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福山雅治、初挑戦尽くしの全曲バラードライブ 音楽でこそ表現できる“想いを馳せることの美しさ”

リアルサウンド

21/3/22(月) 19:00

 31回目のデビュー記念日である3月21日、福山雅治が自身初となる全曲バラードライブ『Fukuyama Masaharu 31st Anniv.Live Slow Collection』を開催した。無観客、8カ所のプラットフォームで配信。セットリストは2020年末にリリースした6年8カ月ぶりのオリジナルアルバム『AKIRA』の初回限定「30th Anniv.バラード作品集『Slow Collection』盤」(応募総数1万通超のファン投票上位16曲を収録)の全曲に加え、最新曲「心音」、さらにはファンクラブ限定チケット購入者に向けたアンコール2曲を披露。テンポがスローである、という共通点以外は多彩な表情を持つ楽曲群で、工夫に富んだ演出を次々と繰り出し飽きさせることなく公演を繰り広げた。

 現場にマスク姿で到着した福山は、会場入り口で検温と消毒。各セクションのスタッフに挨拶を済ませると、セットの組まれたスタジオ内へ。歌唱中を除き、リハーサルを行った後の映像をチェックする際にもすぐマスクを着用し、自らが率先して感染防止対策を心掛けていた。サウンドチェックはもちろん、照明演出を確認したり、撮影プランに対してのイメージを伝えたり、福山は全方位に意識を配っていた。「一年に及ぶコロナ禍の中で、ファンの方々は様々な不安、心配ごと、ストレスがあると思う。もちろん僕もそのひとり。だからこそ、今自分が出来る形での音楽をやり切る」と今のコロナ禍の状況に想いを馳せ、ライブに対しては「バラードという楽曲の世界観に入り込んでいただいてももちろんいいんですけども、ライブ会場とは違ってどれだけリラックスしてご覧になっていただけるかも一つのテーマ。気付いたら寝ちゃってた、みたいなことでも……(笑)」とオンラインライブならではの自由な楽しみ方を提案。音楽の力が人の心に何をもたらしうるのかーーコロナ禍でエンターテインメントが苦境に陥る今、福山はこの初挑戦尽くしのライブで新たな可能性を模索しようとしていた。

 今回のオンラインライブは、2つのステージを駆使して曲ごとの世界観を表現。バンドはメインステージに留まりつつ、福山は双方を行き来してパフォーマンスする、というスタイルだ。冒頭で「今日をもちまして、私、福山は音楽デビュー31年目に突入しました。本当にありがとうございます」とファンに挨拶。当初は全国ツアーを予定していたこと、この日は本来ならば熊本公演を行っていたはずだったことなどを語っていく。有観客ライブが軒並み中止や延期となる中、「今だからこそつくれるライブをつくろう」という想いの下、昨年末には自身初のオンラインライブ『FUKUYAMA MASAHARU 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA』を開催し、「オンラインライブには通常のライブとはまた違った表現がある」との手応えを得たのだと回顧。自身初の全曲バラード楽曲で構成されるライブとなる今回の配信も、「通常ではおそらくやらなかったはず。画面越しの最前列、最後までじっくりお楽しみください」とオーディエンスに語り掛けた。

 長崎の古い教会や、マヤの天文台を思わせる神秘的なメインステージのセットに立ち、静けさの中アコースティックギターを携えると、1曲目の「milk tea」をバンドと共に披露。もう何百回とセッションを重ねてきた最強のバンドメンバーたちが織りなす極上のグルーブに乗せて、温もりを感じさせる歌声を響かせた。今回の全曲バラードライブ用に選ばれたマイク、ノイマンが歌声の奥行きをリアルに届けてくれる。

 続く「恋人」もそうだが、〈逢いたい〉という歌詞がどうしても離れた場所にいるファンの存在を想像させ、胸が締め付けられる。熱のこもった真っ直ぐな眼差しが大写しで確認できるのは、オンラインライブの利点である。ギターをエレキに持ち替えて歌った「7月7日」は、Charへの提供曲ながらリクエスト10位にランクインしている人気曲。『Slow Collection』はシングル曲に偏ることなく幅広く選ばれたリクエスト結果となっていて、自ずとこの日のセットリストは実にバリエーション豊かな内容となっていた。

 事前に「あなたの拍手・歓声」と題してファンから募集した音声データ(通称:顔の見える声)を活用し、無観客の会場にも関わらず、まるで目の前に観客席が存在するかのような臨場感で配信ライブは賑やかに進行。福山とのエアコール&レスポンスも呼吸ピッタリに繰り広げられていく。そういった拍手や声を聴くことで、かつてのライブで浴びていた「皆さんの声と笑顔を思い出すことができるんです」と福山は感慨深げである。花道を歩き、ホワイトステージと名付けられた2つ目のステージに移動しながら、「恋愛を入り口にしながら、その人の人生の現在・過去・未来を表現できるのがラブバラードだと思っています」と自身のバラード観を明かすと、「今夜は、30年にわたり描き続けてきたバラードの数々をじっくりたっぷり、最前列でお聴きいただければと思います」と画面の向こうのファンへ改めて伝えた。

 水泡が浮き上がる海の底のような映像演出を背に、ガットギターを爪弾きながら哀愁たっぷりに歌った「恋の中」。次の瞬間には同じ空間が星空に変わり、幻想的なオーロラが揺らめく中、「ながれ星」をしっとりと届ける。再びメインステージへ戻ると、衣装をジャケットから淡いグリーンのシャツに羽織替え、ガットギター弾き語りで「好きよ 好きよ 好きよ」をアルバムバージョンとはまた異なるアレンジで披露。まるで自室で口ずさむようなリラックスしたムードが印象的だった。かと思えば、続く「Squall」ではステージの傍らにそびえ立つ古代ギリシャ神殿風の柱が光に照らされ、たちまち異世界に。迸る恋心のような激しい雨の映像をバックに、ピアノ演奏に乗せてドラマティックに歌唱した。歌と連動する指のしなやかな動きにも目を奪われていった。

 再びホワイトステージへと歩いて移動しながら、これまで生み出してきた181曲のうち60曲弱、約3割がバラード楽曲であることを「初めて知りました」と福山。30年に渡る音楽活動の中で、無意識のうちに生み出してきたというのも興味深い。彼にとってそれほど自然な、想いを投影しやすいフォーマットなのだろう。リクエストの栄えある第1位を飾った「最愛」は、美しい演出に思わず溜息。暗がりから十字の光が出現していく荘厳な照明演出。主題歌となった主演映画『容疑者Xの献身』で描かれた、見返りを求めない献身的な愛を思い出す。すべてを優しく包み込むような慈しみ深い歌唱であり、忘れ難いパフォーマンスとなった。

 打って変わって明るい朝靄のような光に照らされ、薄布がなびく中、目を閉じて佇む福山。始まったのは「Good night」。歌唱前に「初めてのヒットを体験させてくれた曲」と紹介した通り、キャリアにおけるターニングポイントとなった1曲である。ここで、今夜の折り返し地点を迎えて赤のロングシャツに衣装チェンジ。メインステージへ戻っていく。「本当にこの1年間、大変な世界になってしまいました」とコロナ禍に言及すると、「僕らの命と生活を支えてくださっている医療従事者の皆様、そしてエッセンシャルワーカーの皆様、本当にいつもいつもありがとうございます」と感謝を述べ、自身のラジオにも生の声が届いている、と報告。「ある看護師の方から“現場の若い医師が『AKIRA』収録の『ボーッ』という曲を聴いて救われた”というメールが届いて。音楽が、歌詞に込めた思いが届いているんだなと改めて知ることができて。こちらのほうこそ感謝しかありません」と想いを噛み締めた。我慢が今しばらくは続く状況を福山はしっかりと踏まえつつ、「そんな中で今夜はバラードという音楽のスタイル、バラード楽曲でリラックスしていただければな、と。なんだったらご自宅でくつろぎ過ぎて、聴きながら、観ながら寝ちゃっても構いません(笑)。見逃し配信もございます」とユーモラスに呼び掛けた。

 6位ランクインの「蛍」では、歌同様にギターソロでも情感を豊かに表現。歌い終えた福山が言及した通り〈古い教会〉という歌詞の一節はセットとシンクロし、世界遺産にも選ばれた福山の故郷である長崎の教会群をイメージさせる楽曲表現となった。亡き祖母への想いを歌った「道標」は独唱でスタートし、シャウト気味に語気を強めたかと思えば柔らかいファルセットに慈愛を滲ませ、多様なボーカリゼーションで圧倒。ラブソングに限らず、“想い人への心”を込める福山らしいバラードの定義をまざまざと感じることができるブロックだった。

 MCではこの日、自身の30年間の歩みだけでなく、同時代を生きる人々の人生に寄り添う言葉も多く聞かれた。「始めた頃は、まさか自分が31年も同じ仕事をできるなんて、思ってなかったですね」と語り、音楽以外にも活動を広げながら歩んできたキャリアを回顧。31年目を迎えることができたのは、「こうしてご覧になっていただけるあなたがいるからこそ。本当にどうもありがとうございます」と深く頭を下げた。「今年の桜はどんな桜なのか?」と来る本格的な開花に想いを馳せながら、「ライブというものがあと何回できるんだろうな……デビュー40周年が61歳の時ですから、まだ全然大丈夫かなと思っておりますけども(笑)。引き続きよろしくお願いいたします」と未来へ向けた決意表明も。誰しもそうだが、先の見通しづらい状況を生きる音楽ファンにとって、勇気付けられる言葉となったのではないだろうか。風に舞う桜吹雪のような美しい光の演出の下、色褪せることのない名バラード「桜坂」を歌い終える頃、足元には桜の花びらが積もっていた。

 再びメインステージに戻ると、まさにアメリカン・ロックの王道的ギターサウンドが高らかに鳴り響く「Dear」へ。ギターを奏でながらも、大きな手の動きでも感情を露わにするダイナミックなパフォーマンスを見せる。最後のブロックに差し掛かると、白いシャツに着替えてホワイトステージへと移動しながら、「シングル曲としては初のマイナーコード楽曲だった」と振り返る「はつ恋」へ。雲海の中で歌うような幻想的な演出で、哀切を帯びたストリングスの音色が重なり、切なさを溢れさせていく。ギターを外し、純白の世界で歌い始めたのは『Slow Collection』未収録の最新バラード「心音」。心電図をモチーフとしたような波形が映し出され、直前の「はつ恋」とはまた全く異なる心模様を描き出していった。続いては、昨年10月にリリースから9年で100万DLを達成、『NHK紅白歌合戦』でも披露した「家族になろうよ」。曲が生まれた10年前と比べ、家族の在り方が多様化していると語り、「血の繋がりがなかったとしても家族と呼べる存在、かけがえのない家族と呼べる関係なんだという考え方、感じ方……いろいろな家族の在り方が現在の日本にも世界にもあると思います」と実感のこもったコメントを続けた。形はどうであれ、大切に想う人との連帯は不変であり、普遍的。晴れたり稲妻が走ったりと変幻する空の演出の下、揺るぎない家族愛を歌い届ける姿は力強く、確信に満ちていた。

 本編最後の曲を前に、このライブを1曲目から積み重ねてきて、「音楽というものは時間や時空、様々なものを超えていくことができる装置なんだ、ということを改めて感じました」と語り始めた福山。古い教会やマヤ文明の天文台のように見えたり、宇宙空間のようであったりするセットの宿す意味も浮き彫りに。

「ある曲を聴いた時は気持ちが過去に戻ることもできるし、さらに、未来に気持ちを持っていくこともできる。今現在すごく遠くにあるもの、地球上に存在している、行きたいけどなかなか行けない場所、逢いたいけどなかなか逢えない人に対する想いであるとか……そういう対象に対して過去・現在・未来へと時空を声ながら想いを馳せることができるのが音楽の力なんだと。その“想いを馳せる”という行為の美しさを、今日はこの全曲バラードライブで表現したかったのかなと」。

 そうしてこのライブの深部を貫くテーマを言葉にすると、ラストは、コアファンに根強く愛し続けられている「あの夏も 海も 空も」を披露。パイプオルガンの音色が厳かに響き、人差し指を立てた右手を高く掲げた福山は、力強く歌い始める。失われてしまった時間を嘆くのではなく、大切な想い出として封じ込めた切なくも眩いバラード。ストリングス、ホーンセクションが多層的に絡まり合い、深い感慨を呼び起こすのだった。

 「この先また一体どんなライブができるか、またさらに知恵を凝らしてクリエイトしていきたいと思っています。本当に今日はありがとう! また逢いましょう!」との挨拶で本編を締め括ると、ファンクラブ会員限定スペシャルチケットで観られるアンコールブロックへ。限定公開のため細部を記すことは避けるが、必ずライブで再会できる日が来る、と福山は毅然とした面持ちで語り、「体調に気を付けながら、自分以外の人たちにも思いやりを持ちながら、大切な人たちを守っていきながら、日々を過ごしていきましょうね」と優しく呼び掛けていた。楽曲としては、『AKIRA』収録曲「彼方で」に続き、ダブルアンコールとして「you」(『Slow Collection』の選に惜しくも漏れた17位の曲)をチョイス。90年代後半、一時的に休止していた音楽活動を再開する時に発表したバラードで幕を閉じたことは、この初の試みを成し遂げた後の“新たな始まり”を予感させた。

 目には見えない何か、逢えない誰かに対して想いを馳せる時間の素晴らしさ、大切さ。音楽というものの本質を改めて見つめ直し、コロナ禍に屈せずクリエイティブであり続け、エンターテインメントしていく心意気を見せてくれた福山雅治。スローなテンポのバラード尽くしのセットリストだったが、思いがけない演出や工夫に満ち、内に秘めた情熱が伝わってくるオンラインライブだった。

福山雅治 – 31st Anniv. Live Slow Collection(Digest Movie)

■ライブ情報
『Fukuyama Masaharu 31st Anniv. Live Slow Collection』
2021年3月21日(日)19:00 
アーカイブ配信期間:2021年3月28日(日)23:59まで
チケット料金:¥4,500(税込)
購入はこちら

<セットリスト>
M01 milk tea
M02 恋人
M03 7月7日
M04 恋の中
M05 ながれ星
M06 好きよ 好きよ 好きよ
M07 Squall
M08 最愛
M09 Good night
M10 蛍
M11 道標
M12 桜坂
M13 Dear
M14 はつ恋
M15 心音
M16 家族になろうよ
M17 あの夏も 海も 空も
-ENCORE-
M18 彼方で
M19 you

福山雅治 オフィシャルサイト

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