと、良いことを話すんだよね」「弔辞っていうんだよ」――。まず登場するのはトーマス。アルヴィンの弔辞を書こうとしている。アルヴィンについて、「彼は私の親友でした」と書くが、「良き友達」と書き直し、さらに「最も古い友達」と、どんどん遠くなっていく。トーマスはアルヴィンのことを何も知らないと気付き、途方に暮れていた。その空気をパッと晴らすように「君の頭の中には、何千もの物語があるはずだよ!」と語りかけるのがアルヴィンだ。笑顔のアルヴィンは、トーマスをふたりの物語に導いていく。

牧島 輝

そこから広がっていくのは、アルヴィンとトーマスが小学1年生で出会い、成長し、社会に出て、すれ違い、永遠の別れに至るまでの追憶の旅。アルヴィンは本屋の息子として生まれ、大人になっても地元に留まり、父を継いで本屋の店主になる人物で、たくさんの本を読んでいるぶん、ユニークで繊細で少々変わり者でもある。一方トーマスは、そんなアルヴィンを時に心配し「普通になれ。じゃないといじめられる」と忠告しながらも、実際にいじめられたら助けにいくような人物。進学で地元を出た後は、小説家として名声を手にするベストセラー作家となる。そのふたりが全38曲(!)の楽曲を通し、関係性の転機となるような瞬間を辿っていく。

初演も拝見した筆者は、2年前は「ふたりの友情」の物語という印象だったのが、今回はそこに「それぞれの人生」が加わったように見えた。稽古場インタビュー(太田&牧島田代&平方)でもトーマスの行いは話題に上がっていたが、彼がなぜそうしたのかが今回とてもよく伝わってきて、物語の印象が変化する。ふたりだけのミュージカルではあるが、当然ふたりだけの世界で生きているわけではないアルヴィンとトーマス。それぞれの人生が混じり合って、この物語は動いていたことに気付いた。

開幕に寄せて演出の高橋が、「田代さん、平方さんチームは再演にあたり解釈を掘り下げ、役を研ぎ澄ましていく事で、この作品により深みを与えてくれました。太田さん、牧島さんチームはこの作品に新たな光を当て、稽古場では今までとは違ったトーマスとアルヴィンの関係を発見することが出来ました。同じ戯曲、楽曲でありながら、それぞれのチームの色彩がハッキリとしたものになったと思います」とコメントしていたように、各ペアの違いはこの作品の面白さも教えてくれた。

平方元基

【田代&平方ペア】は2度目ということもあり、お芝居のひとつひとつ、楽曲の一曲一曲から、ふたりの記憶が滴るほどだったのが印象的。一つひとつの思い出がまぶしく、なんだかんだ言いながらも田代アルヴィンに巻き込まれるのが楽しそうな平方トーマスや、田代アルヴィンのコロコロ変わる表情、相手を見つめる目に宿るもの、歌っていないほうの人物の表情、心が重なった時のハーモニーの素晴らしさ……挙げていくときりがないが、ふたりの感情が鮮やかに客席に流れ込んでくるようだった。

田代万里生

【太田&牧島ペア】は、牧島がこのようなミュージカル作品に初挑戦であることや、幼馴染を演じるには年齢が離れていることなどが、いい意味で、役の関係性に影響しているように感じた。牧島の必死さは、牧島トーマスが「ベストセラー作家」として大成しながらも必死で作品や社会生活と向き合う姿を際立たせ、そうなると太田アルヴィンも、そんな彼の親友として器が広がり、牧島トーマスをやさしく受け止めているように見えた。そういう印象の違いは衣装からも感じるところであり、田代アルヴィンの衣裳は初演同様、どこか天使を思わせるものであるのに対し、太田アルヴィンの衣裳は人間らしいものだった。だからこそ、ペアによって残るシーンや台詞が全く違う。演出にもそれぞれに細かな違いがあり、特にラストシーンでの違いは、それぞれのペアの関係性が顕著に出ているように感じて印象的であった。

太田基裕

太田が前述のインタビューで「余白が美しい作品」と述べていたが、2ペアが演じることでその余白がさらに広がったように感じる。大切な人たちと会う機会の多い12月にぴったりなこの作品を、ぜひ堪能してほしい。

上演時間は休憩なしの110分。出演者の4人が並ぶことはないが、開演前のアナウンスは4人揃って話しているので、そちらもぜひお聞き逃しなく!



取材・文:中川實穗 撮影:田中亜紀

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