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前田旺志郎の“日常”を意識させる存在感 『おちょやん』で千代と一平と重なる役どころに

リアルサウンド

21/3/22(月) 6:00

 『おちょやん』(NHK総合)第16週目「お母ちゃんて呼んでみ」で、千代(杉咲花)と一平(成田凌)と一時的に生活を共にすることになる新派出身の子役・松島寬治として登場するのが前田旺志郎だ。

 新派の劇団の座長の子だったが、母親はおらず父親も亡くしたばかりという役どころ。ここまで聞いただけでも一平とかなり似た境遇の持ち主だ。さらに、千代も早くに母親を亡くし、また長く抱えていた父親・テルヲ(トータス松本)とのわだかまりも雪溶けを迎えながら、弟・ヨシヲ(倉悠貴)との関係の完全な修復には至っていない何かと家族について辛い想いを抱いてきた。千代からしても、何かシンパシーを感じてしまうような存在が寬治なのだろう。

 前田旺志郎自身も今回の役どころと同じく子役出身だ。元々映画やCMなどに出演していたが、その名を全国区にしたのは何と言っても実の兄・航基と組んだ兄弟漫才コンビ「まえだまえだ」での活躍だろう。『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)でも準決勝進出を果たし、当時全盛期だったネタ番組『エンタの神様』(日本テレビ系)やバラエティー番組への出演が相次いだ。

 あの「まえだまえだ」のボケ担当の弟・旺志郎が当然ながら声も変わり今や二十歳を迎え、慶應義塾大学に通う大学生になっているという事実に感慨深い想いを抱く視聴者も少なくないだろう。

 前田の朝ドラ出演は本作が2作目となり、『わろてんか』では芸人キースの幼少期を演じた。年齢のこともあって当然だが“〜の幼少期役”を演じることの多かった前田が、見事活躍の場をスライドさせ今や映画やドラマで主演を務める“旬の若手俳優”の顔の1人となっている。

 皆の記憶に新しいのは『MIU404』(TBS系)の第3話「分岐点」で演じた元陸上部員の勝俣役だろう。先輩の不祥事によって廃部に追い込まれた元陸上部員たちによる悲しき虚偽通報事件の真相が描かれたが、前田の持つ素朴さや無邪気さの裏に、これまで当たり前に抱いていた“夢”や“日常の楽しみ”“仲間との時間”を突然奪われてしまった彼らの計り知れない悲痛さ、無念さが滲み出ており胸を打たれた。

 「なんてことない日常」が奪われてしまうという点では、小西桜子と共にW主演を務めたドラマ『猫』(テレビ東京系)が正にそうだ。余命宣告を受けているヒロインのみねこ(小西桜子)とそれを見守る光司(前田旺志郎)という構図で描かれるストーリーは予想の斜め上をいく結末を辿るのだが、前田の真っ直ぐで実直な演技で紡がれるからこそ、このままずっと続くものだと信じてしまいそうになる“なんてことない日常”がいかに尊く愛おしくて奇跡的なことかを逆に強く強く印象付けてくれた。作中披露したギターの弾き語りでも、演技同様真っ直ぐな歌声を響かせ、また視聴者の涙を誘った。

 本作で演じる寬治も、言わば突然これまでの“日常”を奪われ、いきなり千代一家に預けられることになる青年役だ。淡々とした日常を見せてくれるからこそ、その中で実際に抱えている喪失感の大きさが自然と浮き彫りになる、そんな前田のお芝居が今から楽しみだ。

 ちなみに杉咲と前田は同じく大河ドラマ『いだてん』(NHK総合)に出演しているが、がっつり共演シーンがあった作品という意味では、オムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の『DATA』ぶりの共演となる。それぞれがそれぞれに“家族”について何か報われない想いのある千代、一平、寬治が一つ屋根の下で暮らした際に見られる化学反応にも注目したい。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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