和田彩花の「アートに夢中!」
エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続
毎月連載
第47回
現在、東京都写真美術館(東京・恵比寿)で開催中の『エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続』。インターネットが一般に普及し始めた1990年代から、いち早くインターネットそのものを素材として扱い、ユーモアのある切り口と新しい視点を備えた作品でインターネットアート、メディアアートを軸足に、アートの領域を拡張してきたエキソニモ。現在ニューヨークを拠点として活動する千房けん輔と赤岩やえによる日本のアート・ユニットで、デジタルとアナログ、ネットワーク世界と実世界を柔軟に横断しながら、実験的なプロジェクトを数多く手がけてきた。本展は、そんなエキソニモの24年におよぶ多彩な活動を初期作品から最新作までの作品群によって構成し、インターネット上の会場と美術館の展覧会会場を連動させその全活動の軌跡に迫るもの。インターネットと現実世界をつなぐ彼らの作品を、和田さんはどう見たのか?
インターネットとアート
エキソニモの作品は、これまでにも上の作品《The Kiss》をあいちトリエンナーレなどで見てきたんですが、こんなふうにまとまって見ることは初めてでした。
エキソニモはいち早くインターネットそのものを素材にしてきたアート・ユニット。今回は彼らの24年にもおよぶ活動の全貌とその軌跡に迫る展覧会なのですが、まさにインターネットが普及した時代とその活動期間は重なり、作品はもちろん、インターネットやパソコンの歴史のようなものも知ることができる展覧会になっています。
展覧会では、コンピューターを操ることによって生み出された作品や、パソコンやマウスが壊れることや、マウスが互いに干渉し合うことで生まれる作品、そしてインターネットを通して生み出される作品など、インターネットやパソコンにまつわるあらゆる作品が展示されています。
動いてる? 止まってる?
一番面白いな、好きだなって思った作品が、この《HEAVY BODY PAINT》です。これはLiquitex(リキテックス)の絵具ボトルを映したビデオ映像が再生される液晶モニタに、直接そのLiquitexの色をペイントするシリーズです。
初めは静止画だと思ったんですけど、実は動画。じーっと見ていると、画面が微妙に揺れているんです。どうやら、このボトルを手持ちビデオで撮影しているから、その揺れが出ているとのこと。全然気づかなかったので、驚きました。
でもその揺れによって、反対にモニタは平面作品なのに、立体的な視覚効果が生み出されると解説にあったのですが、そのとおりだと思いました。ただの絵画の一種ではないということです。
会場で絵画、と呼べる作品はこれだけだったのですが、インターネットとはかけ離れたような、絵画の伝統を模しているというのも面白いですよね。しかもキャンバスだと思ったらそれは液晶モニタで。絵画だけどテクノロジー。そのギャップにも面白さを感じました。ずっと絵画の勉強をしてきた私からすると、かなりお気に入りになった作品です。
自分事? 他人事?
今回は新作が2点出品されているんですが、その中でも《UN-DEAD-LINK 2020》というピアノを使った作品が好きでした。
この作品は、3Dゲームの中でキャラクターが死ぬと、グランドピアノが鳴り、ゲーム空間と現実が連動するという構造の作品です。リアルにそのときゲームをやっている人とピアノ、そして会場にいる鑑賞者がつながりあっているという、とても不思議な作品でした。だって急にピアノが鳴るんです。初めはどういった仕組みになっているのかわかりませんでした。
エキソニモはこの作品を制作するにあたって、ゲームの中の「死」と、新型コロナウィルスによって毎日のように感染者数や死亡者数が伝えられながらも、その事実を遠いものに感じたり、実感することができないといういまの状況とを重ねながら制作したそうなんです。
確かに、感染者数や死亡者数というのは、単なる「数」になってしまって、情報でしかなくなってしまっている気がします。それにそういった人が周りにいないと、自分事だってなかなか思えないし、自分は感染しないって楽観的になっているとも思うんです。
私はそういった数に強く共感して、想いを寄せてしまいがちです。その人数分だけ、家族がいたり、親戚がいたり、一緒の空間で過ごしていた人がいたりって考えると、ものすごく大きなことだと思うから。たった一人で終わることじゃないんですよね。
このピアノが鳴ることによって、人の命の重さを改めて認識させられる、そんな作品でした。
インターネットって? メディアアートって?
私が生まれたのは1994年ですが、ほぼ同時代から彼らは活動しています。まさに家庭用のインターネットが出てきて、どんどん普及して、いろんなことがちょっとずつ可能になってきた時代と重なるように、私も成長していることに改めて気づかされました。
誰もが新しい技術やテクノロジーでできることを、エキソニモは存分に楽しんで、制作しているなって思いました。初めてエキソニモの全体像を知る人にとっては、自分とインターネットとの関係とか、出会いとか、これまでの記憶や思い出とが重なり合って、すごく楽しめると思います。
実際にパソコンやインターネットが持つ技術や機能を変化させて、実験したり、そこで生まれる偶然性を作品にしたりしているというのは、いままでにないことでとても面白かったですし、アートだなって思いました。むしろ私がずっと見てきたような絵画の延長線上にやっぱりこういうのがあるんだなって、すごく感じたんです。
これまでメディアアートっていうと、テクノロジーだから、最先端な理系の仕組みを操るという印象を持っていたので、あくまでも画面の中の作品という感じで、自分と地続きという感じはしていなかったというのが本音。でもここ半年ほどでちょっとずつですが、意識的に見るようになってから、メディアアートと自分が見てきたアートと何が違うのかっていうことを改めて考えるようになりました。そうやって見てみると、メディアアートは大衆的だなって思ったんです。例えば最新の技術をどんどん使って、たくさんの人を集められるようなエンターテインメント性の高いもの。
でも実際にエキソニモの作品を見ると、それとはまったく違うアート作品。私のこれまでのメディアアートのイメージが変わってしまいましたし、反対にメディアアートってなんだろうって考えるきっかけをもらいました。
今は、インターネットやパソコン、スマホを誰もが当たり前に使用する時代になりました。でもデジタルってなんとなくいろんなことが簡単になりすぎてしまって、あまり実感がなかったりしますよね。自分の手で打ち込んだりしているけど、どこか他人事のような。
そんな中でエキソニモは、自分の実在空間とデジタルの関係を作品の中でずっと探っているんじゃないかなって思いました。実感のなさを現実のものとして我々に突きつけてくるような作品。でもそれらは最先端のデジタル技術だけを使っているわけじゃない。あくまでも私たちの身近にあるインターネットやパソコンから作品制作をしているんですよね。だから自分事として捉えやすい。それがとても面白かったですし、こんな作品を制作している人がいるんだって知ることができて嬉しかったですね。
今回は会場でも家でもエキソニモの作品を体験できるプログラムがあります。それが最後に展示されていた《Realm》。これはスマートフォンとウェブブラウザの2つの方法で接続できるオンライン作品ですが、いろんな仕掛けがあるんです。ぜひこれは皆さんに実体験として参加してもらいたいですね。
それに今回はインターネット展覧会場というものも開設。会場に行かなくても、家にいながら彼らの作品を楽しむことができます。これもこれからの新しい展覧会の形になりそうですよね。
構成・文:糸瀬ふみ 撮影:源賀津己
プロフィール
和田 彩花
1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。