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音楽シーンを撮り続ける人々 第13回 3度の飯より写真が好きな後藤壮太郎

ナタリー

19/7/24(水) 17:00

アーティストを撮り続けるフォトグラファーに幼少期から現在に至るまでの話を伺うこの連載。第13回は、KEYTALKやsumika をはじめ、さまざまなアーティストの写真を撮影している後藤壮太郎だ。中高生の頃はデザイナーを志していたという彼に、カメラマンの道を歩むまでの経緯や写真の魅力を聞いた。

イギリスでカメラを手に取り、写真にのめり込んだ

僕は埼玉で生まれました。スポーツや勉強が得意というわけではなく、映画を観たり音楽を聴いたりしているほうが好きな子供でした。周りにはあまりそういうヤツがいなくて、今考えたらちょっと変わった子供だったのかもしれません。デザイナーの親父と洋楽好きの母親の元で育って、2人から影響を受けました。中学の頃はひたすら映画を観ていて、「将来は映画のポスターを作るデザイナーになりたい」と考えていました。高校に入ってからは、洋楽にどっぷり。母親は特にQueenが大好きで、最近流行っていますけど、「私はQueenの初来日公演に行った」とよく言っています(笑)。

高校を卒業してからは、留学の手助けをしてくれる専門学校に行きました。それからデザインと語学の勉強をするためにイギリスへ1年ほど留学しました。でも、もともと絵やデザインがうまいわけではなくて……少し行き詰まっていたときにカメラを手に取りました。言い方は悪いですけど、写真はとりあえずシャッターさえ切れば写るじゃないですか。そこからどんどん写真にハマっていきました。最初は友達とかを撮っていたんですけど、この頃から「バンドを撮りたいな」という気持ちはありました。

イギリスでは写真の授業もありました。技術的な話というよりは「どういう意図でこの写真を撮ったか」をプレゼンしていくような授業でした。本格的に写真の技術を学んだのは、帰国してから通った写真の専門学校ですね。あまり真面目な生徒ではなかったんですけど(笑)。しかもせっかくライブ撮影のゼミがあったのに、僕は物撮りのゼミに入っていたんですよ。でもライティングのやり方など、このゼミで学んだ経験は今すごく生きています。

出会いに恵まれてる

帰国してからは、音楽をやっている中学時代の友達に写真を撮らせてほしいとお願いしました。パブリック娘。というおちゃらけた名前のラップグループで(笑)、彼らが初めてライブを撮影したアーティストでした。このグループに参加していた森心言さん(Alaska Jam、DALLJUB STEP CLUB)と知り合って、Alaska Jamを撮る機会が巡ってきました。Alaska JamにはKEYTALKの小野武正(G, Cho)さんがいたので、そのつながりでKEYTALKも撮影させてもらえるようになって。KEYTALKとは、ライブ写真を撮り始めて1カ月くらいで出会えたんです。さらにAlaska Jamのマネージャーの林恭太郎さんがsumikaも担当していて、ある日、sumikaも撮ってほしいと言ってもらえました。ちょっと違うけど“わらしべ長者”みたいですよね。

初めて僕の写真が載った媒体は下北沢のフリーペーパーで、白黒のページでした。KEYTALKのライブ写真を載せてもらえて、1mmほどの大きさで「PHOTO:後藤壮太郎」と書いてありました。それでもめちゃくちゃうれしくて、家に持って帰った記憶があります。撮影した当時はもっといい写真が撮れたんじゃないかと思っても、何年後かに見ると「けっこういいじゃん!」と思うことはたまにあります(笑)。撮影の仕方が日々変わっているからかもしれません。

KEYTALKを撮るようになったのは彼らの初ワンマン(2011年11月に下北沢SHELTERで開催されたライブイベント「KEYTALK “SUGAR TITLE” レコ発記念ワンマンライブ」)あたりのタイミングで、メンバーから「カメラマンが就職しちゃっていないんだよね。だから撮りに来てよ」と誘ってもらったんです。撮影に行ったらライブがすごくカッコよかった。今でもKEYTALKを撮らせてもらっていますけど、本当にラッキーだったと思います。sumikaはまだメンバーが3人だった頃、「ソーダ」(2014年11月リリースの2ndミニアルバム「I co Y」収録曲)の制作タイミングくらいに関わるようになりました。そのあと小川(貴之[Key, Cho])くんが入って4人体制になってから、本格的に撮影しています。カメラマンにとって、運ってけっこう大事。僕は出会いに恵まれているなと感じます。

KEYTALKもsumikaもツアーに付いていくことが多いですけど、どちらのバンドもまったく表裏がありません。友達と一緒に旅行へ行って、みんなが自由にライブをやっている間、僕は好きに写真を撮っているみたいな感覚なんです。いい意味で仕事っぽくなくて、「こんな楽しいことが仕事でいいのかな?」と思ってしまうくらい。でもどちらもすごい人気だし勢いもあるので、自分も写真のクオリティを上げて置いていかれないようにしなければという使命感や緊張感もある。そういう意味でもいい関係というか、お互い切磋琢磨してがんばれている気がします。

KEYTALK初の武道館公演

特に思い出深い撮影は、KEYTALKの初めての日本武道館公演(2015年11月「KEYTALKの武道館で舞踏会 ~shall we dance?~」)です。武道館で彼らを撮れるなんて半端ないことだったから、ライブの1週間ぐらい前から緊張しちゃって。普通に考えて、初の武道館公演の撮影なんて場馴れしてる大御所カメラマンさんが撮ってもおかしくないと思うんですよ。でもメンバーに「武道館も頼むよ」と言ってもらえて、うれしさと同時にめちゃめちゃプレッシャーも感じました。あの公演、演出が盛りだくさんだったんですよ。メンバーが床下からポップアップで登場したり、巨匠(寺中友将[Vo, G])がワイヤーで吊るされた状態でギターを弾いたり、ホントにいろいろやってたんです(笑)。だから撮りどころが多くて、1つでも欠けたらまずい。でも当日、メンバーの登場タイミングでめちゃめちゃいい写真が撮れたんです。その瞬間、緊張がすっと解けました。この日に僕がドラムセットの後ろから撮った写真がライブDVDのジャケットになりました。お客さんたちがメンバーにサプライズで携帯電話の光を灯している光景で、この写真はすごくよく撮れたなと思います。

撮影できてめちゃくちゃうれしかったのは、The 1975です。来日公演にも行くほど好きで、10年以内にこのバンドを撮れるようになりたいと思っていました。そう思った何カ月後かにたまたま撮影する機会をいただけたんです。なんてラッキーなんだろうと思いました。そのときに撮った写真は宝物です。当日メンバーに会うタイミングがあって、「今日のライブ最高だったよ、写真撮ったから見てくれよ」と伝えたら「めっちゃいいじゃん」と言ってくれたんです。YouTubeでずっと観ていた人たちに出会えて、仕事で関われて「なんていい仕事なんだろう、夢があるな」と感じました。そのあと高校の頃ずっと聴いてたFall Out Boyの、初の武道館公演も撮影できて。高校のときに一緒にFall Out Boyを聴いていた友達と、自分が撮った写真が掲載された雑誌を見ながら乾杯したのはいい思い出です。

思い描くことを形に

ライブ写真のほかに、ジャケット写真やアーティスト写真を撮る機会もいただけています。最近だとsumikaの「Chime」(2019年3月リリースの2ndアルバム)のジャケ写が印象に残ってます。sumikaのジャケ写を撮るときはいつもメンバーの皆さんと話してコンセプトを決めて、それを形にしていってるんです。彼らなりに思い描いているものが細かくあるので、それをきちんと形にする……なんならよりいい形にしようと撮影に臨んでいます。毎回課題や宿題を与えられているような気持ちですが、その分、形になったあとは充実感と達成感を感じます。どのアーティストもアルバムなどの音源にかける情熱ってすごいと思うんです。収録されている楽曲が“中身”だとしたら、ジャケット写真は“顔”。大事な“顔”の部分を僕に託してもらってる。だから中途半端なものは撮れないし、メンバーが“中身”に込めた情熱と同じ温度感で作らないとダメだと思っています。

sumikaは、メンバー内で共有して「いいね」となった撮影のアイデアを、片岡(健太[Vo, G])さんが僕に話してくれます。sumikaって制作物に思い入れが強いバンドで、昔なんてアー写を撮るときにメンバー全員でロケハンに来てたんですよ。そんなの聞いたことないですよね。最近は来るって言われても「申し訳ないので来ないでください」って言ってるんですけど(笑)。それぐらい情熱があるし、みんなで作ろうという気持ちが強くて。たぶんそれが音やミュージックビデオなど、全部に出てるんですよね。そういう人たちと一緒に仕事ができるのはうれしいです。

アー写やジャケ写とライブ写真では、撮影のときに使う脳みその部分が全然違う。ライブ写真は“今起きていること”を収めるもの。自分でコントロールできるのは画角やアングルだけという中で、いかにカッコよく撮るかが大事だと思っています。アー写やジャケ写は、被写体にどう光を当てるかなどを考えて、自分で作り上げるもの。でも、どちらにも言えるのは、自分がカッコいいと思えるかどうかが重要だということ。僕の中ではキレイかキレイじゃないかとか、美しいか美しくないかとかじゃなくて、カッコいいかカッコよくないかが重要で、それを判断基準にしています。

やりたくない仕事なんてない

大きな挫折はパッと思い浮かびませんが、プチ挫折は日々しています。毎晩のようにほかの人が撮った写真を見て嫉妬してるし。でも「自分は自分だ」って言い聞かせながら続けています。何より写真が好きなんです。カメラマンって、僕も含めて3度の飯よりカメラや写真が好きな人ばかりだと思うんです。常に写真のことを考えている。あと音楽に携わるカメラマンの中にも、音楽への比重が大きい人とカメラへの比重が大きい人がいると思うのですが、僕はカメラの比重が大きくて。もちろん音楽も同じくらい好きなんですけど、どちらかと言われたらカメラのほうが好きです。だから体力的につらいことはあるけど、やりたくない仕事なんてないし、写真を撮るのが本当に楽しい。写真を撮っていれば幸せって感じなんですよね。

好きなカメラマンはグレゴリー・クリュードソンです。僕は作り込んだ写真が好きなんですが、彼は1枚の写真のために映画レベルのセットを作って撮影に臨んでいて。今ってスマートフォンで誰でもキレイな写真を撮れる時代じゃないですか。写真に詳しくない人だったら「これなら俺でも撮れるよ」と思う写真もあると思うんです。でもグレゴリーの写真は、「これは撮れないな」って思うくらいすごい写真ばかり。圧倒的な技術を感じるというか。あとは鋤田正義さんという超レジェンドの写真家も好きです。デヴィッド・ボウイのジャケ写などを撮ってる方で、今も現役で活動されてます。彼が何十年も前に撮影した写真は、今見ても新しく感じるんですよね。僕も80歳ぐらいになったときにそう感じてもらえる写真を残したいなと思います。

肉眼で見た景色を超えた

普段は、頭の中で写真のイメージを固めてから撮影に臨みます。たまに「いい写真を撮るにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあるんですけど、自分の中で「どういう写真がいい写真なのか」を頭に入れて撮影しないといい写真にならないと思います。例えば料理するときも、ある程度完成形を頭に入れておかないと作れませんよね。それと同じで、料理の写真を撮るときは「どんな写真だったら美味しそうに見えるか」を事前に考えておく。常に自分の中で“いい写真”をイメージしてから現場に行くようにしてます。

少しカッコつけた言い方になっちゃいますけど、 “いい写真”って、肉眼で見た景色を超えた写真だと思うんです。目って、カメラレンズのいろいろな数値と比較してもめちゃくちゃ性能がいいんですよ。でも、目よりも性能の劣るカメラで、たまに肉眼で見た景色を超える写真が撮れるときがある。そういう写真を求めて撮影してる部分もあるかもしれません。ポートレートで「写真写りがいい」というのも、ある意味肉眼を超えた写真だと思うし。「どうやったら肉眼を超えた写真が撮れるんだ?」と考えたり努力するのが楽しいです。ゲームやパズルみたいな感覚で、光の入り方や背景、ピントが合う場所とか、1つひとつの要素についてを日々考えています。たぶんこういうことを考えるのが好きなことが、僕が写真好きな理由なんですよね。

もう写真しか考えられない

今後やりたいことはいっぱいあります。今後撮りたい人もたくさんいますし、憧れのバンドを撮りたい気持ちもあるし、家族の目に留まるような仕事もしたい。あとデザイナーの人と一緒に仕事をするのも好きなので、アイデアをぶつけあえるデザイナーさんと一緒に写真を撮りたい。でも第一は、今撮っているバンドたちを“今”撮ることが大事だと思っています。彼らを10年後に撮るのと今撮るのとではまったく意味が変わってくるし、今の彼らを記録に残すことに喜びを感じているので。

もし写真の道に進んでなかったら……音楽をやりたかったです。なんなら昔、ギターもちょっとやろうとしていました。でも「なんか違うな、やっぱ写真だわ」って。もう写真しか考えられない。カッコいい話じゃなくて、写真以外何もないというか、写真にすがってる感じなんですよ。いきなり「サラリーマンになれ!」とか言われても絶対なれないと思います。

後藤壮太郎

1990年生まれ。埼玉県出身。2009年にイギリスへ留学をした際に写真を撮り始め、2011年に帰国。その後専門学校で写真を学ぶ。現在はKEYTALKやsumikaをはじめ、さまざまなアーティストのライブ写真やアーティスト写真、ジャケット写真などを撮影している。

取材・文 / 酒匂里奈(音楽ナタリー編集部)撮影 / タマイシンゴ

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