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片桐仁の アートっかかり!

色とりどりの生地がゆらめくカラフルな空間にテンションup!『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』

毎月連載

第28回

緊急事態宣言に伴う自粛要請により、東京都内の多くの美術館が現在も休館しています。今回は特別企画として、展示の準備が完了していたにもかかわらず、開催が中止となってしまった展覧会『鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に。』の会場である東京ドームシティGallery AaMo(ギャラリー アーモ)を片桐さんが特別に訪問。自身のブランドOTTAIPNU(オッタイピイヌ)のほか、marimekko(マリメッコ)やCamper(カンペール)などのデザインも手掛けているテキスタイルデザイナー・鈴木マサルさんご本人に解説していただきました。

片桐 うわー、すごい空間。まず目に入ってくるのが巨大なテキスタイル! そして色が鮮やか。入った瞬間からワクワクしてきました。なのに、だれも見ることができなかったなんて。

鈴木 お越しいただきありがとうございます。そうなんです、この展覧会は、4月25日から5月9日まで開催予定でしたが、緊急事態宣言が発令されてしまったため、開催されることなく閉幕してしまったものなのです。片付ける前に見に来ていただいてうれしいです。設営は全部完了していて、あとはオープンを待つだけでした。

片桐 それは非常に残念です。僕も昨年の3月に、このギャラリー アーモを会場として展覧会を開く予定だったんですよ。その時の気持ちが蘇ってきました。ぜひリベンジしたいですよね。しかし、圧巻だなー。

鈴木 今回は、いままで制作してきたプロダクトと、新作を組み合わせました。この高さ4.3メートル、幅8メートルの巨大なテキスタイルも新作のひとつ、動物をモチーフにしたものです。天井高が5メートルある空間を活用してみたいと考えたら、こんな大きさになりました。

片桐 ビビッドな色合いがいいですね。軽やかな素材の布だから空調の影響でゆらゆら揺れて動きも出ている。それがなんともいい感じ!

鈴木 揺れて形を変えていくのは、紙とテキスタイルの異なる大きな点のひとつですね。部屋のカーテンが揺れる、スカートの裾がふわりとする、そういった布の動きはテキスタイルと人の間にコミュニケーションを生みだしていきます。そんなコミュニケーションが会場にあるといいなと思い、大きなタペストリーを作って吊るしてみました。今回展示したギャラリー アーモは、空間の基調色が黒色なので、鮮やかな色で覆ってみたらいいんじゃないかなって思い、配色ははっきりとさせています。

片桐 動物がモチーフになっているのですね。

鈴木 僕のテキスタイルは動物や植物をモチーフにすることが多いですね。新作では、見る人が「これは動物かな?」と認識できるぐらい、布とコミュニケーションできる程度まで抽象化させました。単なる抽象的な、幾何学的な柄だと人は見てもなにも思わないのですが、自分が知っている物だと認識すると、認知して考え始める。その素通りと認知の境目を狙いました。

片桐 見た人のその後のアクションまで考えてデザインされているのですね、すごいなあ。

鈴木 この作品は、最後まで目をいれるかどうかを悩みました。目というものはとても力が強いので、ちょっと加えるだけでかわいらしくなりすぎてしまうんですよ。

片桐 なるほど。たった一つの点を入れるだけでも変わってきてしまうんですね。僕はすぐ目を入れます。テキスタイルは奥が深い。鈴木さんは、最初からテキスタイルの道に進もうと思っていらっしゃったのですか?

鈴木 いや、じつは合格したのが染織デザイン科だっただけなんです。当時、日比野克彦さんなどが活躍していた時期で、平面の世界に憧れていたんです。なので、グラフィックデザイン科も受験したのですが残念ながらご縁がなくて。だから、テキスタイルデザインについて知識をもたずに大学に入りまして、知らないことばかりでおどろきました。でも、次第におもしろくなってきたんです。

片桐 そして、天職になっているんだから面白いもんですよね。

鈴木 ここは靴下のコーナーです。socks appealというブランドとコラボレーションした靴下を全て並べました。

片桐 ナマケモノがかわいい〜。なるほど、目が入ると一気にかわいくなるっていうのはこういうことか。

鈴木 作るものの役割や人がテキスタイルをどのように使うかまで考えてデザインすることを意識していますね。靴下に関しては目があったほうがいい。ちなみに、メーカーの方には「色は○色まで使える」といった、織機の仕様を教えていただいているんです。でも、デザインによって制約が変化するので難しくて……。結局いつも自由なスタイルでデザインしてしまっています。

片桐 たしかにどの靴下も左右で柄が反転しているんですね。靴下もこんなに自由にデザインしてしまっていいんだ!

続いての空間もすごい! カラフルな傘が天井いっぱいに!

鈴木 傘は自分のブランド「OTTAIPNU」のものです。作り始めてもう11年。毎年少しずつ新作を発表していって、気がついたらこんなにたくさんになりました(笑)。傘をさしたときに、周囲を含めて人の気持ちが明るくなるようなものにしたいと考えた柄にしています。雨が降って、あまり出かけたくないときでも、傘をさすことで気持ちが明るくなるような、そんな傘を作りたいと思ってはじめました。

片桐 差してみると確かにテンション上がりますね。

鈴木 たまに街で自分の手掛けた傘をさしている人を見かけるんですが、遠くから見ると、道路に花が咲いたように見えてうれしいですね。布地のデザインはシーズンごとに変えていますが、骨組みのデザインは作り始めてからまったく変わっていないです。

片桐 ちょっと大きめで、性別関係なく使えるのがいいですね。

鈴木 ちなみに、以前は日傘も作っていたんですが、製造元のすごく技術のある人が退職してしまって生産ができなくなってしまいました。いったん傘の形に縫製してから刺繍を加えるという難しい技術だったんですが、その人以外できる人がいなくて…。

片桐 傘作りって思っていた以上に属人的なんですね。確かにこの細やかな刺繍は、平面で施すのも大変っぽいのに、傘の形にしてから行うのは大変そう。もったいないな〜。

鈴木 こちらは原画のコーナーです。これまで描いてきた原画を並べてみました。

片桐 しかし、飾り方が独特ですね。いろいろな作品が重ね張り! ひとつずつ額装してもいいくらいのものなのに。紙の上にキャンバスやパネルを配置していて面白い!

鈴木 雑多な感じを出したくて。

片桐 この飾り方は、若干の凹凸があるのがおもしろいですね。単なる平面じゃなくて、2.2次元くらいの感覚でしょうか。でも、僕が思うにこのコーナーはもう少し広くてもよかったのではと思います。展覧会が開催されていたら、多分ここが人気コーナーになっていたはず。

鈴木 そうなんですよねえ。みなさんにも言われました。当初は、あんまり必要がないかなと思っていたんですが、スタッフのみなさんが「どうしても原画は展示すべきだ」って声が強くて。

片桐 そりゃそうですよ。だって、素敵なんですもの。一つひとつの原画がすごく美しい。「こうやって描いているのか」って発見もある。それにしても手描きっていいですねえ。

鈴木 ここは、僕がだれに頼まれているわけでもなく、自分でブランドとして作った生地を吊るしています。

片桐 それが一番楽しいですか?

鈴木 どの仕事も全部楽しいですけれど、一番自由度は高いですね。生地だけなので、なにに使っていただいても構わない。服にする方もいれば、カーテンにする方もいる。僕としては、生地で完成しているので、あとはみなさんでどうぞという。ソファは、5年前の個展で家具のメーカーさんと作ったもので、そのメーカーさんが保管してくれていたので今回展示しました。

片桐 しかし、すごいフォトスポットだ。本当に多くの人に来てもらいたかったな〜。

鈴木 最後がかばんや風呂敷のコーナー。カンペールというスペインの靴メーカーなどとコラボした商品が並んでいます。

片桐 実際の商品が吊り下がっていて、周辺には裁断する前の生地が飾ってあるんですね。この生地が、こんなかばんになるっていうのがよくわかる。

鈴木 生地にはあらかじめ裁断する補助線も引いてあって、この線のとおりに切って、縫い合わせるとかばんになるんですよ。

片桐 なるほどー、平面が立体になる過程がわかりやすい。靴もデザインされたんですね。

鈴木 じつは、今日履いてきました。靴下は先程展示してあったsocks appealのものです。この靴をデザインするとき、当初は机の上でいろいろ考えていたんですけど、アイデアがでなくて、実際にカンペールの靴を買ってきて直接色紙をぺたぺた貼ってデザインしたんです。

片桐 色紙を貼る! ペンや絵の具じゃなくて。

鈴木 それはもったいないからできなかった(笑)。

片桐 ちなみに、カラフルな布地って作るのは難しかったりするんですか?

鈴木 いや、この展示のテキスタイルの多くがデジタルプリンターで出力されたものなんです。最初にみた大きなタペストリーもデジタル出力。染料をインクジェットプリンタのように布に吹き付けて、プリントしているんです。

片桐 そんなことができるんですか!

鈴木 昔ながらの職人さんが手作業でプリントしてくれるテキスタイルも味があっていいですが、デジタルプリントも、それまでは不可能だった柄のテキスタイルを作ることができるので楽しいですよ

片桐 いろいろな技法を適材適所で使っているわけですね。それにしても、気分が盛り上がる展覧会でした。本当だったら沢山の人に見てもらいたかったです。物欲も高まる。いつか、この展覧会を見てもらえるといいですね。

鈴木 そうですね。グッズもたくさん用意していたから、ぜひ開催したいです。片桐さんも準備していた展覧会が開催できることをお祈りしています。

片桐 お互いに、いつか展覧会が開催できるといいですね!

※同展の延期開催については未定。詳細が決まり次第Gallery AaMoのHPにて告知される予定です。https://www.tokyo-dome.co.jp/aamo/

構成・文:浦島茂世 撮影:星野洋介

プロフィール

片桐仁 

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。舞台を中心にテレビ・ラジオで活躍。TBS日曜劇場「99.9 刑事事件専門弁護士」、BSプレミアムドラマ「捜査会議はリビングで!」、TBSラジオ「JUNKサタデー エレ片のコント太郎」、NHK Eテレ「シャキーン!」などに出演。講談社『フライデー』での連載をきっかけに粘土彫刻家としても活動。粘土を盛る粘土作品の展覧会「ギリ展」を全国各地で開催。

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